| 香川の交通死亡事故のうち、高齢者の占める割合が、二〇〇四年も全国ワースト上位となった。過去二十年間でワースト一位が六度、ワースト二位も三度を数える“常連県”。死亡事故が二けたに抑えられたここ三年間もワースト四位、六位、六位と続く。限りなく100%に近い道路舗装率。道路密度は大阪、東京、愛知といった大都市圏に次いで全国四位。「県土の広さに比べ、走りやすく、整備された道が多いのが香川の道路事情。当然、事故の確率も高い」という。一方で「交通マナーの悪さ」を指摘する声も少なくない。なぜ、県内で高齢者の交通死亡事故は多発するのか。よく起きる事故パターンを紹介するとともに、汚名返上へ、何をなすべきかを今回は考える。

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| 県内の死亡事故 高齢者の占める割合と全国ワースト順位(クリックで拡大) |
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高齢者の交通死亡事故の特徴
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昨年、県内の交通事故で亡くなった八十六人のうち、六十五歳以上の高齢者は四十六人で、全死者数に占める割合は53・5%。全国平均(41・4%)を10ポイント以上、上回っており、全国ワースト六位。人口十万人当たりの死者数(全国ワースト九位)とともに、不名誉な記録となった。
過去二十年間でも、高齢者の占める割合は一九九五年と二〇〇一年を除き、香川はワースト十位以内の“常連県”でもある。
「死者数は三年連続で二けた。でも、高齢者が犠牲になる割合は三年連続で五割超。高齢者向けにパンフレットを作ったり、交通教室を開いてはいるんですが、なかなか決定打がなくて…」と県警交通企画課の担当者の顔はさえない。
●衰え知らず…
高齢者の交通死亡事故の特徴は別表の通り。事故現場は自宅近くに集中しており、歩行中と自転車に乗っている場合が八割近くを占める。時間帯では、よく言われている薄暮時がデータからも裏付けられた格好だ。月別では、外出には季候がよいものの、夕暮れが急に早くなる九月から十一月にかけてが多い。
数字には表れていないが、近年の特徴として挙げられるのが、新しくできた交通量の多い幹線道や幹線道と旧来の道、つまり生活道が交わる交差点での事故も目立つ。
「交通環境が著しく変化しているのに、道ができる以前と同じ感覚で道路を横断していて事故に遭うケースです。長年、なじんだ生活習慣はなかなか改められない」(県警)ようで、加齢による視力や聴力、体力の衰えの無自覚とともに、大きな事故原因になっているようだ。
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| 事故多発県からの脱却を目指し、取り組みを協議する県交通安全教育推進会議=24日、県庁 |
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●新たな課題も
よく見掛けるようになった電動車いす対策も、急がれる。
福祉・介護用品の販売・レンタル業者の専門相談員によると、県内でも介護保険の導入とともに需要は増えており、特に山間部でのニーズは多いという。「自転車やバイクを卒業して乗り換える傾向があり、そんな人ほどスピードに慣れているようだ」と相談員。
道路交通法上、電動車いすは歩行者扱い。つまり、右側通行が鉄則で、歩道がある場合は歩道を走らなければならない。だが「現実は段差のある狭い歩道が多く、右側通行だと車両と対面し恐怖感があるため、車道の左側端を通行する場合が多い」と県警の担当者。
電動車いすの速度は人の速足並みの時速六キロが最高速度で、ドライバーにすれば、スピード感がつかめず、後ろから追突したり、引っかけてしまうケースが事故の代表例だ。「身体機能に何らかの障害がある人が多く、事故回避の操作も遅れがち。無資格で操作できるため、ある程度の規制が必要だし、周囲のドライバーも、電動車いすの利用者がどんな人たちか十分認識しておく必要があるのでは」と、前出の相談員は指摘する。
高齢者自身の自覚を促す声もある。「車が止まってくれるだろうと思った」「安全確認はしたつもり」。事故に遭った高齢者の多くはこう答えるという。
交通事故を分析すると幾つかの多発パターンがあるという。県内で起きた実例を基に、県警交通企画課に傾向と対策を聞いた。
★高齢者が歩行者の場合
<午前十一時ごろ、新しくできた片側二車線のバイパスの信号のない交差点を乳母車を押して横断中の八十代女性が、横から来た乗用車にはねられ死亡した>
同課によると原因は、歩行者の車前横断と運転者の前方不注視。現場は昼間の見通しのよい直線道路、「なぜこんな所で」と思う個所での事故が多いという。分析によると▽高齢者は新バイパスなど新しい環境に順応しにくく、自分が思った以上に早く車が来てしまう。まして乳母車を押していれば視野は非常に狭くなる▽運転者の方も見通しがよく、速度オーバーしがちで、横方向への注意ができなくなる―。
★高齢者が自転車の場合
<午後十一時ごろ、県道交差点で五十代男性の軽トラックが、前を走っていた七十代男性の自転車に追突し、自転車の男性が死亡>
原因は軽トラック側の前方不注視と自転車側の右折の際の安全確認違反。同課によると自転車の事故で最も多い例という。夜中なので自転車側は、ライトで照らされ後続車がいることは分かるはず。右後方を確認しようと首だけ回したつもりが、体も自転車も右に向いていたというケースがよくあると担当者。
軽トラック側は、前方に自転車がいれば、十分に動きに注意し、いつでも事故が回避できる速度で走るのが鉄則。
★高齢者が運転者の場合
<午後三時ごろ、県道交差点で六十代男性の軽トラックが、横から来た五十代男性の乗用車と出合い頭に衝突、軽トラックの男性が死亡>
原因は軽トラック側の一時不停止と乗用車側の左右の安全確認違反。高齢者がドライバーの場合、多いのが標識などの見落とし。通い慣れた道ほど、油断しやすく怖いという。乗用車側も優先道路でも、漫然と交差点に入るのではなく、対向車があるかもしれないという危険予測が必要。

本人教育決め手なし 長期的な体質改善必要
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◆まさおか・としろう 一九六二年生まれ、松山市出身。香川大大学院経済学研究科修士課程修了。高松短大講師などを経て二〇〇〇年から現職。専門は地域経済学、地域間人口移動など。〇二年から県交通安全教育推進会議の評価専門委員を務めている。 |
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―交通安全、特に高齢者の問題に取り組むきっかけは。
正岡利朗助教授 一九九八年に県警本部の委託を受け、高齢者交通事故調査研究会のメンバーとして原因や対策などを研究したのが始まり。事故の実態分析、県民の意識調査、全国との比較などを行った。
―どんな結果に。
正岡 簡単に挙げると▽他府県でも発生している交通事故パターンが、香川ではより高率に発生し香川独特のパターンはない▽前期(六十五―七十四歳)、後期(七十五歳以上)や男女の差はない▽道路別では一般国道に事故対策の重点を置くべき▽事故の個所別では信号のない交差点、平たんな直線路への対策―などだ。
―平たんな直線路とは意外だが。
正岡 「なんでこんな所で」。事故現場の臨場調査での第一印象だ。事故多発個所のうち、特に注目するのは平たんな直線路。高齢歩行者の直前横断と運転者の漫然運転が主因だが▽高齢歩行者が横断歩道以外の個所を横断するのは特別な理由があるか、基本的交通ルールの意識が欠落▽運転者が漫然運転を行ってしまうのは不注意か、道路施設に漫然運転を誘発する要因がある―などが考えられる。
―高齢者に特有の問題があるのか。
正岡 向こうがよけてくれるだろうとか、自分の行動を分かってくれるだろうとの相手頼みの甘えが、高齢者が歩行者や自転車、運転者となった、いずれの場合にも共通する。自宅前に新しくできたバイパスを車の直前で横断したり、道路の真ん中を自転車で走る。方向指示器を出さずに路線変更や右左折するなどだ。積極的に自分の行動の手掛かりを相手に示し、相手の立場に立って考えることができない。交通危険学でいう「立場の交換」ができていないところが問題だ。
―対策はあるのか。
正岡 高齢者に対しては地域の老人大学などで交通教室などを通じて啓発したり、家庭訪問なども熱心にやってはいるが、実効が上がらない厳しい現実がある。背景には交通安全教育に対する無理解が全世代にあると考える。予防に価値を見いだしにくく、もうけにつながらないから専門家も育ちにくい構図だ。
―どうすれば。
正岡 地域、職域、学校などで危険予測の考え方や立場の交換などを地道に教育していくしかないだろう。特に四輪ドライバーへの教育、なかでも職場教育が、遠回りのようで根源的解決につながると考える。現役世代が、より気を付けることで高齢者の被害を減らすとともに、将来的には、しっかりした安全意識を身につけた高齢者になってもらうのが狙いだ。職場にとっても健康診断や避難訓練のように年一回義務づけるなどすれば、事故による人員の損耗を考えると決して損にはならないはず。今、安全教育のための動画を使った教材を作っている。職場や地域で活用して危険予測を学んでほしい。短期・即効の対策は難しく、香川の場合は長期的な体質改善が必要と考える。
山下和彦、岩部芳樹が担当しました。
(2005年11月27日四国新聞掲載)
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