“うどん王国”ほど有名ではないが、香川の特徴に自転車の多さがある。朝の通勤ラッシュや商店街を行き交う光景は、まさに自転車の洪水だ。利用が多ければ、それなりのルールやマナーは守られていそうだが、「こと交通に関して香川は…」との悪評もよく耳にする。果たして“自転車王国”のルールとマナーはどうなっているのか。こんな疑問に挑んだグループがいる。インターンシップの研修先に四国新聞社を選んだ香川大生八人だ。「自転車はどこを走るのが正しいか」「横断歩道はどう渡るか」「飲酒や二人乗りは違法か」―。こんな質問を携えた街頭アンケートから始め、関係機関への取材、識者インタビュー、執筆に取り組んだ。六日間の就業体験で、どんな実態や課題、解決策を導き出してくれるのだろうか。
【調査方法】十三、十四の両日、高松市の中央公園、南新町商店街、琴電瓦町駅周辺で自転車に乗っている人、普段よく利用する人を対象に聞き取り調査し、百十六人から回答を得た。主な質問は(1)横断歩道を渡る際、自転車から降りるか(2)危険を感じたことがあるか(3)車道、歩道のどちらを走るか(4)飲酒運転、二人乗りをしたことがあるか(5)道交法に定めるルールを知っているか―など。

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| 歩行者、自転車が行き交う横断歩道。ここには自転車横断帯は設けられていない=高松市内 |
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「自転車で走ってもよい道が、道路交通法で定められているのをご存じですか?」
この質問に対して、知っていると答えた人は全体の六割。世代別で見ると、十代が四割と最低で年齢が高くなるにつれ、割合が高くなる。しかし「車道」と正確に答えた人は全体の二割だった。つまり知っているつもりでも、実は間違って思い込んでいる人が意外と多いという結果である。
実際、自転車に乗っていてどこを走っているかという質問には、なんと95%の人が「歩道」、または「意識していない」と回答した。
交通ルールが正しく理解されていない理由はなぜなのだろう。
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自転車ルールを知っていますか
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県警交通企画課によると昨年度、県内で実施された交通安全教室は二千百六十七回を数えるという。対象は、子どもから高齢者まで十六万五千人余り。県民の実に約15%が参加していることになる。学校教育現場でも、小学四年で実技を伴う自転車の乗り方教室を開くのを皮切りに、学校周辺の交通事情に応じてその後も各学校で指導を行っている。「交通安全に限れば、小学校入学時から中学・高校まで、事あるごと、機会をとらえて指導している」とは県教委保健体育課の担当者。
それなのに、交通安全教育をいままさに受けているはずの、あるいは受けて間もない十代の六割から「自転車は歩道」という間違った答えが返ってきた。
教える側の苦悩もあるようだ。「交通法規を教えることと、交通安全を教えることが、必ずしも同じではない」と告白するのはある教育関係者。子どもたちが事故に遭わないように指導するのが現場の共通した思い。自転車に乗り出して間もない小学生に「交通量の多い道でも、ルールだから車道を走りましょう」とは言えないのが現実だ。
今回の調査でも自転車同士、または自転車対人の事故に遭ったことのある人は三割で、そのうちのほとんどが軽症。自転車で死に至るような大きな事故はないという過信も、その要因だろう。
抜本的な解決方法はあるのだろうか。▽多くの警察官を配置し、徹底的に取り締まる▽道路構造を歩道・自転車道・車道とはっきり三分割してしまう▽そもそもルールは利用者になじんだものでなければ意味がないから法律を変える―などがあるだろうが、現実問題としては難しい。
「自転車の利便性を失うことなく、自転車・歩行者・自動車の三者がともに安全に移動できる妥協点や解決策を講じていくとともに、三者が普段からお互いのことを意識していくことが重要」と香川大大学院の草鹿晋一助教授は指摘する。
ルールが認識され、確実に実行されるために必要なのは、それが合理的なものなのかという私たちの「納得」の共有であるように思えた。

【道路交通法】自転車は道路交通法第二条で軽車両に分類。第十八条では「車両は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車および原動機付自転車にあっては道路の左側に寄って、軽車両にあっては道路の左側端に寄って、それぞれ当該道路を通行しなければならない」と定められている。歩道でも、自転車および歩行者専用の標識がついている場所では、走ることができる。現在、県内では八百八区間、総延長約千五十四キロが自転車が通ってもよい歩道として整備されている。

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| 自転車横断帯のある横断歩道。1979年以降、全国で普及し、県内には現在、3121カ所に設置されている=高松市内 |
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横断歩道の渡り方
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「横断歩道を渡る際、法律上は自転車に乗ったままだと軽車両、降りると歩行者となる。横断歩道は歩行者のためのものだから、自転車に乗った人が横断歩道を渡るには降りて、歩行者にならないといけないんです」
県警交通企画課で聞いた正しい交通ルールだ。ただし、例外もある。自転車横断帯のある横断歩道の場合だ。ここでは、自転車に乗ったままの横断が許されている。
自転車に乗ったまま横断帯を渡っていて、もし車とぶつかった場合は、歩行者に近い存在とみなされ、車対人の事故になる。横断帯のない場所だと車対車の事故。事故状況に応じて過失の度合いは異なるものの、自転車同士比較すれば、後者、つまり横断帯のない場所を乗って通行していた方が過失の度合いは、当然大きくなるというのが警察の見解だ。
調査結果を見ると、横断歩道を渡る際、自転車から降りている人は少数派だ。十代から三十代の世代では10%にも満たない。五十代以上では女性65%、男性20%とばらつきがある。正しい横断歩道の渡り方を知っている人は、年齢を問わず二割しかいなかった。
ルールを説明し再度聞いた。「これから実行しようと思いますか」。答えは「はい」が35%。ほとんどの人は「やっぱり降りない」という回答だった。「ルールなら、警察がちゃんと取り締まればいい」「気を付けて走って、お互いに事故に遭わんかったら、それでええんちゃうん」。そんな声も聞こえてきた。
結果から、県民が横断歩道に関して特別問題視している姿勢は見られなかった。いまのままの横断歩道で全員が降りて渡れば、逆に交通の流れが悪くなり、渋滞を招いてしまう懸念もある。
気掛かりだったのは横断歩道を渡る際、子どもや高齢者にとって、現状では危険を感じるだろうかという質問に対する答え。当事者である高齢者だけでなく、十代を含む幅広い世代が危険だと認識していたことだ。
実際、年齢の高い女性ほど、降りて渡る割合が多かった。「若い人が携帯電話で話しながら、猛スピードで突き進んでくる自転車をよけるには降りるしかない」と渋い顔をする人も。ルールを守ろうという意識より、自分の身を守るための自己防衛手段として降りているのが現実のようだ。

自転車は車道、歩道どちらを走るのがよいかや、横断歩道はどう渡るのが正しいか―に比べて、飲酒運転や二人乗りが道路交通法違反であることは、かなり知られている。
アンケート調査でも83%が「違反」だと認識。にもかかわらず53%が守っていないことも明らかとなった。年代別でみると、十―二十代では二人乗りをしていると答えたのが60%。そのうち90%が違反行為だと知っていた。
違反と知りながら、する理由は「移動するのに楽だから」「二人だと楽しいから」。一方、歩行者からは、「歩道の真ん中をふらふら走られると危ない」(四十代女性)「速いスピードで走り、はじき飛ばされそうで怖い」(八十代女性)といった回答が返って来た。
県警は、昨年一年間で五千二百件の違反運転自転車への指導警告を行った。そのうち、二千五百件が二人乗り違反でトップ。次いで無灯火の二千四百件となっている。年々増加傾向にあり、「注意してその場ではやめても警察官の姿が見えなくなると二人乗りに戻る。警告と違反のいたちごっこ」と担当者は嘆く。
その大きな理由は「自転車には、自動車のような減点や罰金といった交通反則制度がないから」(県警担当者)。例えば自転車の二人乗り違反を処罰しようとすれば、道交法を適用し、書類送検や裁判を経て懲役や罰金などを決めなければならなくなる。そうすると、自動車によるスピード違反などよりも重罰となるアンバランスが生じる恐れがあり、「警告」で臨まざるを得ないのが実情という。
守られない現実とルールの間で私たちはどう対応すべきなのか。「どうせ『警告』止まり」と高をくくって違反し続けるのも一つの考え方。ルールの意味を知って、今後はやめようと思うのも一つだろう。ただ、常に警告で終わるかは分からない。ある日、違反が原因で過失致死の加害者となり、懲役○×年を言い渡される可能性もなくはない。その時の覚悟は最低限持たねばならない。それが法治国家のルールだから。

今回、私たちは自転車の交通ルールについて調査し、記事を書いた。私たち大学生にとって、自転車は最も身近な交通手段である。しかし、自転車について、正しい交通ルールを知っていないのではないか。テーマを決める際、そんな意見が出たので取り上げた。
高松市の商店街やその周辺などでは特に自転車の交通量が多く、ぶつかりそうになったり、危険な場面を日ごろからよく目にしていた。その原因と現状を少しでも知るために、私たちはアンケートを作成し、街頭で聞き取り調査をしたり、県警や県教委に疑問点をぶつけてみた。
街頭での調査は今回の取材で最も大変だった。人に話を聞いてもらうことの難しさ、質問の意図を簡潔に伝える能力の欠如を痛感した。さらに、いかに自分の知りたいことを相手から引き出すかによって、自分たちの主張したいことや説得力が大きく変わってくることもよく分かった。
記者の方々が普段行っていることをこうして体験することで、一ページの紙面を埋めるための苦労が垣間見えたような気がした。この体験を忘れず、普段から疑問に感じたことについて、真剣に考えるようにしたい。
吉田健佑、仲野千咲、小橋香織、西晴子、三木咲(以上経済学部)、河村隆弘、清水裕美子、清永浩平(以上法学部)、山下和彦、岩部芳樹(以上四国新聞社)が担当しました。
(2005年9月18日四国新聞掲載) |