シリーズ追跡

全国に広がる子育てタクシー

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母親後押し共感呼ぶ

 高松で全国子育てタクシー協会が発足した。県内で子育てタクシーが走り始めて約2年。その動きは今や、全国に広がりつつある。子育てタクシーを企画した母親たちのグループには、どんな思いがあったのか。利用者や業界の反応は…。さまざまな家庭の事情を乗せて、きょうも走る子育てタクシーの現状を追った。

発足の経緯 不安解消へ手助け
子育てタクシー
子育てタクシー

 「子育て中の母親は家に閉じこもりがち。二人の子を連れていると運転にも集中できない」「急な残業で子どもの迎えに行けない。おばあちゃんは車の運転できないし」
  育児を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)「わははネット」(中橋恵美子理事長)に寄せられた母親たちの声だ。家に閉じこもりがちで気がめいってくると、子どもに当たりかねないし、仕事と子育ての応援もしたい。ほんの少し、手を差し伸べるだけで、これらが解決できるうまい仕組みはできないか。女性が社会とかかわり続けることはできないだろうか。
  そんな発想でわははネットが注目したのが、タクシーの活用。公共性がありながら、玄関先から玄関先まで小回りが利く。何より運転はプロ、安心して身を委ねられる。ところが母親たちにアンケートをしてみると、「近距離でイヤな顔をされた」「子どもを抱えているのに、ベビーカーの折り畳みも手伝ってくれない」。ぜいたくな乗り物という意識もあり、子育て中の母親にとってタクシーは、近くて遠い存在だった。

子育てタクシーの歩み
子育てタクシーの歩み

  タクシーと母親たちの距離を縮めたい、乗務員にも県が推進する子育て応援団の一員になってもらいたいと、二年前にわははネットが企画したのが子育てタクシーだ。
  母親たちのニーズも吸い上げた。どうせなら、子育てに理解のある乗務員に運転を依頼したいし、それには分かりやすい目印も必要。道路交通法でタクシーやバスに乗る場合、ベビーシートなどの使用は免除されるが、「ずっと抱くのはしんどいから、シートの準備もあれば助かる」。
  ベビーシート装着や保育の実技など、研修システムを整え、「子育てタクシー」のステッカーも準備。タクシー会社にはシートの用意などで新たな負担を強いるが、子育て情報誌の読者で二児の子育て中だった花園タクシー(高松市)の鎌野実知子社長の協力で運行が始まった。
  親子連れ、子どもだけの利用、病院への搬送など、想定されるメニューを用意。子育てに追われ、日ごろ、情報に接する機会の少ない人のために、子育て情報を提供するサービスも実施している。
  何より香川で始まった子育てタクシーの特徴は「(一定の研修を義務付けるなど)きちんとした人材育成システムとネットワーク化」(国土交通省自動車交通局旅客課・岡野まさ子課長補佐)という。
  中橋理事長は「運転なら、プロのドライバーが信頼できる。要は社会の中でそれぞれの持ち場、立場で子育てに理解を示してくれる人を一人でも多く増やし、子育てが楽しいと実感できる環境をつくること」と、子育てタクシーを走らせる意義を強調する。
  現在、県内では九事業者で約七十人が子育てタクシーのドライバーとしての研修を終えている。

利用者=厳しい育児環境 個々のニーズ対応望む

子育てタクシーの車内にはベビーシートも用意。研修を受けた乗務員が目的地まで案内する(資料)
子育てタクシーの車内にはベビーシートも用意。研修を受けた乗務員が目的地まで案内する(資料)

 「○○タクシーの△△ですが、昇平君=仮名=のお迎えにまいりました」
  高松市郊外の小学校。午後六時前になると、ひっきりなしにわが子を迎えにやってくる母親たちの姿がある。その中に交じって、制服制帽のタクシー乗務員。「先生さよなら」。そうあいさつすると、小学二年生の昇平君は、乗務員に手を引かれてタクシーに乗り込む。自宅まで約一・五キロ、乗車時間は五分ほど。自宅には誰もおらず、母親が帰宅するまでの一時間あまりをたった一人で過ごす。
  「大人から大人へ、確実にお子さんをお連れするのと違って、誰もいない家にお送りするのは気が気ではない。この辺り、不審者情報もありますから」と乗務員。「責任を持って自宅にお連れし、ちゃんと鍵をかけるのを見届けるまでが私の仕事です」。
  高松市で実施している留守家庭児童会、いわゆる学童保育は午後六時まで。親たちの迎えが原則で、迎えがない場合、下校時間に合わせ、帰宅するのがルールだ。
  昇平君の家庭は母子二人暮らし。会社事務の母親・幸枝さん(38)=仮名=が仕事に復帰した生後八カ月から、保育所に預けられた。ご近所は親切にしてくれるが、迎えを頼んで万一事故に遭えば、逆に近所付き合いが気まずくなると思い、気軽に甘えることができないでいるという。近くに頼る親類もいない。

子育てタクシーを利用する子ども(資料)
子育てタクシーを利用する子ども(資料)

  「タクシーはぜいたくという人もいますが、ベビーシッターにお願いすると一時間千五百円。夜遅くまで見てもらえる託児所だと、月額三万円近くの出費。それに学校までの迎えがないから二年生の子が歩いて、託児所に通わなければならない」と幸枝さん。「できるだけそばにいてやりたいけれど、十五年勤めた会社を辞めて、パートに出るとそれこそ生活できない。だから、小学校に上がってからは学童保育を利用し、必要な時だけ、お迎えをお願いしているんです。ちょっと寂しい思いをさせていますが…」。
花園タクシーの鎌野社長によると、同社では毎日十件ほどの依頼があるという。利用目的は親子連れだと、通院、買い物、幼稚園送迎、子どもだけの場合は、保育所、塾・習い事、託児所への送迎が上位だ。「ベビーシートが利用できて楽だった」「玄関まで荷物を運んでもらえて助かった」などの声のほか、幸枝さんのように「仕事と子育ての両立で悩んでいたが、仕事を辞めずにすんだ」といった声も寄せられている。

なぜ香川から=NPOと企業が連携

全国子育てタクシー協会設立を記念して開かれたフォーラム=高松市内
全国子育てタクシー協会設立を記念して開かれたフォーラム=高松市内

 全国で同水準のサービスが受けられるよう、乗務員研修などの指針やノウハウづくりを目指そうと発足した全国子育てタクシー協会。その旗揚げは、全国でも関心を集めている。十七日に開かれた協会設立の記念フォーラムには、北海道から九州までのタクシー事業者約三十社のほか、育児関係のNPOなど約百二十人が詰め掛けた。
  子育てに着目する発想自体は意外に古い。国土交通省が同様のサービス(育児支援輸送)を行う全国十五社を対象に行ったアンケート調査(二〇〇五年三月)によると、サービスの開始は新規参入しやすくなった〇二年の規制緩和前後が大半だが、一九八四年から始めている社もある。
  サービス内容も、保育所や幼稚園などへの送り迎えが主で、子どもだけで乗車できるよう工夫する事業者も多く、県内で取り組む子育てタクシーの路線とほぼ同じだ。
  それなのに香川の動きにスポットが当たるのはなぜか。フォーラムに参加した日本交通小田原(神奈川)の片岡哲二営業企画推進室長は「(香川の)子育てタクシーは、タクシー会社が自らやり始めたのではなく、ニーズを感じている人、『わはは』の声に応えてのサービス提供だから、成功したのでは。うちも人材育成など協会のノウハウを得て子育てタクシーを始めたいが、地元の子育てNPOを支え、育ててこそ仕事が生まれる」と話す。
  山口の宇部構内タクシーは協会に加入し、下関の系列会社とともにサービスを今春スタート。地元託児所の提案がきっかけだったが、「自社では乗務員の教育ノウハウがなく、加盟した。全国組織になれば広く認知してもらえる。当社は小学生までの子どもを対象に一割引きの特別運賃を設定している」(福島真一社長)とこだわりをみせる。
  フォーラムでコーディネーターを務めた香川大副学長の加野芳正教授(教育社会学)は、「車社会の進展で公共交通機関が衰退し、不便を感じている人が多い。子育てが苦痛、楽しくないという声もある中で、そのニーズに応える意義は大きい」とみている。
  子育てタクシーが広がるかどうか、鍵を握るのは、やはり利用料金。国交省は、アンケート調査や実証実験を踏まえ、日常的に使う利用者の負担を軽減するため、乗り合い方式の割引料金や定期券、回数券などを提案。一方、育児支援という付加価値のサービス料金を加えた特別運賃の設定や業務が増える乗務員への対応として、固定給制の導入や定年退職者の人材活用などを挙げている。

 山下和彦、戸城武史が担当しました。

(2006年6月25日四国新聞掲載)


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