シリーズ追跡 いじめに悩む君へ
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独りぼっちじゃない

 後を絶たないいじめ。あなたは独りで悩んでいませんか。君はいじめていませんか。見て見ぬふりをしていませんか。学校でいじめを考える授業があった。先生も周りの大人も、みんな真剣にいじめに悩む子どもたちの声を受け止めようとしている。県内の相談窓口のひとつ、「香川いのちの電話」のルポとともに今回は、いじめ解消への糸口を探った。

学校現場では

1日も途切れず23年目を迎えた香川いのちの電話。県外からの電話も多いという=高松市内
1日も途切れず23年目を迎えた香川いのちの電話。県外からの電話も多いという=高松市内

 いじめを苦にした児童、生徒の自殺が相次ぐ中、いずれの学校も対応に頭を悩ませている。高松市亀阜小の前田寛文校長は「まずは教師が『いじめは許さんぞ』という姿勢をはっきり子どもに見せなければ」と語る。

許さない姿勢
  「友達をのけ者にしたり、からかったりして、つらい思いをさせるようなことは、先生は絶対に許しません」
  今月初め、亀阜小は全学年一斉に臨時の道徳の時間を設け、いじめについて考えた。
  「みんなの中にも、嫌なことがあって、心がもやもやしている人がいるかもしれません。そんな時は必ず誰かに話を聞いてもらってください。先生に言えなかったら、お父さん、お母さんに相談してください」。三年生の教室では担任の女性教師が児童に訴える。
  「それから、もう一つ。友だちが嫌な目に遭っていたらどうしますか」。男児が元気よく手を挙げた。「先生に相談する」「じゃあ、その子に『黙ってろ』と言われたら」「うーん…」。男児は考え込んでしまった。
  「言ったら、仕返しされるかも」「でも、言わないかんやろ」。ほかの児童が口々に話し出すのを抑えて、担任が呼び掛ける。「知ってて黙っているのもいじめです。必ず先生や家の人に話してください。先生は、クラスの一人ひとりが輝くのが楽しみで先生になりました。みんなが輝くクラスをつくるために協力しましょう」。

生徒から指名
  「生徒から年間に十件ぐらい、いじめに関する相談がありますね。該当する加害生徒を呼んで事情を聴くと、必ずといっていいほど言い訳をする。昔の生徒はすぐに認めて反省していたんですが」。東讃の中学校に勤務する教頭はこう証言する。
  いじめは教師や保護者らの目の届かない場所で起こっている。このため、この中学では以前から年二回、教育相談週間を設定。生徒から指名を受けた教師や学校カウンセラーが、さまざまな悩みなどを聞き取る。指名制度にすることで、学級担任には構えてしまう生徒でも積極的にしゃべってくれるという。
  だが、問題の解消は簡単ではない。特にいじめでは加害者側の生徒の保護者に連絡すると、「うちの子は遊びやと言っている。どこにいじめた証拠があるんだ」と学校に怒鳴り込んでくるケースが多いと教頭は打ち明ける。
  この教頭は「従来の指導方法が通用しなくなっている」と現状を危ぐしながら、「学校は生徒や保護者からの情報が入りやすい環境を構築することがまずは必要だろう」と強調した。

 

大人はどう対応すれば

いじめられっ子に非なし 寄り添う姿勢が大切

大人のいじめ対応姿勢5カ条
大人のいじめ対応姿勢5カ条(画像クリックで拡大)

 周囲の大人たちはいじめにどう対処すればいいのか。元公立中学教諭・教頭で現在、香川大学教育学部で学校の危機管理や生徒指導の講義を担当する阪根健二助教授に話を聞いた。
     ◇   ◇
  ―いじめの定義は何か
  本人が苦痛と感じれば、いじめと考えた方がいい。文部科学省は「自分より弱い者に対して一方的に身体的、心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻に感じているもの」と定義するが、それはあくまでも調査のための基準でしかない。本人が傷つき、いじめと感じるのであれば、いじめと認識し、対処すべきだ。

  ―いじめの原因は
  複雑な要素が絡み合っている。自分より弱い立場の人間をつくることで、その集団・人間関係の安定化を図ろうというもの。大人の社会と同じだ。一般的ないじめは被害者(いじめられっ子)と加害者(いじめっ子)、周りではやし立てる観衆、見て見ぬふりをする傍観者の四層構造といえる。当事者だけでなく、周辺の影響も大きい。

  ―教師や周りの大人はどう対処すればいいのか
  いじめた者は誰だ、といった犯人捜しは意味がない。なぜなら、いじめの元凶は観衆や傍観者という周辺にあるのだから。いじめられっ子を追い込み、孤立させることで周りは優越感に浸る、自分に危害が及ばない安心感を得ることができる。私は「いじめられっ子に非はなし」との立場に立つことが最も大切だと考える。

  ―いじめられっ子にも問題があるとの指摘に対してはどう思うか
  教師や大人がいじめられっ子といじめっ子の間に中立でいると、結果的に「双方に問題あり」との立場になってしまう。すると、大人の目が届かなくなった子ども集団の中では、明らかに強者が優位に立つ。どちらに緊急性があるか、孤独を感じているのかを考えると、完全な中立ではなく、大人はいじめられっ子の側に立つ姿勢が大切。どんな場合でも、いじめられっ子に寄り添うべきだ。

  ―学校の対応、危機管理に不満の声もある
  金を脅し取ることは恐喝。チビ、デブ、キモイ、ウザイと言葉でからかう行為は人権侵害。「君たちがやっていることはいじめではなく、犯罪行為であり、人権侵害だ」とちゃんと教えるべき。いじめた子どもの人権への配慮や教育委員会、地域の視線を気にするあまり、いじめを認めにくい学校の事情も理解できるが、「いじめを認めない」ではなく、「いじめは必ず対応できる」との姿勢を打ち出してほしい。

  ―陰湿化し、なかなかいじめに気付きにくい
  ちょっとした子どもの変化に気付き、大人から声を掛けるべきだろう。気持ちの優しい子ほど、親や先生に心配を掛けたくないから、言い出せないでいる。それに子どもにもプライドがある。十数年前から、いじめについて意見を募るホームページを立ち上げているが、八月の愛媛県今治市の中一男子のいじめ自殺以来、相談件数が倍増。子どもたちは心の底では「私の苦しみに気付いて」「知ってほしい」と叫んでいるのだ。

  ―相談しにくい雰囲気もあるようだが
  子どもたちには、身近な大人、信頼できる人に、まず声を掛けてと言いたい。相談しにくいのなら、直接、利害関係のないメールや電話相談もいい。窓口が複数あれば、子どもたちは相談しやすいツールを選ぶことができる。受け手は「君だけじゃない。味方になるよ」といった雰囲気づくりが必要だ。真剣に本気で受け止めて対応すれば、いじめは必ず解決できる。

 

香川いのちの電話

あなたの声、聞かせて

県内の主な相談窓口
県内の主な相談窓口(画像クリックで拡大)

 何も言わず、切れてしまった。迷っているよう。これで二回目。
  また電話が鳴った。「もしもし、いのちの電話です」。
  ベテランの女性相談員が受話器を手にした。相手は何もしゃべらない。しばしの沈黙。「こんばんは」。耳を澄ましていた相談員が切り出した。
  「話づらいの? 苦しそうね」。壁に掛けられた大時計の秒針がカツン、カツンと進んでいく。二畳ほどの電話ブース。空調の音だけが響く。ようやく、電話の相手が話し始めたようだ。

抱きしめたい
  「聞いてるよ」。受話器を握った相談員がうなずくように頭を下げる。「ゆっくり話を続けて」「つらいよね。抱きしめてあげたいわ」。
  香川いのちの電話が開局したのは一九八四年十月。九六年からは受付時間を二十四時間に拡大した。台風で相談員が来られるか危ぶまれたこともあったが、これまで一日も休まず二十三年目を迎える。二十三歳から六十三歳まで約百三十人の相談員は、みなボランティア。毎日四時間ずつ交代で受話器を握る。

1日400件
  「電話してくれるのは、きょうが初めて?」「つらい時は、いつでも電話してね」
  話は終わりそうで終わらない。相手が切りたくなるまで、静かに、ゆっくりと寄り添う。
  ガチャリ。控え室にある留守番電話のテープが回り始めた。「ただいま回線がふさがっております」。電話機が表示するデジタルの赤い数字が一つ増えた。話し中で取れなかった累計本数。一日四百件前後の電話があるが、一本の会話が数時間に及ぶこともあり、すべての電話に対応できないのも実情だ。
  ベテラン相談員によると、深刻な相談が多いのは深夜から明け方にかけて。受話器を置くころには朝日が昇り始めている。「何とか無事に朝を迎えてくれた」。夜の闇をくぐり抜けた瞬間。確かめようはないが、電話の向こうの相手もそう感じていると信じたい。
  「話し始めた時より、少しでも声に明るさが感じられると、まずは安どできる」。一息ついたのもつかの間、また静かに電話を待つ。

 広瀬大、山下和彦、岡克典、戸城武史が担当しました。

(2006年11月26日四国新聞掲載)


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