シリーズ追跡 琴電支援、首長インタビューの波紋
HOMEへ メニューへ HOME > 連載 > シリーズ追跡 > 記事詳細
| 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 | 2004 | 2003 | 2002 | 2001 | 2000 | 1999 | 1998
電車不要?とんでもない

 経営危機に陥っている高松琴平電気鉄道への行政支援をめぐり、四国新聞社が実施した「沿線一市八町首長インタビュー」(十七日付掲載)が波紋を広げている。「廃線になっても大きな影響はない」と「琴電不要」とも取れる発言をした四町長のおひざ元では、学校現場や観光業界がさっそく反発。「利用実態を踏まえていない」と冷淡発言の真意をいぶかる声が渦巻いている。一方で、税金を投入する再建支援には首長同様、慎重な対応を求める意見も少なくない。沿線の町を歩き、住民の声を聞いた。

困惑と反発 学校「生徒通えぬ」 「イメージ低下」と観光地

もし琴電が廃止されたら…(首長インタビューから)

 インタビューに対して「廃線になっても大きな影響はない」と答えたのが牟礼、志度、満濃、琴平の四町長。言葉にこそ出さなかったものの、「琴電不要論」と受け止めても差し支えのないほどにクールな反応だった。

●代替手段なし
 「そんな馬鹿な。困るなんてもんじゃないですよ」。突き放すような町長のコメントに真っ向から異論を唱えたのは、琴電利用の通学者を多く抱える教育現場だ。
 中でも深刻なのは琴平町の琴平高。全校生八百六人のうち、約百二十人が綾南、綾歌、綾上町など綾歌郡南部から琴電で通学している。しかも現状では琴電以外の手段が考えられないというから話はやっかいだ。万が一の事態になると、この百二十人はたちまち「立ち往生」。松尾光信校長は「定期の割引率が下がってもいいから、存続は至上命題」と訴える。
 実は、このエリアの公立高は綾南町の農経高だけで、普通科系の「空白区」。これまで新設論議がそじょうに上った形跡もない。その大きな理由は「東にも西にも琴電で通学できるという利便性の良さ」(東条正幸県教委高校教育課長)。
 事実、県教委はこの三町と国分寺町については第一、第二学区の縛りを解き、すべての公立高校を受験できる「自由校区」に指定。琴平高をはじめ、琴電とJRを乗り継いで善通寺や丸亀方面に通学する生徒も少なくない。ここでの琴電の存在意義は特別なのだ。
 牟礼町の高松北高(生徒数千百二人)では百六人が琴電で通学、併設の高松北中(百二十人)でも三十五人が利用している。高松市内からの通学者が多く、中心部の城内、玉藻、光洋中学校区などから自転車で通う場合は十キロ程度の「遠距離通学」になってしまう。
 通学路は交通量の多い幹線道路と重なり、事故の心配も出てくる。特に中学校は三分の一程度が琴電での通学。「体力的に劣る中学生は自転車ではきつい」と小川幸彦同校長。ほぼ平行して走るJRに切り替える手はあるものの、通学手段が一つ減ることは、緒に着いたばかりの中高一貫教育に水を差しかねない。

●薄い切迫感
 「新聞を読んでびっくりした」とはこんぴらさんのおひざ元・琴平町観光協会の近藤永次郎副会長。「琴電が消えるとイメージダウンもはなはだしい。レオマワールド休園から苦戦の続く状態に輪を掛けるだけ」と町長の不要論に反論する。
 さらに、町民への影響についても「JRは多度津駅での乗り換えが以外と面倒。つい居眠りしても、琴電は終点だから起こしてもらえるんだ」と身近な具体例を挙げて力説する。「一般町民は運転手つきの車で行き来できないんだから」。
 影響の大きさという観点では、町長の発言を突出気味に受け止める声も多い。しかし、支援のあり方や琴電への注文はほぼ同調だ。「影響はもちろんあるが、行政支援の前にまずは自助努力」。前述した四町議会の各議長は、判で押したようにこう答えた。「身を削っても絶対に支えていく」といった切迫感は今のところ乏しい。

●公約違反
 四町長とは対照的に「影響は大きい」と悲痛な声を上げたのが三木、綾南町長。両町など高松市周辺のベッドタウンはJRか琴電の沿線という前提で宅地開発され、順調に人口の定住が進んでいる。
 特に両町は琴電しかないだけに、トップの「絶対必要」論は切実。路線廃止ともなれば、利用者は「約束が違う」とやり場のない怒りを胸に、ハンドルを握ることを余儀なくされる。ラッシュの密度は段違いだろう。
 「怒るどころでは済まないよ。あと二、三本はバイパスを作らないと道がもたない」。高松市内の不動産会社社長は「結局は、県や沿線自治体が財政支援して路線を存続させたほうが安上がりで丸く収まる」と読む。

利用度 「影響なし」と言うが… 牟礼はJR比2.8倍

町別乗降人員(1日平均)

 「もし琴電が廃止されたら…」という刺激的なタイトルを付けた上記の図は、路線廃止の影響について沿線首長の考えを色分けして表したもの。これを見ると、琴電に代わる公共交通機関の有無が、首長の危機意識の温度差を生んでいることが分かる。
 しかし、本当にそうなのか。琴電の利用状況を分析すると、なかなかそうは言い切れない現実も浮かび上がってくる。
 琴電の「二〇〇〇年度駅別乗降客数」(一日平均)を基に、町ごとの乗降客数をまとめたのが「表1」。高松市を除く沿線八町のうち、乗降客が最も多いのは「廃止の影響大」とした綾南町で、町内五駅の合計は三千八百六十七人。利用者数(乗降客数の半分)は町人口の一割にも相当する。
 三木町でも町内六駅の乗降客は三千百六十四人に上っており、単純計算で年間百万人を超える乗降客の行方は、確かに町の発展を左右しかねない。
 では、「大きな影響はない」とした四町はどうなのか。
 満濃町の乗降客は一日わずか百五十人で、沿線八町の中では最も少ないが、牟礼町では町内七駅を合わせた乗降客は三千五百十人。その数は三木町を上回り、町内にあるJR駅(八栗口、讃岐牟礼)利用者の約二・八倍にも上っている。
 琴平町と志度町は琴電の駅が少ないため、乗降客数は牟礼町の半分程度だが、駅別乗降客数は八町内二十五駅中、琴平駅が千五百四十五人でトップ。志度駅も八栗駅(牟礼町)に次いで三位にランクしている。
 利用形態別では、綾南、三木、長尾の三町は通勤通学などの定期利用者が約七割を占めているのに対し、牟礼、志度、琴平の三町では四割を超える利用者が「定期外」。通勤通学のほか、買い物や通院など“交通弱者の生活の足”としてより広く利用されていることがうかがえる。
 「琴電とJRでは路線の走る場所が違い、利用者の目的も当然違うはず。JRの駅が近くにあるから代替できるとは簡単に言えないでしょう」と四国運輸局。こうしたデータをみる限り、もし琴電が廃止された時の影響は、どの自治体も決して少なくはないようだ。

冷淡発言の裏側 感情的しこり噴出 支援の是非、冷静に論議を

 「これほど琴電に冷たいとは」。琴電の支援問題を担当する県企画部の高木孝征次長は、首長インタビューの結果に驚きを隠せない。
 支援の前提となる琴電の必要性について、各市町長の見解を単純に色分けすると「三勝四敗二分け」。四町の首長は「琴電不要」と言わんばかりの口ぶりで、「支援の是非どころか、存続そのものが必要かどうかを議論しなければならなくなった」と高木次長。意見調整に乗り出す前に露呈した琴電アレルギーの強さに苦慮している。

●エスカレート
 「風当たりはきついが、公共交通機関としての琴電の重要性まで各首長は否定していない」。別の県幹部は「経営体質に対する根強い不信感が発言内容を必要以上にエスカレートさせたのでは」と指摘する。
 確かに、大半の首長が口々に訴えたのは地元に非協力的な琴電の姿勢。たとえば、スロープの設置やトイレの改修、踏切の拡幅工事など施設改善の要望にほとんど耳を貸してくれなかったとのクレームだ。
 「自分が困った時だけ泣きついてくるのは、虫がよすぎる。自助努力の徹底が先決」。こんな苦言も共通している。意趣返しというわけではないだろうが、くすぶり続けてきた不満が、経営不振の表面化を契機に一気に噴き出したといえそうだ。
 琴電批判の激しさが際立った牟礼町の場合は、「別の要因もある」と元町議は話す。
 同町は琴電志度線と国道11号、JR高徳線が近接、平行して町内を横断。南北の交通を阻害しているのに加え、国道沿いの土地利用が思うに任せない悩みを抱えてきた。
 「この際、琴電の軌道が消えた方が都市整備には好都合という思惑が重なって、厳しい発言になったのではないか」。元町議は「電車がなくなってもいいと思っている住民はほとんどいないでしょう」と、町内の空気を代弁した。

●現実踏まえて
 琴電は今週中にも再建計画を県と沿線市町に提示し、行政支援を正式に要請する。これを受け、県は沿線自治体などを含めた協議会を設置したい意向で、行政支援の是非がいよいよ協議のテーブルに乗る。県や関係市町の議会でも「琴電問題」に論戦が集中しそうだ。
 琴電アレルギーの強さを考えると、支援策はすんなりまとまりそうにないが、過去のあつれきにとらわれた論議は避けてほしい。いわゆる“交通弱者”が電車を利用している現実が後景に退くことがあってはならない。

黒島一樹、古田忠弘、泉川誉夫が担当しました。

(2001年10月29日四国新聞掲載)


ご意見・ご感想はこちらへ

前へ戻る 画面上部へ  
Copyright (C) 1997-2012 THE SHIKOKU SHIMBUN. All Rights Reserved.
サイト内に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています