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堺屋さんの思い出

2019/02/11

時代を鋭く見抜く力

 堺屋太一さんが亡くなった。83歳。新聞記者として堺屋さん、当時は本名の池口小太郎さんだったが、初めて会ったのはちょうど50年前の8月だった。記者としての駆け出しで、あれからおびただしい数の人々に会ってきたが、一番、影響を受けたのは間違いなく堺屋さんである。堺屋さんが小説「油断!」で作家デビューしたころは、私にいくつかの雑誌から堺屋論の原稿の注文が来た。

 50年前の夏休み、大阪で新聞社の社会部記者をしていた私は、病気がちの母親の顔を見に東京へ帰った。意外に元気そうだなと確認すると、することがなくなり、そうだ、大阪万博を考えだした通産省の池口小太郎という役人の顔を見ていこうと思いついた。アポもなく訪ねたら、池口さんはいた(あとでこれが奇跡的なことと分かった)。「昼食べてないだろう?」。池口さんは近くのレストランへ連れて行ってくれた。人生で初めて口にしたフランス料理だった。取材経験もないに等しいので何を聞いていいのか分からない。「来年は大阪万博の年なので元日の1面トップ記事は大阪社会部で書く。がんばってスクープしろと部長が言うんですけど、無理ですよね」。話すべきことがないのでいきなりの内輪話。池口さんは「そら諦めたらあかんわ。探しといたる。見つかったら連絡するわ」という話だった。

 期待もせず、忘れかけていた12月中旬、電話が来た。スクープあげるさかい東京においで、という電話だ。デスクに東京へ行きたいと話したら、どんな内容かも分からずに新人を出張させることはできないという。断りの電話で池口さんはこう言った。「ほなら実家へ帰る用事もあるさかい、そっちへ行ったるわ」。

 大阪・梅田の地下街の喫茶店で膨大な量の資料やら設計図やらを見せられ、それを書き写した。コピーなどない時代である。表紙には「沖縄本土復帰記念沖縄海洋博覧会構想」とあった。年の暮れまでに原稿にまとめ、元日用トップ記事候補として出稿した。東京の経済部から待ったがかかった。通産省の大臣から次官、局長と確認を取ったがそんな構想は存在しない、ということだった。元日の紙面でのスクープは幻となった。正月、池口さんに連絡した。「すみません、根も葉もない話と否定されて」。池口さんは「そりゃそうよ、大臣には教えてないもの。私と佐藤(栄作)総理しか知らない話だよ」。聞けば大阪万博もこの手法で進めたらしい。池口さんはこの時まだ課長にもなっていなかったと思う。記事はその後、1面ではなく社会面に掲載された。

 このあと池口さんは小説「油断!」を書いた。これがペンネーム、と見せてくれた紙に「堺屋太一」。「なんか田舎くさい名前だから池口小太郎のほうがずっといいよ」と私。「堺屋は私の先祖が堺で金貸しをしていた名前。千利休や信長にも貸していたらしいよ」ということだった。

 あれからずっと堺屋さんの書くものを読んでいるが、驚くべき量である。そして内容の深さ、時代の先を読み通す力のすごさ。50年前、彼はこう言った。「今そこいらにたくさんある雑貨屋ね、あれいずれ全部無くなる。何でもそろえているコンビニエンスストアというのができんね」。「子どもの数がどんどん減っていってね、君たちは同学年が250万人くらいだけど、100万人を割り込む時代になるんよ。そうすると高齢者ばかりになって労働人口が足りなくなる」。その通りになっている。

 20年前、朝日新聞に「平成30年」を連載した。もちろん、当たっていないこともあるが住宅新築件数が当時の年間160万戸から70万戸へ激減する、主婦が料理をしなくなり総菜が売れる時代になるなど恐ろしいほど当たっている。

 最近もひんぱんに勉強会を開いてこの先どうすべきか議論を交わしていた。人の意見をよく聞く人でもあった。「あのね、ニッポンはね」と「あ」と「ニ」に強くアクセントを置いた独得の堺屋ブシが聞けなくなるのは実に寂しい。合掌。

 (政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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