シリーズ追跡 ストーンツーリズム/石のまち(牟礼庵治)の観光戦略
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産地活性化へ火付け役

 「庵治石」といえば最高級の石製品の代名詞。産地の牟礼、庵治は「石のまち」として発展してきた。しかし、安価な輸入製品や景気低迷のあおりで、産地は苦境に陥っている。石材業界はあの手この手の打開策を模索し、窮状を抜け出そうと懸命。その中で浮上してきたのが「ストーンツーリズム」。石材産業を観光資源に仕立て、産地活性化につなげようという試みだ。果たして「庵治石復権」の火付け役になれるだろうか。まちづくりの専門家のインタビューも交え、展望と課題を探った。

芸術家の卵に好評 業者、行政、住民の連携カギ アートの“面”づくり必要

庵治石が切り出される採石場。石材加工業者すらめったに見られない現場もツアーに組み込んでいる
庵治石が切り出される採石場。石材加工業者すらめったに見られない現場もツアーに組み込んでいる

 三月末、横浜や滋賀などから観光客十一人が牟礼、庵治にやって来た。庵治石の採石場や加工場を訪ねる石づくしの一泊二日。愛知県長久手町の主婦加藤園子さん(50)は「上っ面の観光では味わえない感動があった」と高く評価する。

募る危機感
 牟礼、庵治は庵治石の産地として四百年の歴史を誇り、日本三大石材産地のひとつ。その「石のまち」が昨年から、「ストーンツーリズム」と名付けた産業観光の試みに乗り出している。
 不況は庵治石にも影を落としている。安価な中国製品に押され、出荷単価も半値に下落。生産を中国に移す業者もあり、産地空洞化の兆しも見え始めた。両地域の出荷額はバブル景気の半分以下に落ち込んだという。讃岐石材加工協同組合(牟礼町)の山田一夫代表理事は「このまま手をこまぬけば産地がつぶれる」と危機感を募らせる。
 両地域は国の活性化促進事業の指定を受け、商品開発や販路開拓を目指すなど生き残りに必死。とりわけ庵治石ブランドにかげりが見え、再び消費者の目を向けさせるのが急務だった。
 そこで関係者の目に留まったのがグリーンツーリズム。農業などを体験しながら農山村で休暇を過ごす観光で、全国で導入例が増えてきていた。これを石(ストーン)に置き換えた。
 普段は立ち入りできない採石場、職人の加工技術を見学し、簡単な作業も体験してもらう。石に触れながら余暇を満喫する体験型観光を通じて、「産地活性化のけん引役にしたい」と山田代表理事は意欲をみせる。

ふいご(写真右)で火をおこし、煮込みうどんを調理する創作料理
ふいご(写真右)で火をおこし、煮込みうどんを調理する創作料理

演出に工夫
 地元町も構想を後押しした。県の観光地づくり推進事業に牟礼町が手を挙げ、庵治町も連携し、三者で昨年度に計三百万円を補助。モデルツアーを讃岐石材加工協同組合が実践した。
 ターゲットにするのは石材業者の後継者、芸術家を志す学生ら、そして一般観光客。「石材業者は商売、芸術家はイメージ向上、観光客は庵治石のPR」(漆原憲和副理事長)と目的別に“三本立て”の構えだ。
 昨年六月に石材業者二人、八月に美術大生ら七人を迎えた。学生には石彫作品に挑戦してもらい、若手職人が制作を支援。「世界的な彫刻家イサム・ノグチが拠点を構えた理由が分かった」と感想を残す学生もいた。
 今年三月の一般客の招待ツアーでは、観光地らしい演出に心を砕いた。昔ながらの遍路宿に泊まり、石工道具の精錬などに用いるふいごで火をおこした創作なべ料理を楽しむ。イサム・ノグチ庭園美術館や源平史跡巡りもコースに設定し、一泊二日の料金は一万円で済む見通しがついた。

準備が大変
 試運転の評判は上々。いざ発進の二年目に移りたいところだが、肝心の一般客を対象にした「観光商品化」計画は白紙に近い状態。高いハードルを前にして、一歩を踏み出せないでいる。
 観光の魅力をうんぬんする以前に、受け入れ態勢の整備が悩みの種。もともと石彫などに興味のある特定少数が当面のターゲットだが、それでも準備は困難が伴う。
 「どの業者が見学者を受け入れ、体験作業を支援するか。この日にこの人数で来てくださいと注文の多いツアーだから」と漆原副理事長は苦労をにじませる。
 一般観光客の誘致こそツーリズムの最大の目的のはずだが、現時点では多くて年間数十人の観光客の受け入れがやっと。PR効果は乏しいと言わざるを得ない。
 業界内部に温度差を抱えているのも足かせになりかねない。「また来年も学生を迎えたい」と熱心な若手業者もいれば、「目の前の商売で精いっぱい」と腰を引き気味の業者も少なくない。

専門の工具を使い、石彫作品づくりに励む芸術家コースの参加者
専門の工具を使い、石彫作品づくりに励む芸術家コースの参加者

点から線へ
 何より観光として評価した場合、その魅力には疑問符がつく。検討段階では当事者からも「特定の人が対象だとしても観光として耐えられない」と先行きを危ぶむ意見が相次いだという。
 松岡勝哉JTB高松支店長は「企画はおもしろい。ただ、観光商品という観点でみれば、石だけの内容では難しい」と厳しい見方を示す。その上で「他の観光地と連携を進め、点から線のツアーに変身させたらいい」とアドバイスする。
 その指摘に呼応するように、関係者の間では芸術ネットワークの声も広がっている。「イサム・ノグチの牟礼町、安藤忠雄の直島町、猪熊弦一郎の丸亀市で連携すれば、芸術に興味のある人に強く訴えられる」。
 現状ではストーンツーリズムの名前だけが先行し、観光客の誘致は置き去りにされたままの懸念が強い。生煮えの計画で見切り発車すれば成功は望めない。山田代表理事は「活性化の即効薬とは考えない。五年、十年先をにらみ、しっかりレールを敷いておかなければ」と自戒を込める。
 一般客の招待ツアーでは、史跡案内や創作料理に地元有志が活躍した。他地域との連携には行政の力添えも必要。町民も巻き込んだ開かれた試みでなければ、業界の自己満足に終わってしまう。産地一体の協力態勢を築くことが、成功の大きなカギを握りそうだ。

インタビュー 地域総合研究所長・森戸哲氏   

  テーマ型観光の試金石に

地域総合研究所長・森戸哲氏
もりと・さとし 東京大工学部卒、同大学院博士課程修了。専攻は都市計画、地域開発計画。まちづくりのシンクタンク・地域総合研究所を主宰し、熊本県小国町や愛媛県内子町などの地域おこしを手がけるプランナー。茨城県出身。59歳。

 ―ストーンツーリズムをどう評価するか。
 森戸所長 面白い。物見遊山的な従来のスタイルから脱却した新しい観光戦略を「ニューツーリズム」と名付けて積極的に評価しているが、その範ちゅうに入る。

 ―ニューツーリズムとは具体的に。
 森戸 ポイントは▽地元住民すべてが担い手となる▽地元住民と気軽に交流できる▽長続きする―の三つ。老舗と呼ばれる観光地が衰退していく一方で、これまで注目されなかった普通の地域が新たなスポットとして台頭しており、これらの多くはニューツーリズムの理念を実践している。

 ―観光客の意識変化も指摘されているが。
 森戸 そこが大事なポイントだ。住民の暮らしや文化、自然との深いふれあいなどを通した「新しい感動」を求める傾向が強くなってきた。大勢で温泉に来て騒ぎ、「ばかでかい施設」や「天下の奇観」を眺めるといった、最大公約数の感動を提供するやり方はだめになってしまった。

 ―新しい感動とは。
 森戸 何も特別なものを求めているわけじゃなく、当たり前のものに心が動かされる。まちを歩き、住民とふれあう。体験・交流・自己啓発などがキーワード。従来の温泉観光地はこれが弱く、ニーズの変化にうまく対応できなかった。再生のカギは「思わず歩きたくなるまち」だ。当たり前のものとして存在していた「石」に着目したストーンツーリズムも時代のニーズに合うはず。

 ―とはいえ、観光客のニーズは多様だ。
 森戸 情報社会の伸張で生活スタイル全体が大きく変容し、観光行動もお仕着せ型から自己選択型へと移った。趣味にあわせたテーマを設定し、決め打ち的に旅に出るのも近年の流行。自然、歴史、文化、食べ物…。テーマ自体もかなり細分化、オタク化している。

 ―香川でも該当するケースはあるのか。
 森戸 ダリの彫刻で知られる大内町のとらまる公園、直島町のコンテンポラリーミュージアムなどは「アート」目当ての人には最適。「食」ではやはりうどん。製めん所や隠れた名店を探しながら回る「うどんツアー」なんかは面白い。もちろんストーンツーリズムの将来性にも要注目だ。

 ―ただ、石だけでは苦しいように思うが。
 森戸 いろいろな組み合わせを考えてみればいい。源平の「歴史」、カキ小屋の「グルメ」、そしてイサム・ノグチ庭園美術館の「アート」。中心はあくまでストーンでいいが、牟礼町一帯の魅力をフルに生かした誘致戦略を練ることが問われる。郷土史に詳しい人をボランティアガイドに起用するのも一手だ。

 ―行政との効果的な連携も必要になる。
 森戸 船にたとえればかじを取るのが行政。正しい目的地へと誘導する重要な役目だ。しかし現状は、業界団体と一緒になってせっせと船をこいでいるような感じがする。香川の場合、瀬戸大橋特需で一気に観光客が流入したが、あっという間にブームは去って今に至る。県をはじめ、行政が観光を重要施策に位置づけ、長期的視野でコントロールすべきだった。

 ―瀬戸大橋のてつは踏まないようにしたい。
 森戸 観光は二十一世紀のリーディング産業になる。観光を切り口にすると、交通体系の見直しや環境保護への取り組み、遊びや食のエンターテインメントへ、すそ野は無限に広がっていく。自治体のメーン施策に据えてもいいと思う。

 ―最後に、牟礼・庵治にメッセージを。
 森戸 多数の入り込み客数を狙わず、たとえ少数でも心ある人が来てくれればいいという姿勢を大事にしてほしい。先にも触れたが、今後の課題としては町並みに「歩ける仕掛け」がほしい。

 福岡茂樹、黒島一樹が担当しました。

 (2002年4月7日四国新聞掲載)


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