豊島の轍(てつ)を踏まぬようにと、県外産廃の原則持ち込み禁止をうたう要綱を制定してから十年。その封印を解く手だてをめぐって激しい攻防となった九月議会の総務委員会は、議員提案による条例制定を目指すことでようやく決着した。要綱見直しで何とか乗り切ろうとしていた県にとって、きついお灸をすえられた格好だ。久しぶりの政策提案に盛り上がる県議会だが、ひじ鉄を食らった県にも言い分はある。今回は県外産廃受け入れ構想の論点を探る。
兵庫県警の捜査で、豊島における国内最大級の産業廃棄物不法投棄事件が発覚したのは一九九〇年の秋。県は翌九一年に県外からの産廃持ち込みを原則として禁止する「産業廃棄物処理等指導要綱」を制定した。直島のエコタウン構想を契機とする県外産廃の受け入れは、以来閉ざし続けてきた扉を十年ぶりに開く政策の大転換だ。
 |
| 1年半ぶりに知事も出席した9月議会の総務委員会。議員提案による条例化を目指す方向で固まった。会派横断による研究会が始まる見通しだ=県議会 |
●反 発
ことし八月の総務委員会で、県は情報公開の徹底を柱とする五項目の受け入れ基準(表参照)を盛り込む形で要綱の見直し案を明らかにした。
ところが、議会の大勢はノー。「何の担保もない要綱では心もとない。県民の不安を払しょくするためには条例だ」。行政の内部指針にすぎない要綱は罰則規定がなく、さらに改正の場合に議会を通す必要もないなどの点に議会は猛反発。議員提案による条例化の模索へと発展していく。
その条例化の方向が固まった十五日の九月議会総務委員会は、同一議会で二度目の委員会審議という「異例中の異例」(県議会事務局)の出来事。さらに、議会が県の当局案に真っ向から異を唱え、議員提案までして代案をひねり出そうというのも近年では珍しい。
要綱の見直しを念頭に県外産廃の受け入れ基準を検討してきた県環境審議会計画部会(部会長・岡市友利前香川大学長)。条例化が固まったことで十九日の審議は紛糾し、審議を中止した。審議会が諮問事項の審議を中止するのも極めて異例という。
相次ぐ一連の「異例事態」からは、産廃をめぐる県行政への根強い不信感がくっきりと浮かび上がっている。
●理念の後退?
要綱見直しを唱える県側にも理由はある。上位法にあたる廃棄物処理法との整合性の問題だ。
同法の基本理念は廃棄物の広域処理。「適正処理が保証されるならば処理する場所は問わない」と解釈されている。県外産廃の受け入れに関する条例をつくる場合、「上位法の趣旨に抵触する条例は難しい」(多田健一郎県環境局長)わけで、要綱に定めた「県外産廃の原則受け入れ禁止」は盛り込めない。
法体系の規制を受けない要綱でさえ、厚生省(当時)の強い抵抗を押し切った経緯がある。ましてや今回は条例。実効性を高めるために、要綱の基本理念を代償として手放すことになる。県が条例化に難色を示す大きな理由もそこにある。
県廃棄物対策課によると、同趣旨の条例は三重、岐阜県などで制定されているが、県外産廃の原則受け入れ禁止を明文化したケースはない。
「いや、原則禁止は崩さない」と反論するのは総務委員会の塚本修委員長。厳しい基準があれば、明文化せずとも原則禁止の理念は維持できるとの考えだ。「持ち込むのは再資源化できるものに限る。禁を解いて県外からも受け入れることについては、『産廃』という悪いイメージでなく、循環型社会を構築する原資と理解してほしい」。
●責任明確に
県外産廃というと、どうしても豊島の悪夢が頭をよぎる。県議の一人は「県に武器を持たせないと、何かあった時に責任を負わせられない」と条例化を後押し。返す刀で「県が提示した基準は単なるお題目。そのまま条例化しても実効性には疑問が残る」と苦言を呈する。
県には、管理者としての強硬姿勢と有事の際に自ら退路を断つ覚悟が問われている。「民間企業の事業活動だから」と言って逃げることはもう許されない。県民の求めるハードルは高い。
ともあれ、議員提案による条例起案が本格的に動き出したこと自体は歓迎できる。豊島問題が最終合意を迎えようとしていた昨年五月にも、自民党議員会の若手を中心に産廃の適正処理に関する条例作りを模索する動きがあったが、結局実現しなかった。地方分権の潮流の中、地方議会の政策立案能力が問われている。ここが力の見せ所だ。
総務委員会のメンバーを中心に、各会派による研究会が間もなくスタートする見通し。実現すれば一九六九年以来、実に三十二年ぶりになる。

県外産業廃棄物の主な受け入れ基準案 |
 |
「直島のエコタウン事業の推進には、県内の廃棄物だけでは成り立たない可能性が強い」 五月下旬の定例会見。真鍋知事は、県外産廃の受け入れを前向きに検討する意向を示した。これが論議の始まりだった。
●不可欠
県議会に事業案が示されたのは、その一カ月後。
県が建設する豊島産廃の中間処理施設とは別に、三菱マテリアル直島製錬所が独自の溶融処理施設を新設し、県内・県外から搬入されたシュレッダーダスト(自動車破砕くず)などを処理するというもの。
下のイラストで示すように、同製錬所が新設する溶融施設は月五千トンの処理が可能。県内で発生するシュレッダーダストは約八百四十トンと推測され、エコタウン事業の承認・稼働のためには、県外産廃の受け入れが不可欠となる。
石井亨県議は、この構図をこう分析する。
「豊島産廃の飛灰を処理する製錬炉が事業に含まれているわけだから、豊島産廃の処理は、エコタウン事業と並行して進めないと滞ってしまう、ということになりますよね」 石井県議はため息をつきながら、「結局、エコタウン事業は県外産廃の搬入が前提の話なんですよ」。
●時代の流れ
県外産廃受け入れを全県に広げることについては、県内部に論議がなかったわけではない。
「直島に限る(県外産廃の)受け入れも一つの選択肢だったかもしれない」と多田健一郎環境局長は振り返る。
しかし最終的には、エコタウン事業を契機にリサイクルができる産廃に限って搬入を認め、基準を満たした県内事業者についても処理を認めるという方針に転換、エコタウン事業に限定した基準でないことを明らかにした。
県廃棄物対策課の西原義一課長は「時代は循環型社会を構築しようという流れ。その中で、受け入れ基準を明確にし、方向性を探りながら(受け入れを)認めたい」と説明する。
エコタウン構想は、地域にある産業を生かしながら、産業廃棄物を再利用する資源リサイクルを徹底することで、廃棄物をなくすゼロ・エミッョンの実現が目的。
県は、直島町の活性化、雇用の場の確保などを視野にいれながら、地元の三菱マテリアルを有効的に利用するスキームを立ち上げた。
ただ、県の提示のタイミングに議会内で不満はくすぶった。エコタウン構想が浮上してきた段階で、「ある程度、(受け入れ案は)想像できた」という県議の声もあるが、「結局、事業案の提示段階で県は、どうしましょうか、というポーズを取りながら選択肢を与えていなかった。消化不良ですよ」。
●発生抑制
「エコタウン事業がいい悪い、という以前に整理しなければならない問題があるのでは」。石井県議はこんな疑問を投げかける。
豊島の教訓は「使い捨て」から「発生抑制」への転換。今回の循環型社会の構築は、まさに発生抑制が第一義的に存在するが、その部分がよく見えない。
ごみを出しても処理すれば問題はない、という風潮に不安を感じている住民も少なくない。「逆の見方をすれば、この事業が成り立たない社会こそが、循環型社会の構築」だと石井県議は強調する。
「ごみを出さない」という理念がエコタウン事業、リサイクル・システムに注入されて初めて、その構想に“命”が吹き込まれる。県民や搬出先の自治体、企業に、その理念が伝わるよう県のスタンスを明確にすることが、循環型社会の構築には欠かせない。
黒島一樹、宮脇茂樹が担当しました。
(2001年10月22日四国新聞掲載)
|