| 一九九〇年五月、シリーズ追跡の第五回で取り上げた「なぜ遅れる週刊誌」。東京などに比べ週刊誌が二日遅れで発売される香川の読者の嘆きを取り上げ、反響を呼んだ。あれから十一年、事態は一向に改善されていない。対照的に岡山、広島では三月中旬から一日短縮され、東京圏の翌日発売が実現した。この高速交通時代、情報化時代に香川では、なぜ二日遅れが改善されないのか。読者はいつまで、このデメリットを受認しなければならないのか。二十一世紀に持ち越された「同一地区同時発売」の制度と、幾つかの「なぜ」を追った。

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| 東京からトラックで搬入された週刊誌や書籍。運送会社のターミナルで各書店別に仕分けされる=高松市内 |
やはり不満はくすぶっていた。
男性会社員(42)はあきらめの表情。「香川へ転勤になるまで、定期的に購読していた週刊誌がありました。二日も遅れると、何か損をしたようで…。定期購読は打ち切り、今は喫茶店で読んでいるだけですよ」と漏らし、「これだけの情報化時代なのに、なぜ週刊誌には地域格差が…」と疑問を口にした。
●岡山のアピール
「情報の新鮮さは二、三日までが勝負。それが遅れてしまうと、週刊誌としての価値を失ってしまう」と岡山県書店商業組合の吉田達史理事長。
「一日短縮」の発端になったのは、読者の声だった。
岡山県日生町と兵庫県赤穂市は県境を挟んでお隣同士。「百メートル向こうの書店では東京と同日発売。なのに、岡山はそれより二日遅れ。わずか百メートルの距離なのに二日間の格差。なぜ」。
「これじゃ、読者も納得しないでしょうね」と吉田理事長。
こうした声をもとに、同商業組合は粘り腰のアピールを続けた。広島や中国地方の各書店組合も巻き込み、事あるごとに取次会社、雑誌協会、大手出版社などに発売日の繰り上げを要望した。
香川でも十六日から週刊文春、週刊新潮、女性セブン三誌の発売日が一日繰り上がった。
これまで文春、新潮は東京圏で木曜日、県内では土曜日発売。日本雑誌協会は「新潮、文春は官公庁や会社での定期購読が多い。週休二日制だと、実際に読むのは月曜日。そうすれば二日どころか四日遅れ。読者、書店からの要望が強かった」と説明する。
●流通の拠点
新刊流通の拠点となる取次会社は、出版社と全国各書店を中継する重要な役割を担っている。(図参照) 出版社は全国に約四千社あり、その約八割が東京に集中する一極集中型。
出版物は「多品種少量」の商品特性から消費地での生産(印刷)が難しく、大半が“東京生産”。これを受けて、約四十社(日本出版取次協会加盟)ある取次会社のほとんどが東京に集中している。
東京の大手取次会社の場合、週刊誌は東京圏発売の前日午前八時までに印刷会社から同社のターミナルに搬入される。一日約三百三十万冊(書籍などを含む)を、全国約一万一千店の契約書店別に仕分けして、各地の発売日に合わせて順次発送している。
四国エリアは二日遅れ。発送は後回しになる可能性は強い。
それが<一日目の壁>になっているのも確か。
「各拠点の印刷工場から直接、発送する新聞流通ルートとは違い、取次会社には、膨大な出版物が一度に集中する。その仕分け、発送作業に費やす時間は物理的に埋めきれない部分がある」(日本雑誌協会)のが現状だ。
●徐々に改善へ
それではなぜ、香川の対岸で一日繰り上げが可能になったのか。
岡山の場合、週刊誌は東京圏発売日の前日夜に発送され翌朝、岡山に到着(一日目)。まる一日をかけて県内各書店別の仕分け作業をし、翌日、一斉に各書店へ運ばれるようになった(二日目)。
「従来よりも一日早く東京を出発する事が可能になったんです。取次会社の仕分け、発送作業が短縮されたと聞いています」(吉田理事長)。
出版社、取次会社ともに目指すのは同日発売。地図の色分けでも分かるように、同日発売に近づくよう近隣のエリアから徐々に改善されている。岡山の場合、隣の兵庫との格差が二日だった。これが改善の対象になったのも事実。
「現在、北陸三県からも要望が来ており、流通体系などの改善が可能かどうか協議している」と日本出版取次協会の平野事務局長。最近では、一九九九年六月、九州全域が三日遅れから二日遅れに、翌年には青森県が一日遅れに改善された。
海を隔てた香川には、まだ改善の声は聞こえてこない。だが、隣県の岡山、徳島が一日遅れ圏内になったことで、わずかながら改善の“足音”は近づいてきた。
●大きい負担 発売日の繰り上げによって、取次会社の負担は大きくなる。
平野事務局長は「岡山の繰り上げによって、取次会社は作業工程を見直し、発送時間を繰り上げるなど特殊な作業体制で取り組んでいる」と強調する。
しかし、読者が求めるのはリアルタイムな情報。一日遅れでも、二日遅れでもない。
出版社の中には、インターネットとの一体編集や読者への直送システムなど、読者と直結する新しい流通体系を構築し、“時差”を解消しようという動きも顕著だ。やがて、「二日遅れの情報には見向きもされなくなる」(男性会社員)事態も予想される。
業界内の動きも、ここにきて活発になった。「一日でも早く発売日を統一しようと努力している。そのために協会内で研究会も立ち上げ、作業工程、流通体系などの再検討も急いでいる」(平野事務局長)。

発売日二日間の格差が、まるまる送り手側の事情で生まれているかといえば、実はそうではない。遅れの半日分、いや、ほぼ一日分は受け手の都合に起因している。
●一晩寝かす
本県向け書籍類を一手に扱う高松市内の指定運送会社に配送の仕組みを聞いてみた。
「東京で月曜発売の週刊誌があるとしますね。同じ週刊誌を積み込んだ当社のトラックが東京を出発するのはその日の夕方」(担当者)。発送段階で生じているこのタイムラグが即ち、前項で紹介した<一日目の壁>だ。
トラックが高松のターミナルに着くのは翌火曜日の朝八時ごろ。すぐに仕分け作業にかかり、昼過ぎから方面別に順次発送、郡部は夕刻までに各ブロックの集配所に搬入し、そこでいったん保管される。
一方、高松市内と周辺地域は同社が直接配送するためターミナルにそのまま留め置き。翌水曜日の朝、県内一斉に書店、コンビニエンスストアなどに配達―という段取りになっている。つまり、留め置きさえなければ高松圏域の場合、火曜の午後早くに週刊誌が店頭に並べられる計算。倉庫で一晩寝かさずに、すぐに配送してくれればよさそうなものだが「週刊誌の書店引き渡しは東京発送から三日目の午前中。取次協会から厳命されている」と担当者。
出版・取次業界は小売店間の公正な競争を確保するためとして、ほぼ都道府県単位で発売日を統一している。「同一地区同時発売」と呼ばれる、この横並び制度が発売遅れの<二日目の壁>だ。
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| 一部の週刊誌は1日繰り上げが実現したが、大半の週刊誌は2日遅れのまま=高松市内 |
●時代遅れ
「高松の発売が郡部より一日早い時代もあったんですがね」
県書店商業組合の政本公男専務理事は「近辺の書店がターミナルまで雑誌を引き取りにきて、いち早く店頭に出していた」と話す。早い話が制度破りのフライングだが「慣行として黙認されていた」という。
ところが十数年前、空前の少年漫画ブームで事情が一変。人気雑誌は奪い合いになり「発売日のずれは死活問題」と郡部の書店が組合を突き上げた。この時、発売日を「後ろ(郡部)に合わせて統一」(政本専務理事)したのが、二日遅れの定着につながった。
それにしても、この情報化と高速交通の二十一世紀になお解消されない中央と地方の発売日格差。しかも、業界内部の決め事を守るために雑誌の発売をわざわざ後ろにずらす現行制度は、競争の公正確保というより、むしろ競争の制限と映る。独禁法上の問題はないのだろうか。
公正取引委員会四国支所の説明は「東京と香川の書店は通常、競合関係にないため、発売日に格差があっても不合理といえない」(藤本敏行総務課長)。一方、競合関係にある県内の書店については「対等な競争条件を確保しておく必要がある。発売日の違いは公正な競争を阻害する」。要するに法的には問題なしとの見解だ。
しかし、同一発売日イコール対等競争の等式が成立するのは、一般書店しかなかった時代の話。「コンビニの急増で、『同時発売』は事実上空洞化しとるよ」と高松市内の書店経営者は言う。二十四時間営業のコンビニでは午前七時ごろには新刊雑誌が店頭に並び、通勤、通学の途中に買い求める姿が少なくない。小売り業態の多様化が購買の行動パターンを大きく変えている。
「コンビニの要請で雑誌の配送時間帯はどんどん前倒しされてきた。いずれ、夜中の零時まで繰り上がって、発売日の取り決めそのものが無意味になるんじゃないか」
●対岸の火事
「岡山、広島の一日短縮? うちの組合ではあまり話題になってないな。文字通り、対岸の火事扱い」。ある書店関係者は「よそより発売が遅くても、県内さえ一緒ならよしとする風土だから」と、香川のぬるま湯ムードに気をもむ。
実際、「たかが一日、二日の遅れに目くじらを立てなくても。読者の不満だってあまり聞こえてこない」と言い放つ書店主は少なからずいるという。「取次会社が東京発送を前倒ししてくれさえすれば片付く話」と、中央にゲタを預けて傍観者を決め込む声も。
読者の最も身近にいながら、読者の便益を第一義に考える姿勢はそこには感じられない。<一日目の壁>より<二日目の壁>の方が、問題の根はどうやら深い。
宮脇茂樹、泉川誉夫が担当しました。
(2001年4月2日四国新聞掲載)
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