どこの世界にも妻の尻に敷かれた夫というのはいるもの。彼らを見てつくづく感じた。新屋島水族館にいるコツメカワウソの中年夫婦、「トロ」(11歳)と「めい」(7歳)のことだ。
彼らはカワウソの仲間で最も小さく、尻尾(しっぽ)を除く体長は40センチくらい。指先が発達しており、えさをやるとピンク色の前足で器用に受け取る。そのしぐさは愛らしく、来館者に人気がある。
だがよくよく観察すると、妻は相当に奔放な性格だ。空腹になると騒ぎだすのはいつも妻。人間の姿を見つけてはピイピイと鳴きわめき、イライラしては夫にかみつく。えさをもらっても、夫の口に手を突っ込んで奪うこともあるから、もはや悪妻と言える。
それでも夫は文句一つ言わない。それどころか飼育員にもらったえさを、わざわざ妻のところに運んでいく。それも自分がまだ満腹になっていないのにである。よほど妻を愛しているのだろう。
「悪妻には一般的な型はない」とは、「悪妻論」の坂口安吾。あるのは個性と個性の相対的な加減乗除だけで、それぞれが足したり引いたりしながら答えを出すべきだと主張した。人生の真理は水族館でも生きていた。
いつも尻に敷かれた風の夫だが、眠る時だけは逆に妻を敷くようにしているという。寒さ対策だけでなく、「敵に襲われた時に雌を守るためでは」と飼育員は話す。人の気配で目を覚ますのは、もちろん夫だけだとか。さぞや妻は幸せな夢を…と思わず隣に目をやるのはあなただけではない。