|
一見きれいに見えた砂浜にも、いろんなごみが紛れ込んでいた。6月中旬、高松市沖の男木島で行われた海浜清掃(NPO法人アーキペラゴ主催)に、追跡班も参加。ビニール袋、ガラスのかけら、たばこのフィルター、プラスチックの破片などが次々と見つかった。だれが捨てたか分からない。こうしたごみは海ごみと呼ばれるが、瀬戸内海の現状は一体どうなっているのだろうか。
 |
| 海底ごみの収集量(クリックで拡大します) |
 |
| 散乱したカキ養殖用パイプ。県内の海岸では長さ約1センチのものがよく見つかる=広島湾(中国四国地方環境事務所提供) |
 |
| 男木島で行われた海浜清掃。プラスチック片など微細化されたごみも目立った=高松市男木島 |
大半が生活ごみ 海の生態系脅かす務
浜辺を埋め尽くすペットボトルや空き缶の山。これら海岸に散乱した「漂着ごみ」は目に付きやすく、日本海側では大問題となっている。ただ、海ごみは「漂着ごみ」だけではない。「漂流ごみ」や「海底ごみ」も漁船の故障や漁具破損の原因となり、エサと間違えた魚や鳥が誤食するなど、海の生態系を脅かしている。
実は、瀬戸内海も状況は変わらない。このような被害報告を受けて、中国四国地方環境事務所(岡山市)は2006年、沿岸6県8市と漁業関係者らで「瀬戸内海海ごみ対策検討会」を設置、3年を掛けて実態調査を実施した。
報告書によると、瀬戸内海全域で現在、漂着ごみが1200トン〜1万6千トン、漂流ごみが約1万立方メートル以上と推計された。カキ養殖用パイプのように作業過程で流出する地域特有のごみも目立つが、大半はプラスチックやビニールなどの生活ごみだった。さらに新たな「事実」があった。それは海底ごみの実態だ。
◇ ◇ ◇
「網に掛かるのは魚よりごみの方が多い」。瀬戸内の漁師から、こんな悲鳴が上がるようになって久しい。漁業関係者のアンケートでも、8割が「困っている」と回答。1回の漁で数十キロのごみが揚がったり、家電製品などの「大物」もあるという。年間数百万円の被害を被る漁協も出ているというから、「海底はどうなっているのか」という声が上がるのも無理はない。
実は海底ごみの実態は、これまでよく分かっていなかった。今回は底引き網漁船を用い、瀬戸内海の12海域53地点で海底も調査。うち52地点でごみが確認され、その量などを基に推計すると、瀬戸内海全域の現存量は1万3千トン以上となった。回収したごみの87%をプラスチック類が占め、大半はやはり、レジ袋などの生活ごみだった。
「昨年だったか、周防灘で飲料水の空き瓶が回収されたんですが、驚きました。1980年代のものだったんです」とは環境事務所の担当者。空き瓶は30年間も海底にあったことになる。
海底ごみは漂着、漂流ごみのように目に見えず、漂着ごみのように、たまりやすい場所も当然分からなかった。ところが、今回の調査で「その場所」が浮かび上がった。
調査した12海域のうち、海底ごみが最も多かったのは1平方キロメートル当たり532キロ回収した燧灘だった。沿岸人口の多い大阪湾周辺を上回っているほか、海底の潮流の調査からも「たまりやすい海域」と推定できるそうだが、調査が十分でなく、研究者の意見も分かれているため、まだ立証されたレベルではない。とはいえ、たまっている量が多い海域を見つけたことにかわりなく、これを効果的な回収につなげなければ意味がない。
◇ ◇ ◇
とはいえ、陸地で清掃できる漂着ごみと違い、海底ごみの回収は漁業関係者に頼る部分が大きいのが現実だ。しかし、積極的にごみを持ち帰る漁師はまだ少ない。
背景には、ごみの処理費用の問題があるようだ。漁をしながら苦労してごみを持ち帰っても、その処理費用を漁師に求める自治体が依然として多いという。これでは、「費用を負担してまで、ごみを拾いたくない」と漁業関係者が考えても無理はない。
漁業関係者の負担を軽減しようと、岡山県は県内に海底ごみ専用のごみステーションを設置し、回収・処理を行政が負担。香川県でも、国の基金を活用した補助を検討中だ。
ただ、海ごみのそもそもの原因は、河川を通じて海に流れ出た生活ごみ。大本を絶たない限り、いくら回収したところでごみがなくなることはない。「極端な話をすれば、山で捨てたごみが海まで流れ着くことがあると知ってほしい」と環境事務所。結局のところ、一人一人の心がけ次第だ。

鹿児島大水産学部准教授・藤枝繁氏 微細化するプラスチック
 |
| ふじえだ・しげる 1991年鹿児島大水産学部水産専攻科修了。2000年から現職。1997年のナホトカ号重油流出事故時、学生とともに災害ボランティアとして参加。以後、海岸漂着ごみなど海洋ごみの研究を始める。専門は漂着物学、航海学。大阪府堺市出身。42歳。 |
瀬戸内海の海ごみは、どのような状況なのか。瀬戸内海海ごみ対策検討会で、実態を調査した鹿児島大水産学部の藤枝繁准教授に、現状と課題などを聞いた。
―調査を終えた感想は。
藤枝准教授 ごみを求めて瀬戸内海の海岸や河川を走り回ったが、沿岸住民約3200万人の「まあいいか」という気の緩みが、こんな状況を生じさせてしまうのかという思いを強くした。研究で終わらせることなく、住民とともに問題解決に向けた動きを積み上げなければならない。
―瀬戸内海の海ごみの特徴は。
藤枝 目立つのは、カキ養殖用パイプや発泡スチロールの破片などだ。ただ、日々使っている生活用品に起因するごみが一番多い。河川や海面には食品包装などのフィルム状プラスチックが多く、これは海底からも大量に発見されており、河川から流入したものが見えない海底でたまっている。海洋に出たごみは潮流で広域に移動し、発生地と違う海岸に集積している。
―年間に瀬戸内海に出るごみの半分以上が外海に流出しているというが。
藤枝 外海から瀬戸内海に入ってくるごみより、外海に出て行く量の方がはるかに多い。太平洋の真ん中、ミッドウェー諸島付近で、コアホウドリの雛の胃の中から、広島地域でしか使われていないカキ養殖用パイプが見つかったという報告もある。日本海側では、中国や韓国から流れてくるごみが問題となっているが、瀬戸内海も発生源の一つだ。ここをきれいにすることは、世界の海をきれいにすることにつながる。まず、このことを知ってほしい。
―プラスチックごみの破片化が危ぐされているが。
藤枝 1990年の海岸清掃では、破片類は全体の30%程度だったが、現在は50%を超えている。海岸にプラスチックごみを放置すると、紫外線などで劣化して微細化してしまう。小さくなると、回収できず、広域に拡散する。
―回収しても回収しても海ごみは減らないようだ。
藤枝 瀬戸内海に年間に出るごみの量は約4400トンに上る。1人当たり年間約90グラムを出している計算だ。これは、重量ベースでみると、空きペットボトル3本分程度。「これぐらい、いいか」が積み重なった結果だ。
―どう行動すべきか。
藤枝 発生量を抑え、回収量を増やすしかない。回収をあきらめると、ごみの現存量は1・5倍に増える。「どんなごみがあるのか」と、海岸清掃などで、ごみの種類を調べながら、拾い集める経験をすることが大切だ。参加者で問題も共有できる。広く浅く啓発するよりも、海岸清掃に一人でも多くの人に参加してもらい、意識を高め、日々の生活での適切なごみ処理にもつなげていってほしい。
【取材】金藤彰彦、山田明広
(2009年7月19日四国新聞掲載)
記事をはてなブックマークに登録する |