シリーズ追跡

竹が里山を駆逐する

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15年間で1.8倍に増殖

 詩人の萩原朔太郎が「光る地面に竹が生え」と旺盛な生命力を詠み、京都嵯峨野に代表される風景が人々を魅了する竹。その竹が今、生態系を脅かす厄介ものになりつつある。うっそうと茂る竹林。足の踏み入れ場もない昼なお暗い地面には散り敷く笹が積もり、樹木は枯れ、下草さえ生えてはいない。かつて里山の低層部にあった竹林が勢力を拡大し、気が付けば里山全体を覆う勢いで増殖している。郊外を車で走ると、あちこちで目にするようになった光景だ。今夏の台風災害では、竹林が大きな塊となって地滑りを起こしている現場も多く目にした。日常見慣れた里山や竹林で何が起きているのか。なぜ竹林が手入れもされず放置されだしたのか。追跡班は里山へと向かった。

現状と課題=森林機能を阻害 価格下落、生産意欲失い放置

春のタケノコに備えて間伐、管理された竹林。日光が入り多様な動植物も生息できる=高瀬町内
春のタケノコに備えて間伐、管理された竹林。日光が入り多様な動植物も生息できる=高瀬町内
香川県の竹材、竹炭、粉炭生産量 香川県のタケノコ生産量の推移
香川県の竹材、竹炭、粉炭生産量
香川県のタケノコ生産量の推移

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 県の調査によると県全域の竹林は二千百七十三ヘクタール(一九八六年)から三千九百七十八ヘクタール(二〇〇〇年)にまで拡大。十五年間で一・八倍に増えている。さぬき市、琴平、三木、塩江町を対象にした調査でも、二〇〇〇年までの二十七年間で一・二―五・二倍の数値を示し全県的に竹林が増殖。さらに二十七年間のうち七五―九四年よりも、その後の拡大速度が大きくなる結果が出た。
 竹林を構成する竹の種類はモウソウチク、マダケが主。モウソウチクはタケノコとしての食用、マダケは食用以外に土壁の下地材となる木舞などの建材や、ざる、うちわなどの生活用具、塩田で使う枝条架など多用途に使われた。

竹材は1%に
 県内のタケノコ生産量の推移を見ると=図表参照=、一万三千七百トン(八八年)をピークに千二百トン(〇二年)まで激減。竹材生産量は十二万五千束(六四年)を最高に、千五百束(〇二年)まで、約1%に落ち込んでいる。
 こんぴらタケノコの産地、仲南町の竹林昌秀産業振興課長は「七七年には約三百軒の栽培農家があり、十郷農協の取扱高が一億三千万円(全県では二億円)だった。キロ百十六円の時代で一日一トン掘る農家もあった」と振り返る。しかし、現在は三十―四十軒が産直市に出荷するだけとなり、多くが放置竹林になっているという。
 「六五年ごろまでは木舞用のマダケを一束(六本前後)出すと三百七十円になった。建設作業員の日当が四百五十円、校長の月給が三万円のころ、三束出せば良い稼ぎになったもんだ」と話すのは綾上町の農業河田紘さん(63)。新建材の普及とともに需要は途絶えた。
 要因は安価な中国産タケノコや竹材の輸入により価格が低迷し、農家が生産意欲を失ったことや、農家の高齢化、過疎化、後継者不足など、農業全般が抱える問題と根を同じくしている。

管理されずに放置された竹林。中は暗く樹木の立ち枯れも目立つ=県内
管理されずに放置された竹林。中は暗く樹木の立ち枯れも目立つ=県内

県も動く
 手入れされなくなった竹林は急速に縦横に拡大し、太陽光を遮り水源かん養など多様な森林機能を失わせる。単に農林業の問題にとどまらず、防災や地球環境にまで影響を及ぼすことから、県は〇二年度から三カ年計画で「健全な森林の再生モデル事業」をスタート。竹林整備・利用懇談会を立ち上げて打開策を探っているが、「出口が見えてこないのが現状」(県みどり整備課)と戸惑いを隠さない。
 竹の浸食を防ぐには、皆伐、間伐などをして竹林を管理できる状態にまで戻し、タケノコや竹材の有効活用法を探れば良いという正解は分かっている。しかし、「誰が?」「どうやって?」「どんなメリットがあるの?」といった疑問の答えに窮している現実が透けて見える。
 課題はコスト、中国産との差別化、担い手不足、生産意欲を生む動機づけなど経済原理と密接にかかわってくる。
 「水源かん養税などで国や県の補助がなければ、町単独でも難しいですね」(竹林課長)というように、単に栽培農家の耕作放棄といった問題ではなく、県土保全など公共性の高い問題だけに全県的な取り組みがなければ個人の力では限界があるといえそうだ。

あの手、この手=対策に決定打なし 竹製品、新たな需要開拓が課題

竹の成分を利用した商品を次々と手掛ける四国テクノ=仲南町
竹の成分を利用した商品を次々と手掛ける四国テクノ=仲南町

 農具や木舞などの建材として、暮らしの周辺から竹が消えて久しい。かつて竹自体が目に見える形で利用されてきたが、現在は竹炭や竹酢液をはじめ、化粧品、家畜・養殖魚の飼料、壁材、新エネルギーなど、さまざまに形を変えている。いずれも竹の利用促進を狙った商品開発。抗菌性や吸湿性、成分に含まれるミネラルを生かした健康志向が特徴だ。

コスト競争
 「地元に無尽蔵にあるモウソウチクを有効活用し、現金収入に変える仕組みができれば、農家の生産意欲の向上につながり、放置竹林の減少にも寄与できるはずだ」
 一九九三年度から、そんな取り組みに挑戦しているのが仲南町の四国テクノ(近石義則代表)。竹粉炭や竹酢液製造プラントを持つ農業生産法人だ。施設では、一日当たり八トンの生竹材から千六百キロの竹粉炭と千二百リットルの竹酢液を生産。生竹材をキロ当たり十円で引き取るため、契約農家にすれば、一トンで一万円の現金収入が得られ、日当分が稼げる計算だ。
 ただ、販路開拓では曲折も。当初は土壌改良剤として商品化を目指したがコスト高につく上、農家の手間もかかり需要が伸びなかった。そのため「軸足を畜産用飼料添加物に移さざるを得なかった」と近石代表。「コスト競争では中国産にかなわない。新たなニーズの掘り起こしや高付加価値商品の開発が常に必要」と苦労を話す。

ボランティア
 ボランティアと協働しようという動きもある。
 香川の里山の環境を守る会(高松市、会員十八人)もその一つ。同会は健全な里山の再生を目指そうと、本年度から仲南町のモデル地区で竹の伐採や遊歩道の整備などをボランティアで手掛けている。
 「人が山に入り適正に管理すれば、竹林は広がらないし、山の育ちが違う」。こう語るのは、農林業の活性化を目的に六二年から活動を続けている綾上セブンクラブの田中邦男会長。市民からオーナーを募る「里山オーナー制度」に昨年度から一・二ヘクタール(十二区画)の私有林を提供。来年一月には、シイタケ栽培の講習会も企画し、市民に里山への理解を深めてもらう考えだ。
 仲南町は本年度「穂先たけのこ」の出荷を試みた。早掘りが終わり、背丈ほどに伸びたタケノコの穂先五十センチを食材に利用するもので、「採取作業の効率がよく、穂先を切り取ったタケノコが腐っていくため、竹林の拡大防止に役立つ“一石二鳥”の作戦」と同町。
 ただ、いずれも試行錯誤の取り組みで、広がる竹林対策の決定打になっていないのが現状だ。

インタビュー=香川大工学部(環境緑化工学)増田拓朗教授 目的税の導入も視野に  

香川大工学部(環境緑化工学)増田拓朗教授
増田拓朗教授

 ―現状のまま竹林を放置するとどんなことが起こるのか。
 増田教授 竹の成長は、一年で五メートル地下茎が延びると言われ、他の樹木に比べ抜きん出て早い。地上茎は二、三カ月で十数メートルも伸びる。間伐などの管理をせずに放置すると、隣接の畑や山林に浸食。地上部を覆い尽くし、太陽光が入らなくなると他の草木を枯らしていく。最後には林床が裸地化して地面がむきだしとなり浸食が起きる。

 ―そうなるとどんな影響が出るのか。
 増田 防災面では土壌崩壊の危険性がある。さらには、水源かん養などの森林が持つ公益的機能が奪われる。環境面でいえば、いろんな動植物が生息する生物多様性も失われたり、CO2吸収などの役割も果たさなくなる。

 ―理想的な森林、里山とは、どんな状態が良いのか。
 増田 複層林の混交林が良いと言われている。簡単に言えば、樹種も樹齢もサイズも違い、針葉樹と広葉樹が交ざり合っているような森林だ。かつて全国で行われてきた皆伐後の杉やヒノキ植林に代表される、一斉林の反省から提唱されている。選んで伐採し、その後に後継種を育てる「択伐」を施し高木、中木、低木、草木がある状態が理想的なかたちだ。

 ―大きなサイクルで見ると、竹の浸食も自然淘汰(とうた)され解消することはないのか。
 増田 確かに、そういう考え方もあるが、原生林の状態になるのに二、三百年はかかるだろう。しかし、その間に何度も地盤崩落などの災害を経てからになる。一度、人が手を入れた森は百年程度では元には戻らない可能性が高い。

 ―解決策を官民挙げて模索中だが、決め手がないのが現状のようだが。
 増田 竹の用途開発など試作品まではいくが、生産ラインに乗せるまでに苦労している。コストや竹の安定供給がネックになっている。高知県は森林環境税を設け県民に広く薄く負担してもらい森林保護に役立てているように、税金を使ってでも対策を講じる時期に来ていると思う。

山下和彦、岩部芳樹が担当しました。

(2004年12月5日四国新聞掲載)

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