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新型インフルエンザの流行が懸念されている。過去には世界的な大流行が3度起こり、約90年前のスペイン風邪では日本の罹患(りかん)者2300万人、死者は38万人という記録が残る。2004年以降、国内では毎年のように鳥インフルエンザによる鶏の大量死が発生、人から人に感染する新型ウイルスへの変異が危惧(きぐ)される。他人事ではない。発生を前提とした準備が必要だ。

ウイルスが突然変異
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| 鳥インフルエンザと新型インフルエンザの関係(クリックで拡大表示) |
死者は千四百五十七―六百六十人に…。新型インフルエンザの流行を想定した米国疾病管理センターのモデル(全人口の25%が罹患、八週間流行)を香川に適用した試算だ。
ひとたび流行すると、社会的な危機を引き起こすといわれる新型インフルエンザ。ウイルスは目に見えないだけに恐怖感が募るが、どのようにして出現するのだろうか。
県薬務感染症対策課などによると、インフルエンザウイルスに感染した家禽(かきん)類に密接に接触すると、まれに人にも感染し、性質を突然変異させることで人から人へと広がるようになるという。
この変異したインフルエンザウイルスを新型インフルエンザウイルスと呼び、そのウイルスによって起こるインフルエンザが新型インフルエンザとされる。
過去には一九一八年のスペイン風邪、五七年のアジア風邪、六八年の香港風邪と十―四十年の周期で新型インフルエンザが出現。中でもスペイン風邪では世界の罹患者が約六億人、死者は二千万人から四千万人と推定されている。国内でも約二千三百万人が感染し、死者三十八万人と驚異的な記録が残されている。
二〇〇三年以降は、ベトナムやインドネシアなど東南アジアを中心に鳥インフルエンザ(AH5N1型)の人への感染が続いており、今年二月十九日までに二百七十三人が発症、うち百六十七人が死亡している。国内でも〇四年一月、山口で毒性の強いH5N1型が七十九年ぶりに確認された後、大分と京都でも発生、人への感染が確認されたが流行は制御された。
しかし、今年も岡山と宮崎でH5N1型が相次いで発生しており、人から人への感染、つまり「新型」の出現が危惧されている。
H5N1型に感染した場合、高熱や咳(せき)、結膜炎、肺炎などを発症。一般的な人のインフルエンザと症状がよく似ているため、インフルエンザのシーズンとなる冬季は診断が困難という。
県は発生に備え、抗ウイルス薬「タミフル」を本年度四万二千人分備蓄、〇七年度にも同数を確保する予定だ。

初期封じ込めに全力
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| 県と高松市が行った新型インフルエンザ対策訓練では初期の防疫態勢を確認した(資料) |
県は発生時の対策行動計画を昨年一月に策定した。国の動きを待たず、全国に先駆けて宮崎県が二〇〇五年一月にまとめた対応指針がひながたとなった。素早い動きの背景には、小豆島などを訪れた外国人観光客による〇三年の新型肺炎(SARS)禍の反省に加えて、「新型インフルエンザはいずれ必ず発生する」(県薬務感染症対策課)という強い危機感がある。
行動計画は、国外で高病原性鳥インフルエンザが発生したレベルTから、海外で新型が発生したレベルW、さらに県内で新型インフルエンザが大流行するレベルZまで七段階を想定。各レベルで取るべき行動をまとめている。県の対策行動計画や厚労省の対策指針案などを基に、県内で「万が一」の事態が発生した仮想ドキュメントをまとめた。
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「新型インフルエンザかもしれない」。二〇××年二月×日、保健所を通じて県薬務感染症対策課に県内の総合病院から連絡が入った。感染が疑われるのは三十代の男性。「高熱が二、三日続き、咳に加えて節々が痛いと訴えている」という。症状的には昨年末から患者が発生しているインフルエンザとほとんど同じ。だが、男性から「商用でインドネシアに行って一週間ほど前に帰ってきたばかり」と聞いた医師は、ここ数日報道されているインドネシアでの新型インフルエンザ発生のニュースが重なった。
すぐに男性ののどから検体を採り県環境保健研究センター(高松市)に送った。ウイルスの確認には一週間以上かかるが、県は対策行動計画に従ってレベルYの体制で対策本部を設置。県内の各保健所に現地対策本部を発足させた。
行動計画では、県以外の国内で患者の発生が疑われた時はレベルXで県の健康福祉部長を会長とする対策連絡会議を設ける。今回の想定ケースでは知事を本部長とし、全庁的な体制で臨む。
県と高松市は昨年十一月、高松市の高松空港検疫所で海外から帰国した人が体調不良を訴え、感染が疑われるとの想定で訓練。初期の防疫態勢を確認している。
県庁内に急きょ設けた専用ルームの本部には、感染が疑われる患者や家族の健康調査、接触者の情報などを一元化してやりとりするため専用電話やファクス回線が引かれ、関係機関から情報収集。男性患者は結果が判明するまで県内に四カ所ある第二種感染症指定医療機関の一つに病原体の飛散を防ぐカプセル式の装置で搬送された。
男性の家族の健康状態ほか、帰国後の立ち寄り先を確認、接触者の把握に全力を注ぐ。
県民から「同じ飛行機で帰ってきたかも」「家族の具合が悪い。新型はどんな症状なのか」などの不安の声が挙がるが、直接医療機関を訪れると感染の拡大や混乱の恐れがあるため、同本部はまず保健所に電話で相談するよう呼び掛けた。
県医師会の協力が不可欠だが、小さな診療所などでは、一般の患者と、感染を心配して来院する患者を分けることは難しく、感染拡大の恐れがある。行動計画は県医師会などと協議しながら策定されたものの、外来患者の振り分けなど具体的な内容までは盛り込まれていない。県医師会は「会員を対象に新年度以降、講習会などの開催を検討したい。だが初期段階で拡散を食い止められないと、手の打ちようがなくなる」としている。
本部は患者の家族や同じ職場の同僚らに自宅待機を勧め、健康状態などを継続調査。もし、複数の感染者が確認されれば、高い致死率が懸念される新型だけに患者の自宅や職場の周辺で住民らの移動を制限することも検討しなければならい。
二月×日、男性から採取した検体からA型ウイルスが分離されたものの、従来の「H1型」で、新型ではないことが判明。ひとまず対策本部は解散されたが、県や保健所は引き続き情報を収集する。
先月、厚生労働省が基本方針としてまとめた十二指針案では、大流行の恐れがあれば、患者の隔離ほか、患者が接触した人の行動制限、さらに発生した地域周辺の交通規制、人が多く集まる集会の自粛、学校の臨時休校なども含まれている。

琉球大学医学部教授・藤田次郎氏
鳥インフル、高い若者の死亡率
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| ふじた・じろう 高松高から岡山大医学部に進み、虎の門病院、国立がんセンターを経て1986年、米国ネブラスカ医科大に留学。88年から17年間の香川大医学部第一内科勤務の後、2005年から現職。専門は臨床呼吸器病学、臨床感染症学。50歳。 |
―鳥インフルエンザの犠牲者が現在最も多いインドネシアで今月九日から開かれた同国の呼吸器学術会議に招待され、講演したそうだが。
「インドネシアでは、高級車とともに観賞用の鳥を飼うのがステイタス。感染の一因として政府は鳥の処分を奨励している。同国では二月五日現在で八十一人の患者が確認され、そのうち六十三人が亡くなっている。病院の治療水準は日本と大きく変わらず、この高い死亡率は驚異だ」
―鳥インフルエンザと人のインフルエンザの違いは。
「最近発表された論文によると、鳥インフルは肺の奥の細胞(U型上皮細胞)に感染しやすく肺炎を起こす。これまでの人インフルは上気道に感染。咳などで外へ飛び散る飛沫(ひまつ)感染により流行の恐れが強かった」
―鳥インフルの方が肺炎になりやすいということか。
「日本でも冬場などによく流行するインフルエンザでは、感染した上気道で肺炎球菌などが繁殖する。若い人に比べ高齢者は抵抗力が弱く感染が広がって肺炎になりやすい。だが、鳥インフルはインドネシアの例では高齢者より、若い人の死亡例が多い」
―何か理由があるのか。
「鳥インフルに感染しやすいU型上皮細胞は、ほかの細胞を修復する力があるが、この細胞自体がやられ、肺炎による死亡率が高くなると考えられる。このU型上皮細胞は若いほど多いようだ。ウイルスが新型に変異して鳥と人の両方の性質を持つと感染力が強くなる。スペイン風邪も鳥インフルが変異したものだったことが最近分かった。患者発生は時間の問題だ」
―インフルエンザは飛沫感染だが、空気感染との違いは。
「飛沫は粒子が五ミクロン以上で一、二メートルぐらいしか飛散しない。ところが五ミクロン未満の小さい粒子は漂いながら十メートルぐらい飛び空気感染と呼ばれる。インフルは飛沫感染で、一般のマスクで感染防止の効果がある。マスクがなければ、ハンカチなどで口を覆えばいい。何もせずに人前で咳やくしゃみをするのが一番いけない」
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岡克典、戸城武史が担当しました。
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