シリーズ追跡 高松にカラスの大群なぜ
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危険を察知、集団自衛
 グワッー、カーカー、けたたましい鳴き声とおびただしい数の黒い影が薄暮の空を席巻する。まるでヒチコックの世界を思わせる光景が高松市内で繰り広げられている。カラスの大群だ。それも千羽を超える群れが、栗林公園の北、三、四百メートルの範囲内に夕方、大集結しているのだ。ひときわ高いビルの屋上や電線、アンテナ塔などの上には、横一列に並び“めじろ押し”状態。飛び去った後の道路や駐車場の車の上には、白ペンキを流したようなフン害が残る。一人で帰宅途中の小学生が五、六羽に上空から襲われかけたという証言もある。なぜ今、この場所に大集結するのか。生態や習性とともに被害の実態を追った。

専門家と見る=塒の異常敏感に 学習能力で生態系の“頂点”

 追跡班は十一月九日の夕方、高松市中野町で、野鳥に詳しい香川大学非常勤講師の山本正幸さんとともにカラスの大群を観察、生態や行動を解説してもらった。

 <九日午後四時三十五分 観測開始>

 カラスは三月―七月は繁殖期。ペアで行動するのが基本だが、繁殖が終わる夏を過ぎると、集団塒(ねぐら)行動をとるようになる。よく目にするのはハシボソとハシブトの二種類。ハシボソは高松規模の市街地や田、川がある場所を好み、ガーガーと鳴く。ハシブトは山地を好むほか、東京などの都会にも住みついていてカーカーと澄んだ音色で鳴くのが特徴という。

 <同四時四十分 中野町のAビルの屋上に十七羽を観測。うちハシブトガラス三羽、ハシボソ十四羽>

 山本さんが望遠鏡でくちばしや額の特徴を確認しながらカウント。「ハシボソが圧倒的に多く、ハシブトは一割程度。混成型かな」

 <同四時四十五分 二、三羽ずつが三々五々集い四十七羽に。うちハシブト八羽、ハシボソ三十九羽>
 <同四時五十分 約五十羽の一団がAビルに飛来し、これまでいた一団と入れ替わる>

 この近辺では紫雲山塊の二カ所が塒と確認されている。一つは栗林公園の北側に連なる稲荷山、もう一つは石清尾山。上部がよく茂った背丈の高い常緑樹などを好み、人家や道がある場所は選ばないようだ。警戒心の強さがうかがえるそうだ。

 <同四時五十五分 北からどんどん飛来し一気に増え出す。近隣のビル屋上の一辺に等間隔に並ぶ。Bビルの屋上だけで七十羽。視界の届く範囲だけで約三百羽。ガーガーと濁った鳴き声からハシボソが多いと分かる>
 <同五時五分 視界内だけで約五百羽に。Bビルの百羽くらいの群れが飛び立つ>
 <同五時十分 街灯がともる。約千羽になる>

 「これは千羽を超えているかもしれない」と山本さん。なぜ、こうした大群になるのか。「詳しいことは解明されていないが、考えられるメリットは天敵に対する集団自衛でしょう。特に、夜間の天敵発見に便利なのでは」

 <同五時十五分 稲荷山の中腹より下部分に百羽が一斉に飛び込む>
 <同五時二十分 稲荷山の東斜面の広い範囲に次々と群れが入っていく>

 「生態系のほぼ頂点に立つ存在になっているのでは」。その一例として山本さんは、カラスの学習能力の高さを挙げる。よく知られているのでは、貝を高い所から舗装道路に落としたり、車にひかせて割って餌にする。“遊び心”とでもいうのか、小さな子供だとからかったりもするという。「経験したことを覚えていて、身の安全に役立てているんです」

夕暮れとともに集まってくるカラス。グワーグワーと群れる様は異様な雰囲気を醸し出す=高松市中野町
夕暮れとともに集まってくるカラス。グワーグワーと群れる様は異様な雰囲気を醸し出す=高松市中野町

 <同五時三十分 塒へ帰るクライマックスか>
 <同五時四十分 ビル街からは、ほぼいなくなる>

 「タカなど猛禽(もうきん)類の繁殖率が落ちているのも、ひなや卵を狙うカラスの勢力拡大が影響しているのかもしれない」。山本さんはシルエットになった稲荷山の稜線(りょうせん)を眺めながらつぶやいた。
 日本鳥類保護連盟専門委員の岡憲司さんによると、稲荷山では十月下旬から十一月末まで、松くい虫防除のため枯れ木を伐採して薬剤散布をしており、「集団塒へ帰る前にいったん近くの高所に集まる習性はあるが、山の様子の変化に気づいて、警戒する姿がひときわ目立っているのでは」と話す。

 

「来るな」のサイン大切 杉田昭栄・宇都宮大教授

 “カラス博士”として知られる宇都宮大学農学部の杉田昭栄教授(動物形態学、神経解剖学)にカラスの行動、対策について尋ねた。

 ―夕方、このようにある程度、規則正しく群れるのはなぜか。
 杉田 集団として合理的な意義があるのか、現在、科学的に解明されていない。ただ昼の行動は分散しているため、同じ塒に帰るカラス同士、別々の時間にまちまちに帰ったのでは塒の安全性が低くなる。仮に猛禽などの捕食者がいれば、先に帰ったカラスから、順番にやられてしまう。ところが集団で帰ると捕食者にも驚異だし、戦う場合も有利だ。今はそのような状況はないにしろ、長い進化の中で、そんな戦略が本能的に働いているのかもしれない。

 ―三、四百メートル四方に千羽ものカラスが集結する光景は異常なのか。
 杉田 数百の群れはよく聞くし、異常といえば異常に見えるが、十分あり得る。特に大きな塒ができている森の近くではあるだろう。

 ―ハシブトとハシボソガラスが混在して群れるのはなぜ。
 杉田 地方の場合、基本はハシボソ。絶対数が少ないハシブトが共通の塒を使っているだけなのではないか。条件がよければ、どんなカラスも同じ塒を使う。たまたま、塒へ帰る途中で混在してしまうのだろう。

 ―フン害など解決策はあるのか。
 杉田 ビルの屋上などは、吹き流しなどの対策グッズを置くしかない。また、騒音にならない程度の音を流したり、レーザービームなども少しは効果がある。

 ―増えたカラスと人間は、どう付き合っていけばいいのか。
 杉田 困っているのであれば、「来るな」というサインを積極的に送り続けること。放置しておけば、彼らは来てもいいと思ってしまう。追い払うだけでなく、近くに餌を採る場所がないかなど原因を特定し、取り除くことも大切だ。

被害=子供襲うどう猛さも 果樹など農作物トップ

主な鳥類による農作物被害とカラス捕獲数の推移(県まとめ)
●証言者
 高松市中野町の五十代主婦は九日夕、小学二年の孫が公園から帰宅途中に、五、六羽のカラスが低空飛行して背後から襲われかけるのを目撃。頭をかすめるように飛んでいき、孫がしがみついてきた。「外で遊びたがらないのに、これ以上出たがらなくなると困ってしまう」と証言する。
 宮脇町の五十代男性は「夜中でも、ガーガーと鳴いて飛んでいるカラスもいる」と話す。「これだけ街灯で町が明るいとカラスも都会型になってくるのかも」。ごみはひところ荒らされて困ったが、ネットを掛けたり、分別収集が進み、以前ほど深刻ではない。
 中野町の旅館経営の女性は、早朝からガーガーという大合唱に「宿泊客に申し訳なくて」と困惑顔。旅館前の路上や駐車場の車へのフン害も「どうにかしてほしい」。

 ●農作物
 「昨年度は約一億三千万円のうち、八千四百万円あまりがカラスによる農作物被害。多い年は二億円を超えていたこともあるんです」
 県農業経営課によると一九九八年度以降、鳥類による農作物被害は減少傾向にあるものの、依然としてカラス被害が群を抜く。地域別ではさぬき市、高松市、丸亀市などの中讃地域。仁尾町や多度津町など、ミカンやブドウ、ビワなどの産地で被害が目立っている。
 果樹園や田畑に“敵”を入れないのが対策の基本だが、すべてを覆い囲むことは不可能だ。そのため、被害を分散させるために、おどしや反射テープで寄せ付けないことが対策の柱になる。「それでも都市化の進展で郊外に住宅が増えたため、何度も爆音を響かせるわけにはいかず…」と県の担当者。

 ●生活環境
 二〇〇〇年七月、現在のごみ収集体制に改めた際、防鳥ネットを導入した高松市。集積場所や分別種類を増やしたため、自治会からカラス対策を求められた。「当時、場所によっては生ごみをカラスが引っかき回す被害報告があり、都会のように繁華街ではなく、カラスの通り道になっている宮脇町で多かった」と当時の担当者。だが、「現在、被害報告は聞いていない」。約六千カ所ある集積場所のうち、約四千カ所で防鳥ネットが活躍中。「ごみ出しルールが守られているからではないでしょうか。カラスもあきらめている」。
 迷惑だからといって直接、カラスを捕獲することは鳥獣保護法で禁じられているため、身近な対策としては追い払うしかないのが現状だ。「人間の生活環境に害を与える▽農作物被害がある▽生態系を損なう―に該当する場合、捕獲が市町から認められるため、困っている方は相談を」と県みどり保全課。無許可であれば、懲役一年以下または百万円以下の罰金刑が科せられる。

山下和彦、岩部芳樹が担当しました。

(2005年11月13日四国新聞掲載)

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