讃岐うどん遍路

うどん天国 空前ブームの深層

1.行列の店

怪しさが遊び心刺激

山里のロケーションも大きな魅力の一つ。橋のたもとにある谷川米穀店には開店前から行列ができる=琴南町川東
山里のロケーションも大きな魅力の一つ。橋のたもとにある谷川米穀店には開店前から行列ができる=琴南町川東

 「もう、あんなに行列が」

 バスの中から、うどん巡りツアー客たちの感嘆の声が上がる。夏休みも最後の平日、琴南町川東の谷川米穀店前には、既に五十人近くが並んでいる。周辺には、習志野、沼津、岡山、愛媛など県外ナンバーのマイカーがひしめく。

 満席のバス客四十人余も列に続くと、あっという間に橋の上まで人があふれ出す。約四十分の我慢の後に店内にたどり着いたツアー客たちは、バスの中で「うどん案内人」から教わった通り、「冷たいの二玉」「熱いの一玉に卵」などと注文。しょうゆや酢を垂らしたり、唐辛子を添えて、うどんをすすり込む。

 「びっくりした。結構、うどんは食ってきたが、これほどうまいとは。まして酢で食うなんて文化が違うと痛感した」。岡山から夫婦で参加の六十代男性はカルチャーショックを隠さない。

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 この後ほぼ一日をかけて、なかむら(飯山町)山内(仲南町)山下(善通寺市)と計四店を巡った。

 「それぞれに麺(めん)が違う。のどを溶けていくようなのや、しっかりとしたかみごたえのあるのまで多彩でありながら、実においしい」「安さも驚きだが、山や田んぼの中のロケーションといいセルフというか客も参加するシステムもとても面白い」

 

 友人と二人で参加の奈良女子大食物科学科三年の中村諭香さんや東京から職場の仲間五人で来た二十―三十代の女性グループ五人は口々に感想を話した。

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 沸騰する讃岐うどんブームの発端は一冊の本に負うところが大きい。「恐るべきさぬきうどん」(一九九三年、ホットカプセル)。県内に約八百軒あるうどん店のうち、これまでほとんど知られることのなかった地域の製麺所タイプの店に光を当て、紹介したのが受けた。

 著者で現在、四国学院大カルチュラルマネジメント学科の田尾和俊教授によると、「こんなブームになるなど想像もしていなかった。当時の企画の狙いは、読者である十代から二十代の若者が、穴場のうどん店情報を面白がって読み、実際に足を運んでくれれば程度の発想だった」という。

 しかし、九五年ごろから、うどん店巡りをする客が増えだし、若者だけでなく中高年にも広がり、県外客も目立つようになった。人気の秘密を田尾教授は大まかに次のように分析する。

 ▽さまざまな面白い店が県内にたくさんある▽店構えやロケーションが、あるがままで面白すぎる▽店へのアプローチや道中がわくわくする▽麺もだしも店ごとに違っていて、うまい上に強烈に安い▽店のおっちゃん、おばちゃんたちのキャラクターが温かい▽うどんを食べるのに自分で何かをする体験が面白い―。

 こうした情報が旅行やグルメ、トレンド、女性雑誌などに引っ張りだこで特集され、テレビの全国ネットでも紹介された。

 「うどん屋を一日かけて何軒もはしごするのは、もはや食事ではなくレジャー。こんな例は、そばやラーメンでは聞いたことがない」(田尾教授)

 現代人が忘れてきたような懐かしさを感じさせるうどんと周辺の素材。それらを遊び心もこめて“怪しい”と面白がる若者層がブームを起こし、大人文化にも広く浸透していったといえそうだ。

(2003年11月30日掲載)

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