讃岐うどん遍路

うどん天国 空前ブームの深層

8.讃岐の宝

素朴さ守り味に磨き

店独自の味とともに文化までもが魅力の讃岐うどん。ブームを経てどんな姿を見せてくれるのだろう(合成写真)
店独自の味とともに文化までもが魅力の讃岐うどん。ブームを経てどんな姿を見せてくれるのだろう(合成写真)

「客足は一向に衰えてませんよ。自然体で今まで以上に堅実にやっていくだけです」

 高松市内のうどん店主は、そう気を引き締める。これまでの讃岐うどんの浮き沈みを経験し、"祭りの後"の怖さを知り尽くしているからだ。

 コラムニストの勝谷誠彦さんは、評判倒れといわれる信州そばを例に挙げ、本場を名乗りながら味が伴わなければ客への重大な背信になると説く。

 「味にうるさいうどん好きがたくさんいる本場で勝ち残ってきているわけだから、今のままこびず、崩さず、手を抜かずが大切ということですよ」

 ◆◆

 「地粉を使ってこそ讃岐うどん」「たとえオーストラリア産小麦でも、讃岐うどんは讃岐うどん。うまい方がいい」。うどん通の間で、よく耳にする議論だ。

 うどん用の新しい地粉をと、県が開発したのが県産小麦「さぬきの夢2000」。もちもち感や風味に優れ、早速採用するうどん店や限定品として販売する乾麺(めん)業者も現れた。しかし、普及にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 本格的に流通し始めたのは昨年産から。本年産は前年の六倍近い約三千トンが販売される見通しだが、それでも県内の消費量の一割にも満たない。県農業生産流通課の担当者は「特徴を出したい店にニーズはあるが、供給が追いついていない。安定供給されないと、導入しにくいですよ」と話す。

 品質についても発展途上だ。確かにもちもち感などは、オーストラリア産小麦より高い。しかし、延びるのが早く、タンパク質の含有量も少ない。「扱いが難しい」と敬遠するうどん店もあるという。「だから『オーストラリア産を超える』とまでは言ってないんです」。

 ◆◆

 多くの業界関係者は「だしの研究をすれば、讃岐うどんの評価はもう一段高くなる」と口をそろえる。

 県内のうどん愛好家らでつくるさぬきうどん研究会の会長で徳島文理大教授の真部正敏さんもその一人だ。しかし、うどん店の中には、ブームに浮かれて味の追求を怠ったり、衛生面の配慮が伴っていない場合も見受けられると指摘。「このままでは積み上げてきたうどん文化が悪い方向にいってしまうかもしれない」と警鐘を鳴らす。

 香川短大学長の北川博敏さんは「健康食品としての特性をもっとPRすべきだ」と力説する。うどんは塩分が多いといわれているが、ゆで上がると麺にはほとんど残らない。「ラーメンなどの脂肪味と違い、うどんのアミノ酸味は生活習慣病予防にもダイエットにも効果的」。

 ブームのせいで素朴さや癒やしの空間が失われていくことを危ぐする声もある。

 十一月下旬、京都からマイカーで仕事仲間二人とうどん店巡りをしていた会社員、菅浪正一郎さんは「香川でしか味わえない味にはまった。うどんも、景色も今のままがいい」と話す。

 「店が小ぎれいになったりしたら、がっかりですよ」。地域に根付いた讃岐うどんは文化や風土まで含めて県外客を引き付けているわけだ。

 北九州市立大大学院教授の井原健雄さんは「人気のうどん店は、いわばこんぴら歌舞伎の金丸座。それらが県内一円に散在していることに、やっと地元が気付いた。地域の宝を大切に守っていくしかない」と強調する。

 「うどんはシンプルゆえに安易さと奥深さを併せ持ち、両刃の剣にもなる」と勝谷さん。現状にあぐらをかき、消えていったブームは数知れない。讃岐うどんがその轍(てつ)を踏まないためには、関係者のたゆまぬ努力と地域の支えが求められている。

 =おわり=

 福岡茂樹、六車禎貴、谷本昌憲、岩部芳樹が担当しました。

(2003年12月11日掲載)

Copyright (C) 2000- THE SHIKOKU SHIMBUN. All Rights Reserved.  
ページの上へもどる