県内で音もなく不気味に勢力を拡大している生き物が今夏、大きな問題となった。これまで、いないとされてきた東讃地域にまで侵食したことが確認されたからだ。中南米原産の淡水巻き貝で学名はスクミリンゴガイ、通称ジャンボタニシ。田植え直後の若苗やレンコンを食害し、九州を中心に関東以西で被害を広げている。東讃への侵入は昨年、県土を襲った台風被害が一因と考えられている。東讃では多くの田が激流で表土を流失。その復旧用に、宅地開発が進む都市部の田の表土を持ち込んで、汚染した例もあるという。席巻する外来種にどう対処すべきか。拡大のルートや生態を探るとともに農業への影響や対策を追った。

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スクミリンゴガイ発生の推移
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「今年の調査で東かがわ市と仲南町で新たに確認されました。小豆島や島しょ部、山間部を除いて、ほぼ県内全域に広がっていると考えていいんじゃないでしょうか」
十月上旬、県農業試験場病害虫防除所が各地の県農業改良普及センターなどを通じて調査したジャンボタニシの県内生息状況。調査を担当した主任研究員の香西宏さんはそのマップを手にこう推測する。ポツンポツンと飛び地で発生が確認されているのが特徴だ。
調査は一九八九(平成元)年から毎年実施。当初三市三町で百六十九ヘクタールだった発生面積(推計)は、二〇〇四年に六市十八町(いずれも当時の行政区分)にまで拡大。発生面積は二千三百二十五ヘクタールに及び、十五年間で約十四倍に広がっている。
香西さんによると、〇四年度の稲の食害などの被害は約四十ヘクタールで発生面積の約2%だけ。実際は苗の補植など、農家の努力もあって実害面積としては、数字をつかみにくいのが現状という。
東へ南へ…
県内分布状況をみると丸亀市(旧飯山町、綾歌町を含む)、坂出市を中心とした中讃地域と高松市、庵治町がジャンボタニシの“メッカ”。丸亀市では市内平野部のほぼ全域で広がっており、個体の大型化も目立つという。高松地域は比較的小型のものが多く、生息地の南限は池田町、西植田町付近。菅沢町や塩江町では確認されておらず、三木町でも山間部になると姿は見えない。
今年、新たに確認されたさぬき市の場合、昨年の台風被害で修復したばかりの農地から、六月中旬に発見。復旧用にと運び込まれた盛り土からジャンボタニシを確認したため、「客土が原因」と県東讃農業改良普及センターではみている。
複数の証言
複数の証言がある。瀬戸大橋や高速道の建設、宅地開発や農地の基盤整備に伴って、ジャンボタニシの生息地域が広がっているとの声だ。
「町内では滝宮地区で最初に食害が出た。次に畑田地区。いずれも基盤整備したところから。不思議に思って原因をたどっていくと、瀬戸大橋の工事に伴って出てきた土をもらってきて、客土していたことが分かったんです」と話すのは、綾南町の農協職員。
丸亀市の担当者も「ちょうど高松自動車道建設のころ、初めて被害が確認されました。甘土は貴重ですから、あのころ、工事でつぶれる田んぼの土を結構、いろんな場所に回していた」。
「何十キロも貝が移動するはずがない」。そんな疑問があったものの、数年前からは、その時期が一致することから県のビッグプロジェクトとの関連性を指摘する農業関係者も少なくないという。
20年前から
県によるとジャンボタニシは八〇年ごろ、台湾から食用として輸入。県内を含め、各地で養殖されたが、日本人の口になじまず、その後、養殖場から逃げ出した貝が野生化した。
県内では八五年になって、水田や水路で野生化したジャンボタニシを確認。八七年から田植えしたばかりの稲が食害に遭う被害が出ている。
あまり生態が知られていないころには、▽貝をカラスがくわえて運んだ▽知らずに子どもが卵を移動させた―など、諸説紛々だったが、今では土の移動と水路を伝っての移動が主因とされる。
「ドジョウやメダカ、ホタルの幼虫がいた昔ながらの水路なら、これほど繁殖はしなかっただろう」という淡水貝の研究者の見方もある。食物連鎖を断ち、天敵を追いやったのは農薬とコンクリート水路との指摘だ。
もともとは人間の都合で持ち込んだ外来種、ジャンボタニシ。エゴではなく、エコのために人間が知恵を絞るときに来ているのではないか。

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| コンクリート壁面に産み付けられたジャンボタニシの卵塊=丸亀市内のため池(4日撮影) |
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「田植え後、見回りをしとると深水の部分だけ若苗がない。よく見ると食われて岸に流れ着いとった」
ジャンボタニシの食害に初めて遭った一九八八年ごろの様子を語るのは丸亀市三条町の農業、徳田哲男さん(68)。すぐに苗を補植し、貝を一つひとつ拾ったり、卵を水に落とすなど懸命に駆除したが、約二十年を経た今では「もうどうにもならん」と、あきらめ顔だ。
「高松では、おらん所の方が少ない。今は仲良くやっているというのが正直なところちゃうかな」と話すのは高松市内の農協の営農指導員。
というのも、かなり生態も分かり、対処法が確立。田植え後二、三週間を乗り切れば、ほかには大きな影響がないことや、全国の先進県では逆手にとってジャンボタニシに除草させる農法を実践している例もあるからだ。
薬剤助成も
県や各市町も技術指導や薬剤散布への助成など対策を講じてはきた。県農業経営課によると対策技術は▽田植え後の若苗を守るための薬剤散布▽稲刈り後の水田への石灰窒素の散布▽厳寒期の耕起で貝を寒波にさらす―など。本来は熱帯の生き物だけに寒さには弱いという。さらに用水路などでの貝の駆除と卵塊の除去を挙げる。
しかし、これらの対策にも課題は多い。「ため池や水路を伝って広がる。一軒だけ、田んぼ一枚だけ駆除しても効果がないし、大規模農家は、そんな手間はかけられん」(徳田さん)。綾南町内の農協職員は「石灰窒素は確かに効果があったが、腐臭と群がるカラスに困ったことがある」と打ち明ける。
香川の農業が抱える問題点を指摘する声もある。「高齢の親から引き継いだ兼業の休日農家。機械代などは持ち出しで作りかねているのに、これ以上の手間も暇もかけられない」と話すのは高松市内の会社員(51)。「田植え後に少々の食害に遭っても、補植しない農家も増えた」(高松市内の営農指導員)ともいう。被害はあっても最終的な収量にはあまり響かないことが、深刻度を低くしているようだ。
水際作戦を
一方、そうもいかないのが、これまで未発生の地域。東かがわ市、さぬき市では、県東讃農業改良普及センターが六月、発生の原因と思われる水田整備用の表土の持ち込みに注意を促した。
「今回は何とか食い止めたいと、建設業者にもお願いして理解してもらった。でも、のど元過ぎれば…とならないよう徹底していきたい」と同センター担当者。
環境負荷をかけずに減殺するには、これからの寒の耕起が効果も高いという。農家には今以上に拡大させない水際作戦が望まれると同時に、住民も自然や環境を学びながら何らかの形で参加できる駆除のアイデアが欲しいところだ。

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| ジャンボタニシの成貝(上)。大きな貝は6センチを超える |
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「繁殖力が強い」「南米原産で寒さに弱い」など、諸説飛び交うジャンボタニシ。その生態についてまとめた。
<原産地は>
アルゼンチンが原産で学名はその形態から「スクミリンゴガイ」。殻は黄褐色から黒褐色。
<生態は>
気温が一五度以上になると活動を開始。一七度以上になると産卵、摂食を始める。産卵期は初夏から秋にかけて。稲や水路のコンクリート壁に直径二ミリ程度の卵を数十から数百個の塊で産み付ける。鮮やかなピンク色。十日から二週間でふ化する。直後は一・五ミリから三ミリ。約二週間で一センチ、約一カ月で二センチ程度に成長。五十日から六十日で三センチ程度の成貝となり、産卵を始める。寿命は三年から五年で大きいものは七センチ以上になる。
<繁殖力は>
成貝は条件さえよければ、三、四日に一度のペースで産卵し、その期間が二、三カ月続くため、二千から八千個の卵を産むと言われている。個体が大きいほど、産卵数が多い。ふ化率は70%から80%程度。産卵直後の卵塊は水中に落ちると死滅するが、ふ化直前(卵塊表面が白い)は水中に落ちても死滅しない。
<好む場所、食物>
県内では適度な流れのある日当たりのいい水路のコンクリート壁面や、ため池の水門付近でピンク色の卵塊をよく見掛ける。水中の軟らかい植物を好み、農作物では稲の苗やレンコンを食害。田植え後、二、三週間の苗が被害に遭いやすく、十アール当たりに一・五センチ以上の貝が二百個以上いると被害に遭うと言われる。アメリカザリガニ、アイガモ、コイなどが天敵。
<越冬率は>
日本で越冬できる耐寒性を獲得。二、三センチの貝の越冬率が高い。水が落ちた水田で土中五センチ程度に潜って越冬する。
<全国の生息状況>
関東以西では普通種。特に九州に多い。
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山下和彦、岩部芳樹が担当しました。
(2005年11月6日四国新聞掲載)
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