全日空機ハイジャック事件で23日、西沢裕司被告に無期懲役を言い渡した東京地裁判決の要旨は次の通り。
【責任能力】
西沢被告の犯行当時の精神状態については、捜査段階に徳井達司医師による精神衛生診断書があり、公判段階でも山上皓鑑定人と保崎秀夫鑑定人による鑑定が実施された。
西沢被告の本来の人格や行動傾向は、保崎鑑定では「知能は高くおとなしい性格であるとともに、追い込まれると抑うつ状態になり、パニックになりやすい」としており、裁判所の認定事実に沿う。保崎鑑定は合理的で相当なものとして十分支持できる。
西沢被告は、中程度のうつ状態にある中で服用していた抗うつ剤などの影響で、犯行当時、そう状態とうつ状態の混ざった混合状態にあり、是非善悪の判断とその判断に従って行動する能力が全く失われてはいないが、著しく減弱していた。心神耗弱の状態にあったと認定するのが相当だ。
「犯行当時アスペルガー障害の状態で、社会適応に困難を来して自殺を決意し、最もふさわしい自殺方法として犯行に及んだ」とする山上鑑定は支持できない。「病的な要因は認められない」とする徳井医師の判断も採用できない。
【量刑の理由】
西沢被告は、羽田空港の警備上の欠陥を指摘して、警備員として採用するように申し入れていたが、警備員を増員しないとの回答を受けたことから就職の道が絶たれたと考え、指摘の正当性を示そうとハイジャックを敢行した。ハイジャックに巻き込まれる他者の被害を全く考えない誠に身勝手で短絡的だ。
航空機を操縦するという計画の実現が不可能になってしまうことに不安感や焦燥感を募らせて、長島機長を殺害したのは極めて身勝手だ。
犯行の動機や経緯に酌量の余地はない。
犯行の態様も、強固な殺意に基づいており、残忍。また、搭乗券を他人名義で購入したり、予備の刃物を買ったり、警備上の欠陥をついて凶器を持ち込むなど周到な準備に基づいた計画的で巧妙なところがあり、犯情は一層悪質だ。
さらに、500人を超える乗客・乗員の命と付近住民の生命財産を害する大惨事を引き起こしていた可能性も高い。
西沢被告の身勝手な欲望のために激烈な攻撃を受けて最期を遂げざるを得なかった機長の絶望感や無念さは筆舌に尽くし難い。遺族の処罰感情も計り知れないほど大きい。
犯罪史上類をみない悪質なハイジャック事案で、航空機の安全な運航に対する社会的な信頼を損なったことも否定できない。
西沢被告の刑事責任は極めて重大で、当時の精神状態の点を除けば、極刑をもって臨むのもやむを得ない事案だ。
犯行当時、西沢被告は抗うつ剤などによる治療の途上に生じたそううつ混合状態による心神耗弱の状態にあったから、法律上刑を減軽することになる。
しかし、動機、経緯、態様、結果の重大性にかんがみると、機長を当初から殺害することまでは考えていなかったこと、西沢被告なりに反省の態度を示していることなどを十分考慮しても、無期懲役の刑に処するのが、相当だ。