普通の人に見えないものが見えている人が時々いる。幽霊だとかオカルトめいた話ではない。本物のプロと呼ばれる人たちのことだ。
本年度の「現代の名工」に選ばれた丸亀市の旋盤工、野下好治さんも、そんな1人だろう。高精度な電器部品を作るのが彼の仕事だが、彼は普通の人には判別できないミクロン単位の精密な加工技術を持っているという。
精密な加工をしようと思ったら、普通は目に頼る。だが彼は、手はもちろん、におい、音までも判断材料にするらしい。そんな並々ならぬ細部への心配りが、普通の人にはできない精密な加工を実現する。
以前、取材で出会ったベテランの救急隊員も、普通の人に見えないものが見えていた。消防署の花形はレスキュー隊員や消防士。救急隊員は比較的地味で、中でも救急車を運転する機関員は日陰のような存在だが、彼の運転技術は輝いていた。
彼は広い区域内のどの道のどの辺りにどの程度の凸凹があるか、すべて把握していた。交差点を曲がる時も、患者の負担が最小限になる曲がり方を工夫していた。それほどの心配りがあるから、彼の救急車は驚くほど静かだった。
何百回、何千回と患者を搬送し、何万回と旋盤を操作する。普通の人なら慣れたり飽きたりして、段々と仕事が雑になってくるものだ。しかし彼らは、どれだけ経験を重ねても、仕事への姿勢を変えなかったのだろう。だから段々と視野が広がり、見えないものが見えてきたのだろう。
どこにいようと、どんな仕事に携わっていようと、忍耐力や意思の力があれば、まぶしい存在になれる。本物のプロの姿がそう教えている。