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五年前の悪夢がさめやらぬ中、またも県内で鉄塔を標的にした犯行が起きた。高松市の五色台で県の防災行政無線用鉄塔のボルトが外され、十四日に犯行声明が報道機関に送りつけられた事件。今年二月に完全時効となった坂出市の四国電力鉄塔倒壊事件を連想させるが、二つの事件には相違点が多い。今回、鉄塔がなぜ再び狙われたのか。動機をはじめ、不可解な謎が次々と浮かぶ。犯行声明が今話題を集める白装束団体「パナウェーブ研究所」に言及している点も、騒ぎを一層大きくしている。現場の状況や分かってきた情報を基に、事件の闇に迫る。(鉄塔事件取材班)

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| 報道機関に犯行声明が送りつけられ、ボルトが抜かれていた県の防災行政無線用鉄塔(左手前)=高松市中山町 |
もう梅雨入りかと思わせる灰色の空と対照的に、新緑がせり出す高松市の五色台。折からの雨で、濃い霧にすっぽり包まれている。かすむ山頂には高さ数十メートルの鉄塔がぼんやり浮かんでいた。
「RNC電波塔のナット外した」。朝日新聞社高松支局に十四日届いた犯行声明。くねる山道を上り、現場に急ぐ捜査員ら関係者の脳裏には、五年前の坂出の事件がよぎったに違いない。
多くの疑問点
山頂に五基ある鉄塔のうち、声明通りボルトが抜かれていた鉄塔は確かに一基あった。だが、それは、RNC(西日本放送)ではなく、県の防災行政無線用の鉄塔だった。
今回のボルト外しの犯行には、ちぐはぐな点が幾つもあるが、犯行声明と実際の犯行との食い違いはその最たるものだ。
県と「セキュリティー上、構造は言えない」とするNHKを除き、他の三基の鉄塔は二重ナットやナットの頭をつぶすことなどでボルトが外されない対策をしているという。
犯人はボルト外しが容易な県の鉄塔しか手を出せなかったのだろうか。しかし、その場合、ボルトを外した後に用意したはずの犯行声明に、RNCと書いた矛盾が出てくる。
となると考えられるのは犯人の勘違い。鉄塔が立つ敷地はRNCの所有で、敷地につながるわき道の入り口には看板も立てられている。県の鉄塔は「青峰中継局」の表示があるだけで所有者は分からない。県警は「単に間違えた可能性もある」との見解を示す。
鉄塔は四国霊場第八十二番札所根香寺から、一キロほど県道を山頂方向へと走り、わき道をさらに約二百メートル上った場所にある。五色台に鉄塔が立っているのは遠くからでも分かるが、どの地点に立っているのか見当をつけるのは難しい。
犯人が通りすがりで衝動的に犯行に及んだり、鉄塔の位置を偶然知ったと考えるよりも、土地勘があったか、鉄塔を物色し、下見したとみる方が妥当だろう。
すると県人か少なくとも近県の人の犯行という公算が大きくなる。
ボルトは市販の工具で外せることが分かっている。手口は「誰でも可能」ということで、犯人の対象を狭めることにはつながらない。
細かな疑問点は他にもある。▽なぜRNCではなく朝日新聞に犯行声明を送ったのか▽声明が届いた日と、声明文にある白装束団体「パナウェーブ研究所」を警視庁などが一斉捜索した日が同じなのは偶然か―。これらはすべて推測によるしかなく、具体的な検証は難しい。
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| ボルトが抜かれた鉄塔支柱の補助部分などを実況見分する捜査員。写真中央にはボルト穴が見える=高松市中山町 |
憶測の域出ず
ボルト外し事件が注目される大きな理由が、犯行声明が白装束団体との関係をにおわせている点だ。白ずくめのキャラバン隊の奇行が世間を騒がせる団体と、今回の犯行との関連はあるのだろうか。
実は香川と白装束団体を結び付ける接点らしきものはある。
今月初め、週刊誌などの一部メディアが、四国電力鉄塔倒壊事件への白装束団体の関与をほのめかす報道を行った。
報道を要約すれば、送電用鉄塔からのスカラー波は人体に有害などと、白装束団体の主張にそっくりの内容のビラが事件後に瀬戸内海沿岸でまかれ、県警が関心を持っていたとの内容。
当の県警は「可能性のあるものは幅広く捜査したが、白装束団体については捜査したかどうかも含めて答えられない」とコメントする。しかし、ビラがまかれたのは事実で、事件の約四カ月前には岡山県内でキャラバン隊の代表者が逮捕されており、白装束団体が対象にならなかったとは考えにくい。
だが、事件はさまざまな可能性をつぶした県警の捜査にもかかわらず、有力な手掛かりはなく、今年二月に時効が成立した。一連の報道は憶測の域を出るものではないようだ。
今回の事件について、県警は犯行声明に白装束団体の記述がある以上、所要の捜査を行うとしているが、それはあくまで可能性のひとつ。捜査当局が強制捜査に乗り出す時期にわざわざ、「団体が脅迫状を送ってボルトを抜くとは常識的に考えにくい」との見方も示している。
1本でも騒ぎ
白装束団体と事件の関連に現実味が薄いとなると、団体を名乗った便乗犯の可能性もある。
「鉄塔倒壊事件と白装束団体の騒動を利用した愉快犯の仕業だろう」と瀬戸内短大の草間徳康教授(犯罪心理学)は分析する。
県民の間には五年前の事件の衝撃が鮮烈に残っている。「香川なら鉄塔であれば倒さなくても、ボルトを一本外すだけでも大騒ぎになる。犯人はそれを計算に入れていたはず」。
さらに、時効の前後に再び事件が繰り返し報道されたことが、犯行に影響した可能性もあるという。
草間教授は「白装束団体との関係を引っ張り出した方が、もっと世間が騒ぐと思いついたのではないか」と指摘する。
白装束団体は鉄塔などから出るスカラー波の被害を訴えており、放送局の電波塔と結び付けるのは容易な連想だ。
「鉄塔と白装束。騒ぎを大きくさせたい愉快犯にとっては、もってこいの材料がそろった」
白装束団体を名乗ったとしても、隣の愛媛県の鉄塔なら、これほど注目を集めただろうか。今回のボルト外しは、県内だからこそ起きた事件かもしれない。

四国電力鉄塔倒壊事件と、県の鉄塔が狙われた今回の事件を比較すると、何が違い、何が共通しているのか。犯行の手口や現場の状況を基に検証する。
倒す意思
四国電力事件の場合は、倒すことが目的としか思えない手口だった。支柱、補強材合わせて八十組あるボルトのほとんど(支柱、補強材合わせて計七十六組)が外されていた。
今回は四カ所の支柱を下部で支える補助部分のボルト十本が外されるにとどまっている。支柱部分のボルトには手を付けておらず、「直ちに倒壊につながるものではない」(県警)。倒そうという意図はなかったとするのが大方の見方だ。
工具
四国電力の鉄塔は、支柱の下からボルト(長さ十四・四センチ、直径二・二センチ)を入れ、上からナット二個で締める構造。一般家庭ではまず用途のない大きなボルトがはめ込まれていて、「ターニーレンチ」と呼ばれる特殊な工具など二種類以上の工具を使って取り外したことが、これまでの捜査で判明している。
県の鉄塔の場合、大型のボルトには手を付けず、身の回りで多く使われている小型のボルト(長さ七センチ、直径一・六センチ)だけが狙われた。やや大きめの工具があれば容易に取り外せるという。
鉄塔の保守を担当している業者は「一本一分で外せる。男性の力なら市販の工具で特別な知識もいらない」と証言する。
四国電力事件は、比較的短時間で取り外していることから複数犯の可能性が高いとされているが、今回は単独でも犯行可能とみられている。
犯行声明
四国電力事件では犯行声明は出ていないが、今回は朝日新聞社高松支局に脅迫めいた声明が送りつけられた。
書面は白装束団体「パナウェーブ研究所」の報道中止を求める内容。しかし▽新聞社に報道中止を求めながら、地元放送局のRNCへの脅迫になっている▽被害に遭ったのはRNCではなく県の鉄塔―など一貫性がなく、理解しにくい行動が目立つ。
四国電力事件は何の前触れもなく目的を遂行し、証拠となるボルトやナットを現場に残す大胆さがあるが、今回はボルトやナットが現場から消えている。
動機
四国電力事件では、県警は「相当な覚悟がなければ、巨大な鉄塔を倒せない。犯行の影には動機となる大きな原因やトラブルが必ずある」とみて▽企業への恨み▽愉快犯▽過激派―など、あらゆる可能性を視野に捜査したが、犯人や動機の特定には至らなかった。
今回の事件では、表面上は報道機関への脅迫が目的のようにみえるが、真意は判然としない。
共通点
犯行の対象が鉄塔で、人目に付きにくい場所にあり、ボルトが外されている点は共通している。動機や犯人像がつかめないのも同じだ。
四国電力事件との同一犯の可能性について、県警は「ゼロとは言い切れない」と慎重な姿勢を崩していないが、手口などに大きな違いがあることから懐疑的な見解を示している。
メモ
四国電力鉄塔倒壊事件
一九九八年二月二十日、坂出市の聖通寺山にある四国電力の送電用鉄塔(高さ七十三メートル)が人為的にボルトを抜かれて倒壊した。付近の約一万七千戸が停電、都市ガスも約九千戸で供給が止まり、番の州工業地帯の工場が操業停止に追い込まれたほか、交通信号機約六十基が停止するなどの被害が出た。動機が謎に包まれ、物証が乏しいことなどから捜査は難航。威力業務妨害など三つの罪が二〇〇一年二月に時効となり、残る電気事業法違反も今年二月に時効を迎えた。
(2003年5月18日四国新聞掲載)
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