シリーズ追跡

県立中央病院の未来像

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建て替え急務、移転も

 病床数で県内トップの県立中央病院(高松市番町五丁目)の建て替え問題が浮上している。県立中央病院あり方検討委員会(会長・井原健雄香川大名誉教授)が昨年五月に発足。病院の現状と課題、整備手法などについて検討を進め、三月に意見書を知事に提出する。県立中央病院の使命、求められる機能とは何か。「現在地で新築」「移転して新築」など考えられる建て替え案とは。県は意見書を踏まえ、来年度に具体的な方針を決定する予定だが、空前の財政難の中、実現を危ぶむ見方もある。近接する高松市民病院との連携の可能性も含め、県立の基幹病院の未来像を探る。

検討委の意見書=4案併記、県が決定へ 財政難で実現は不透明

建て替え問題が浮上している県立中央病院。空前の財政難の中、実現には県民のコンセンサスが必要になる=高松市番町5丁目
建て替え問題が浮上している県立中央病院。空前の財政難の中、実現には県民のコンセンサスが必要になる=高松市番町5丁目

 薄暗く迷路のような廊下。病室にはすき間風。増築に増築を重ねたつけが、使い勝手の悪さとなって利用者に跳ね返る。
 県立中央病院の施設は一九六九年から十年ほどの間に順次建てられた。北病棟と中館は近年、大規模改修を行ったが、南病棟や東館は老朽化が目立ち、いずれの建物も耐震診断で改修の必要性を指摘されている。
 特に東館は給排水設備がいつ壊れてもおかしくない状態といわれ、万一の場合、手術室が水浸しになりかねない。
 他地域の同規模の公立病院をみると、整備の検討から完成までに七―十年程度を要している。「今から手を打っておかなければもたない」(県県立病院・施設経営課)。県は本年度に有識者らによる検討委員会を立ち上げ、中央病院に求められる機能から整備の方向性まで検討、三月に意見書を取りまとめる。

病床は削減
 中央病院の病床数は六百三十一床。香川大医学部付属病院(六百十三床)や高松赤十字病院(六百一床)を上回り、県内の医療機関ではトップの座にある。
 しかし、入院患者数の将来推計によると、将来の必要病床数は減少するとされ、削減を視野に入れている。入院患者総数は二〇二五年度まで増え続けるが、高度急性期医療を重点に密度の濃いケアを行うことで平均在院日数の短縮が見込まれるためだ。
 委員会では「二百―三百床でも」との意見も出たが、県は「六百床もいらないにせよ、最低でも四百床は必要だろう」とする。
 現在の一病床当たりの床面積は約五十五平方メートル。近年に建設された同規模の国公立病院の平均は約七十五平方メートルあり、面積過少が際立つ。全国平均並みのスペース確保も整備の重要な課題となっている。

判断材料を
 整備の手法について、委員会の一月の会合で四つの案のシミュレーションが示された=表参照=。

県立中央病院の改修、現在地新築、移転新築の各計画案

 (1)の「現在地での大規模改修」は建物の構造を変えないため工事費が安くすむが、使い勝手の悪さは解消されない。十年後には新築の必要が生まれ、小手先の中途半端な方策といえる。
 (2)(3)の「現在地での新築」は療養環境の一定の改善につながるが、建築基準法の改正で現在と同じ規模の建物は建てられない。工期が長くなる上、工事中は病棟を一部閉鎖しなければならず、大幅な減収になる。三十、四十年後にも再び建て替えの問題に直面する。
 うち(3)は県東讃保健福祉事務所や県医師会が入る保健衛生センターの移転が前提条件。
 (4)の「移転新築」は用地さえ確保できれば自由な設計が可能で、駐車場も十分に取れる。工期が短く、工事による病棟への影響もないが、移転場所によっては診療圏が変わり、交通アクセスが悪化する可能性がある。
 整備方針は県が県議会の可決を得て決定する。委員会の意見書では候補地の絞り込みはせず、各案をメリット、デメリットとともに併記する方向で調整が進んでいる。
 井原健雄会長は「一年間だけの議論で結論は出せない。制約条件や論点を整理し、県や県議会が判断する上での的確な材料を提供することが我々の務め」と話す。

机上の空論
 各案のメリット、デメリットを比較すると、客観的にみて「移転新築」に分があるとの印象を抱かざるを得ない。療養環境を抜本的に改善でき、郊外への人口移動などの情勢変化にもかなう。基幹病院の郊外移転は全国のすう勢でもある。
 問題は移転先をどこにするか。県有地を充てるとすると、郊外なら県農業試験場跡地、香川インテリジェントパークなどが候補地として考えられる。騒音が少なく、高速道路のインターに近いのも利点だ。
 中心市街地となると、まとまった遊休地はサンポートくらいしか見当たらない。そこで「隠し球」として、高松市中心部の小中学校統廃合と絡めた学校敷地の活用も取りざたされる。
 といっても、現段階では机上の空論にすぎず、検討作業は先の話。他の大型ハコモノと同様に、最終的には政治決着が図られるとみられる。
 今後のスケジュールについて、県は来年度に整備方針を決定し、〇五年度以降に基本構想、基本計画を策定する予定。
 ただし、厚い壁が立ちはだかる。三位一体改革による深刻な財源不足だ。百億円単位の事業費を伴うだけに、県債発行抑制の流れに逆行し、財政健全化の足かせとなる。「やりたいのはやまやまだが、非常にタイミングが悪い。もっと早い時期なら…」と担当職員は漏らす。
 「事業の選択と集中」の号令の下、他の事業が割を食っても、限られた財源を中央病院に振り向けることに県民の理解を得られるかどうか。建て替え問題の行方は詰まるところ、トップの政策判断にかかっている。

求められる役割=入院中心に機能特化

 「県立中央病院って、基本的にいらないんじゃないかな」。一月に開かれたあり方検討委員会の会合で、委員の一人が発言した。
 中央病院のすぐ近くに高松赤十字病院がある。他にも高松市内に三百床以上の病院が四カ所あり、隣の三木町には香川大医学部付属病院。これだけ密集すれば「必要なの?」は率直な疑問だろう。
 これに対し、県県立病院・施設経営課は「中央病院をなくして、すぐに他の病院が機能を代わりに担えるかというと難しい」と説明する。
 中央病院の二〇〇二年度の入院、外来患者は一日当たり約千九百四十人に上る。重症患者に対応する救命救急センターに指定され、約千五百人を同年度に受け入れた。
 また、高松市と木田、香川両郡の高松保健医療圏で、〇三年の国保患者の動向をみると、がん、心臓、脳、消化器などの疾病の入院患者はトップシェアの実績を持つ。
 確かに存在感は大きいが、それだけで県が巨額の費用を投じて、病院を建て替える理由にはならない。存在意義を明確にすることが重要だ。

紹介率35%
 委員会の意見書案は中央病院の機能として、高度急性期医療を一番手に挙げる。重症患者や手術が必要な患者らに専門的な高度医療を提供、短期間に回復させる病院を目指すもので、入院医療を中心に据えることになる。
 しかし、急性期医療を手掛けるには現状の外来患者が多すぎる。〇二年度の一日当たり患者数の約七割は外来だ。中には軽症の患者が多く含まれ、高度医療の提供に支障が出かねない。
 県は「外来は診療所が受け持ち、中央病院は診療所や一般の病院から紹介された患者を診療するなどして、入院に機能特化する方向にしていく必要がある」とする。
 国も医療資源の効率化のため、「入院は病院、外来は診療所」との方針を打ち出している。とはいえ「『別の病院へ行って』とは現実問題として言いにくい」という。
 カギを握るのが他医療機関との連携だ。一般的な医療を提供する病院や地域のかかりつけ医の診療所との間で、機能や症状ごとに役割を分担しなければならない。
 地域医療の機能分化を進める拠点として九八年に創設された地域医療支援病院の承認基準は患者紹介率80%。中央病院の〇二年度の紹介率は35%にすぎず、連携を深めるための具体策をまとめるのも急務になる。
 委員の間には「他の病院の方が実績のある診療科は任せてもいいのでは」との意見もある。実際、高松保健医療圏で呼吸器疾患などの入院患者のシェアは二位以下に落ちる。
 意見書案は疾患や臓器別のセンター構想を盛り込むが、総花的な印象は否めない。一方で、県は「基本的な医療の積み重ねの上に高度の医療がある」との見方を示し、診療科の絞り込みは難しい面もある。

収支に課題
 公立病院として欠かせない重要な役割が、民間病院では手を出しにくい不採算医療だ。救命救急はその代表例。出産前後の母子に対応する周産期医療も採算は取れないとされる。
 ただし、不採算医療を抱えれば収支は悪化する。県は県立病院の経営健全化を図り、中央病院の〇二年度末の累積赤字は二十億円余りと四年間で約十二億円削減した。収支を度外視するわけにいかず、どう折り合いを付けるかは悩ましい。
 委員会の井原健雄会長は「あれもこれもではなく、もっと特徴づけや役割分担を明確に打ち出すべきだ」と、県が今後策定する基本計画に注文をつける。

県と市の連携は=高知、政治決着で統合 香川では検討の動きなく

 県立中央病院の南西約一キロ、峰山に登る坂道の途中に高松市民病院(同市宮脇町)がある。最も古い北館は一九六六年、本館は七三年に完成し、建て替えを迫られる時期が近付いている。
 市は庁内に検討委員会を設置し、二〇〇五年度をめどに将来計画をまとめる予定だ。目と鼻の先にある二つの公立病院。いっそのこと、両病院を統合するという発想はないものか。
 モデルが高知にある。高知県立中央病院(四百床)と高知市立市民病院(四百十床)は「高知医療センター」(六百四十八床)として統合、〇五年三月の開院を目指している。
 整備・運営を行うのは、県と市でつくる一部事務組合「高知県・高知市病院組合」。民間資金を社会資本整備に活用するPFIを初めて病院事業に導入したことでも注目を集める。
 「『難しいだろうが、できたらいいね』と職員同士で話していたのがきっかけ。最後は政治決断ですよ」。同病院組合の長瀬順一企画調整課長は語る。
 県、市とも初めは当然のように単独での建て替えを考えていた。
 高知市は民間病院が乱立し、全国有数の病床過剰地域とされる。県立、市立両病院とも民間に押されて厳しい経営を強いられ、累積赤字が膨らんでいた。
 両病院は、はりまや橋から各一キロの距離。病床数、診療科とも似通い、進入路が狭いなどの課題も共通している。統合を検討する素地は十分にあった。
 スケールメリットを求め、統合の検討が始まったのは一九九三年。事務レベルの協議で、病床を拡大し診療内容を特化することで、単独整備に比べ医療資源の効率化が図られ、高度医療を提供できるとの考えで一致した。「量は足りているが、質が課題という事情も背景にありました」(長瀬課長)。
 医師の出身大学の医局からも、専門員として協議に加わり検討。医局のポストや職員の処遇が高いハードルだったが、「統合の方が理にかなっていてメリットが大きい」として理解を得られた。
 九五年には県民、市民各千人を対象にしたアンケート調査を実施。統合賛成が過半数を占めたのを受け、知事、市長がトップ会談でゴーサインが出た。
 高知医療センターは高知市中心部から南へ七キロ、高知新港の後背地として開発が進む地区に建設されている。地域医療支援病院として、救命救急センターや高度周産期母子センターの機能も併せ持つ基幹病院を目指すという。
 翻って、香川で統合の実現可能性はどうだろう。
 県県立病院・施設経営課は「高知の場合と違い、両病院の機能や規模が異なる」とする。市民病院は病床数が中央病院の約三分の二。救命救急センターにも指定されていない。
 中央病院あり方検討委員会の審議で、市民病院の統合は俎上(そじょう)に上らなかった。市も県に検討を持ち掛ける動きはみられない。
 県、市とも財政がひっ迫し、統合は渡りに船ともいえる。選択肢の一つとして今から検討しても遅くはないはずだ。

 福岡茂樹、谷本昌憲、岩部芳樹が担当しました。

(2004年2月22日四国新聞掲載)

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