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二月四日付、シリーズ追跡で取り上げた「死を待つ犬たち」。その直後からメールやファクス、手紙が相次いだ。「今すぐにでも引き取りたい」「年間八千匹も殺されているの」。初めて知った殺処分の現状に、読者は驚き、嘆いた。一方で「決して安楽死ではない」というお叱りのメールや「里親制度をもっと知りたい」という要望も多数届いた。今回は、追跡班に寄せられた読者の声を紹介するとともに、兵庫県動物愛護センターを訪ね、先進県の取り組みを聞いた。【→2002年2月4日「死を待つ犬たち」へ】
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| そぼ降る雨に打たれる犬たちの群れ。高松市朝日町の工業団地一帯には捨て犬が後を絶たない |
<年間八千匹もの犬がガスで殺されていることに驚いた。涙が止まらない>
<今すぐ一匹でも二匹でも引き取りたい。でも、それができません。辛い>
<タブーとされていた内容を取り上げて下さって、ありがとう>
読者から届いたメールや手紙、電話は約五十件。初めて知る現実へのたじろぎ、悲しみ、怒り、自己反省…。それぞれの思いが率直にぶつけられている。
学校で
<辛くて泣いている子もたくさんいました。現実はものすごく痛々しいものだということが分かりました。改めていろいろな事を考えさせられました>
クラスで記事を読み、話し合ったという中学生は<自分たちには何もできず、無力だということがとても悔しい>と書き送ってきた。
アクションを起こした子供たちもいる。
高松市の太田小学校では五年四組の児童が「小さな命を助けよう」と、犬の里親探しに協力を呼びかけるポスター約二百枚を作製。地域の家庭を回って掲示してもらった。朝礼でも命の大切さを訴えた。
「最初は犬を引き取って学校で世話をしたいという申し出でしたが、管理が難しい。保健所に相談して里親探しに転じたようです」と担任の福田衛人教諭。「事実をまっすぐに受け止め、自分たちでやれることをやろうと立ち上がった。すぐに行動に移せることは子供たちのすばらしさだと思います」。
苦痛は
<処分が終わるまで十五分、もだえ苦しみ暴れている音が聞こえてくるそうです>
大川郡内の女性は、県動物管理指導所を見学した知人の証言をもとに、<決して安楽死ではない>と強調している。
実は、投書の指摘で一番多かったのが「安楽死」表現に対するおしかり。ガス室に収容された犬について「一、二分で意識を失う。苦しみのない安楽死」と職員が説明した部分への異議申し立てだった。
動物愛護かがわ東讃支部長の三好鋭郎さんも<読者が「安楽死」と信じて、安易に保健所に持ち込まないか心配>と記事の影響を懸念。<どうしても助からない時や世話する人が見つからない場合、愛護グループでは獣医さんにお願いして、睡眠薬を注射してもらったあと、筋弛緩剤を注射し、真の安楽死を選んでいます>と付記している。
こうした読者の声に対し、県中部保健所の山地博之副主幹(獣医)は「一般的な症状として暴れたり、けいれんを起こすことはある」と説明。薬物投与による「安楽死」については「年間八千匹もの犬に一匹ずつ注射するのは物理的に困難。人慣れしていない犬も多く、職員に危険がつきまとう。ガスによる処分は職員にとって安全で、犬の苦痛も少ない」。行政が実施する方式としては現時点で最良との見解だ。
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| 追跡班に届いた読者からのメールや手紙の束。本社には問い合わせの電話も相次いだ |
190匹が
<飼い主に捨てられたうえに、つらい医学実験に回される犬がいる。学術的にも無意味な実験が多いとEUなどから非難されている。一日も早い廃止を>
香川町の女性は、県動物管理指導所から研究機関に実験動物として引き取られる犬の実態をきちんと書いてほしいと指摘。同じ趣旨の投書は数通あった。
動物愛護団体などの抗議をきっかけに捨て犬の払い下げを取りやめる自治体が相次ぐ中、香川など二十二道県が大学医学部などへの提供を続けている。県によると、捨て犬の譲渡先はすべて香川医科大で、昨年度は百九十匹が術式の改良や薬理作用を調べる基礎実験に使われた。
同医科大の宮下信泉助教授(動物実験施設担当)は「苦痛の除去には最大の配慮をしており、必要不可欠な実験に限定している」と反論。「払い下げが廃止されると、業者から犬を買うしかないが、それには予算が足りない」と内輪の事情も漏らす。
全国の研究機関が実験に使う犬は年間四万匹とも五万匹ともいわれ、その大半は業者が実験用に飼育している犬。ビーグルで十万円から十五万円が相場という。
「捨て犬の実験使用がかわいそうというなら、実験専用犬もだめ、ウサギもラットも全部だめという話になる。それでは医学研究は成り立たない」(宮下助教授)。
啓発を
<私も含めてみんな現状を知らない。里親などの情報をもっと流してほしい>(琴平町の高校生)
<平日の昼間、それも月にたった一回の講習会で、本当に里親探しをしていると言えるのでしょうか>(高松市の女性)
県の広報・啓発に対する不満も目立った。里親制度はパフォーマンスに過ぎないのではないかといった手厳しい声も。
昨年四月から実施している同制度について県は一度も広報紙で周知していない。「まだ一年足らずで試行錯誤の段階」と県生活衛生課。「新年度から、利用してもらいやすいシステムを検討していきたい」としている。

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| 保護された子犬は譲渡を目的に管理される。1日2回、入場者は自由に子犬と触れ合うことができる=兵庫県動物愛護センター |
兵庫県西宮市と尼崎市を隔てる武庫川。その河川敷に沿って兵庫県動物愛護センター(尼崎市西昆陽)がある。
ここでは一日二回、入場者が自由に子犬と接することができる。「一カ月前、山に捨てられていた子犬ですよ。ほら、人懐っこくてかわいいでしょ。あと一カ月もすれば、新しい飼い主のもとで社会復帰するんですよ」と芝崎繁樹事業課長。
中核施設
同施設は兵庫県が制定した「動物の保護および管理に関する条例」の中核施設として一九九八年四月にオープン。
全国の愛護センターは、殺処分場を併設するケースがほとんどだが、同センターでは殺処分場を組織下に位置づけながら、別の場所に建設。従来の引き取り、保護に加え、動物管理や愛護啓発にも積極的にかかわっている。
芝崎課長は「ここでは、一匹でも多くの犬を社会復帰させるのが職員の共通認識。その最たるシステムが譲渡」という。
香川県動物管理指導所では、成犬、子犬に関係なく三日間収容して処分される。同センターでは、原則、子犬は処分せずに譲渡のために管理するのが特長。
先ほどの子犬の場合、生後約二カ月で保護。以後約二カ月間、人間との交流やしつけ、健康チェックなどを重ね、万全な態勢で譲渡に備える。この間、HPなどで譲渡者を募集するが、「いつも申し込みが殺到、一〇〇%飼い主が見つかりますね」。
昨年度の子犬の引き取り、保護は百五十七匹、このうち七十三匹が譲渡された。所有者から直接引き取った五十八匹は、ほぼ完全に譲渡へ。しかし、健康上の理由や譲渡が困難な野犬化した子犬などは、やむなく処分場へ。成犬も「どう頑張っても(譲渡は)年に六、七匹が限度」(芝崎課長)だという。
飼い主責任
香川県動物管理指導所でも昨年から希望者を募り「里親制度」を始めた。里親になるためには事前講習会への参加が必要だが、同センターではむしろ、譲渡後の関係を重要視している。
芝崎課長は「譲渡者には地域の模範となるように要請しています。飼い主の意識改革となれば、行政の力にも限界がある。地域に石を投げ、その輪が広がる方が確実」という。
譲渡条件は▽しつけ教室への参加▽六カ月以内に不妊去勢手術を実施▽センターから家庭訪問(一カ月後、一年後、二年後)▽年に一回の譲渡犬同窓会への参加―などだ。
確かに効果は上がってきた。「十年以上さかのぼって比較すると、その差は明らか」と話すのは兵庫県生活衛生課。
県全体の犬の殺処分数は八八年の一万八千五百二十六匹から八千九十六匹(〇〇年)にまで減少している。「飼い主責任の意識づけが、県内全域に浸透してきたのでは」と同課は分析する。
いびつな現状
「立派な施設があり、譲渡も順調。兵庫県は進んでいる、と思われているでしょうね。でもね、現場のシステムは少々いびつなんです」。
芝崎課長の説明によると、同センターの管轄エリアは限られ、エリア以外の捨て犬は同センターに持ち込むことができず、各地域の保健所が引き取る。
ただ、その保健所では譲渡はできず、持ち込まれればすべて処分の対象になる。「ここに持ち込まれた子犬だけが助かり、他地域では処分。現場としては、そこが一番悩ましい」。
飼い主責任を放棄し、行政に押しつけている以上、「処分はやむを得ない部分。しかし、そういった飼い主責任の意識を変えるために、このセンターがあるんですよ」と芝崎課長。
兵庫県では近い将来、各地域にセンターと連携した出張所を配置し、そこで譲渡のシステムを立ち上げる計画を考えている。

<私に何ができるのか考えていると、夜も眠れないほどです><いったい、人間はどれだけえらいのでしょう。動物は人間のための「物」でないはず…>。読者のみなさんが訴える激しい焦燥感、答えが容易に見つからないいらだちを、取材班もいま共有しています。
捨て犬の殺処分は根源的な問いを多く含むテーマです。人間の営みはどこまで許されるのか。人が自らの食料とするために飼育している牛や豚は哀れではないのか。突き詰めると人間存在の罪深さまでに行き着いてしまいます。
抜本的な対策は「飼い主が最後まで面倒をみる」という道徳のイロハしかないのですが、モラルを説くことで事態が劇的に改善した試しはありません。ただ、わずかずつでも現状を変えていく手立てとして、ここでは二点を挙げておきたいと思います。
一つは、県動物管理指導所をもっと開かれた施設にすること。現在の施設は県民から隔離され、職員自ら認めるように、処分の機能だけが前面に出ています。
一方、別稿で紹介したように全国各地の動物愛護センターでは動物愛護の意義や正しい飼育法が、自然に学べるシステムになっています。迂(う)遠なようでも、地道な活動が愛護意識の向上につながるはずです。
もう一つは不妊・去勢手術の普及。「自然の摂理に手を加える人間のエゴ」「かわいそう」と手術を受けさせない飼い主が少なくありませんが、本当に「かわいそう」なのは、捨てられ処分され続けている動物です。深刻な現状を見る限り、繁殖の制限はやむをえないのではないでしょうか。
黒島一樹、宮脇茂樹、泉川誉夫が担当しました。
(2002年3月4日四国新聞掲載)
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