お金はお金のあるところに集まる。金持ちは多額の元手を利用して、さらに金持ちになる。貧乏人はいつまでたっても貧乏なまま。庶民でも分かる世界共通の理屈を、経済学者が分からないはずがない。
いや経済学者だからこそ、理不尽さに目をつぶれなかったのだろう。ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス博士は、貧困層を対象にしたグラミン銀行の創設者だ。
普通の銀行なら担保のない貧乏人にはお金を貸さない。踏み倒されるのが怖いからだ。ところがこの銀行がユニークなのは、逆に貧困層に絞って貸すところ。なのに回収率は100%近い。
秘密は融資方法にある。数人を一組のグループにし、連帯責任を負わせる。その代わり銀行の担当者がこまめに出向いて、野菜栽培による商売など一緒に返済方法を考えるのだ。ただ貸すだけではない。
といって慈善事業でもない。年利20%程度だから日本の消費者金融並みだ。しかし金利があるからこそ借り手は創意工夫して働く。単なる施しでは生活水準の向上や自立を促せない。そんな考えがあるようだ。
日本人の目から見れば、金銭的には大して豊かになったわけではない。だけど博士が大勢の人生を変えたのは間違いない。融資システムは改良され、今や物ごいすら対象に含まれる。彼のわずかなポケットマネーから始まった事業は、世界六十カ国以上に広がった。
「世界を変える」というと大げさに聞こえるが、実はそうした小さなことの積み重ねこそが世界を革新する。世界平和も貧困解消も、個人が出発点。あなたは最初の一人になる勇気があるだろうか。