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「同和問題に協力してほしい」。突然、見知らぬ人から電話があり、有無を言わせず高額図書が送り付けられる―こんな現象が、県内各地で多発している。同和団体の関係者を装った違法すれすれの商法だ。いやだったら送り返せばいいのだが、「同和問題」という言葉にこもる偏見が、消費者の行動を鈍らせる。被害はやみに沈み、新たな差別意識が首をもたげる。怒ったのは部落解放同盟県連。実態を調査し「悪徳商法撃退」の冊子まで作った。が、ゲリラ販売は一向に収まらない。この現象は何を示し、どこが問題なのか。今回は、悪質書籍販売の問題点を探る。

「同和団体の関係者ですが、運動に賛同して本を買ってもらえませんか…」
始まりは一本の電話だった。昨年九月、大川郡内の会社事務所。電話の相手は丁寧な口調ながら、威圧感のある低い声。およそ三十分にわたって経営者に本の購入を求め続けた。
買うとは言ってないのに、しばらくすると約七百ページの厚い本が送られて来た。請求書の額は五万二千円。「断ったら面倒になる。荒立てたくない」と考えた経営者は、指定された口座に金を振り込んだ。
しかし、話はそれで終わらなかった。一カ月後。「前回、お宅が買った本は偽物。われわれも非常に迷惑している。ぜひ本当の運動に参加してほしい」。別の男性から電話があり、本を送り付けられた。
氷山の一角
これは一つの例だが、同和団体の関係者を装った人物に高額の書籍を無理やり買わされる被害が県内で相次いでいる。
県や高松市の生活センターに相談があったのは、九年が四件、十年が七件。これとは別に高松法務局には、九年に十二件、十年に七件。表に出てきた数は少ないが、県中央生活センターは「実態は泣き寝入りしているケースが多い」と分析する。
法務省が九年、全国六千の事業所を対象に実施した調査では、同和団体の関係者を名乗る者から不当な要求を受けた割合(被害率)は、回答のあった事業所の一九・八%。そのうち、要求に応じた割合(応諾率)は二七・八%で前回(六年)の調査を、それぞれ約一ポイント上回った。
西日本のほぼ全域で被害率が急増。地域別では、四国が二六・六%でトップ。四国は応諾率も高く、前回(四一・三%)より下がったが、二九・三%で全国二位となっている。
業種別では、建設業、信用金庫・信用組合、農協が被害のトップ3。応諾率は、農協が三六・六%で最も高く、次いで建設業の三五・二%。三位にはマスコミと卸売業が二九・二%で並んでいる。
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| 部落解放同盟県連がつくった「悪徳商法撃退」の冊子 |
虚像におびえる
なぜ、被害は止まらないのか。
「最初にはっきり断ればよかったんです」と冒頭の経営者は振り返る。「でも、同和といえば怖い、というイメージがあったし、面倒になったら困る。五万円で済むことならと…」。電話の相手が同和団体の関係者であることは疑いもしなかったという。
県中央生活センターによると、「断ると、同和問題に対する理解が足りない。そちらに出向いてもいいんだぞ、などと脅された」ケースもあった。
「本を売ること自体は問題ではない。その売り方と、買った人がどう受け止めるかなんです」。部落解放同盟県連は、問題のポイントを説明する。
同県連が把握した昨年一年間の被害は四十二件。普通なら買わない本でも、相手が同和団体の関係者だと思って仕方なく買う。そして「恥ずかしい」と買ったことを伏せる。
「買う側が無知で、だまされやすい。知らないことで被害を受け、さらに差別意識を増殖させる」。同県連は、四国の被害の多さは、同和問題への理解不足の裏返しとみる。
動かぬ行政
分厚く、布張りの箱に入った豪華本。数種類ある本の内容は「古い文献や行政資料の転載、本や雑誌、新聞などからの無断引用がほとんど」。同県連は「全く五万円の価値なし」と切り捨てる。
最近では、解放新聞などをコピーした「機関紙」を送り付けるケースも増えている。年間購読料一万五千円。本を作るよりもずっと手軽な手口だ。
「本来は行政の問題。消費者問題として取り組むべきなのだが、なかなか腰を上げない」と同県連。このため、今年四月には悪徳商法の実態を示した冊子を発行、県民に注意を促している。
一方、四国の人権問題の「とりで」ともいえる高松法務局。人権擁護部の白石敏文第二課長は「四国で被害率が高いことは真剣に受け止め、重点を置いている」と説明する。
昭和六十二年から年に一度、国の機関や弁護士会、警察などが「エセ同和行為対策連絡会議」を開き、情報交換しているが、ポスターの掲示や講演会など以外、特別な対策は講じてないのが現状だ。
各方面から取り組みの手ぬるさを指摘されながら、「効果的な啓発方法があれば教えてほしい」という法務局。県条例で、被害が広がらないよう啓発する義務がある県も、動きは鈍い。中心となるべき機関の意識が変わらない限り、同和を装った悪質商法根絶の日は遠い。

一般的な広告、宣伝の域を超え、欲望をかきたてたり、不安を増幅させたり、善意を利用したり…悪質商法は、仕掛ける側と消費者の心理戦だ。この戦いを制するには、武器となる消費者保護の仕組みや法を知っておく必要がある。
送り付け商法
買う意思も示していないのに、商品を一方的に送り付け、代金を要求する販売方法は、「送り付け商法」とか「ネガティブオプション」と呼ばれる。
今回の場合だと、「人権を守る運動に協力しなければ」といった善意などを逆手に取る商法。注文した覚えがなかったり、差出人に心当たりがなければ、受け取らないのが一番だが、受け取っても商品の返送や代金の支払いは要らない。
訪問販売法は、十八条で商品が届いて十四日間、或いは業者に引き取りを求めて七日間を過ぎれば、自由に処分できることを明記している。ただし、その間は使ったり、処分してはいけない。包みを解いたり、破った程度は、問題ない。
クーリングオフ
電話口などで買う約束をした場合でも、契約日から八日以内なら、約束を取り消すことができる。「クーリングオフ」という制度。「約束した」「しない」で争う必要はない。消費者が一方的に契約解除できる。
簡易書留のはがきか内容証明用紙に、契約日、相手の氏名・団体名、商品名と金額、自分の住所・氏名・電話番号、「商品購入の契約を解除します」旨を明記し、送ればよい。
問題は心理的抵抗だが、人権擁護に真剣に取り組んでいる団体なら、違法すれすれの商売などするわけはない。「いらない」のなら、その意思を明示するのが肝心。トラブれば最寄りの生活センター<県中央生活センター=087(833)0999>に相談すればよい。
部落解放同盟県連が香川の実態や撃退法をまとめた冊子は、同県連<0877(24)6688>に余部がある。三百円。

解放運動とは無関係 信用を落とす、許せない
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杉田博希さん
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―今回の商法で、どういう事態が起きているのか。
杉田委員長 ああいう売り方だから、「やっぱり同和は怖い」というイメージを植え付け、振りまいている。その結果、「彼らは差別されてもしようがない。こんな本を五万円もで売るんやから」となる。
―新たな差別をばらまいていると。
杉田 そうだ。消費者も被害者だが、私たちも被害を受けている。真面目に差別の解消や人権を守る運動に取り組んでいる者、それに協力している人たちが、「きれいなこと言うて、陰でこんなことしとる」となりかねない。解放運動とは無関係だ。
―対応は。
杉田 本来は、私たちがすべきものではない。しかし、五年ほど前の「網の目行動」でそういう事実があることを知り、消費者問題として取り組んでほしいと行政に訴えた。が、腰を上げてくれない。そのうち、丸亀でも訪問販売が始まった。被害が増え、「同和」の名があることで、新しい差別意識が増殖してきた。放っておけない。昨年一年間、多くの所にお願いし、私たちが窓口になって実態を調べ、冊子を作った。
―冊子には、昨年の詳細なデータがある。この年から目立ち始めたのか。
杉田 そうだ。県内で年間三千件近くの被害があると推定している。議員が約千人いるが、二割近くは買っている。それに行政や企業関係者。最近は、個人の被害も増えている。
―版元にはどうアプローチしているのか。
杉田 必要ない。ただ、最近は解放同盟を名乗り始めている。今後は名をかたれば、法的手続きを取りたい。島根などは解放同盟が弱い。そこで強い組織を名乗っている。今一番使える代名詞を使い、巧みに商売をしている。資金がどこに流れているかも気になる。国税とも連絡を取りたい。行政の消費者保護窓口が機能してないのも問題だ。
―法務省の調査では、四国の応諾率が際立って高いが。
杉田 原因は良く分からない。私たちの力不足かもしれない。ただ、三十年前だと、だれも買わなかった。送り付けられても「なんでこんな本、五万円も出して買わないかんのや」で済んだ。薄く、広く、差別してはいけない、同和問題は理解しないといけないと認識されてきた。しかし、その社会的、歴史的意味が本当に理解されたのではない。その意識のすき間にこの問題が入り込んだ。この商売が香川で成立するのは、正しく認識されればそうではないのに、「同和は怖い」「断ったら何されるか分からん」という社会意識が、依然残っている証明だ。
―それはポイント。「一部の行き過ぎた確認・糾弾などがそうした意識を生んだ」との指摘もある。
杉田 長い歴史の中で、確かに行き過ぎもあった。しかし、背景を見つめてほしい。私たちは、教育を奪われ、字も書けず、対等にものも言えなかった。そういう中での確認・糾弾。大勢が押しかけるという現実があった。
―それは分かるが、「差別してきたから仕方ない」では、変わらない。
杉田 地対協が「行き過ぎた糾弾」という前に、私が支部長の琴平支部は、糾弾闘争に新たな方向を示した。二十年前から、確認・糾弾はしないということで取り組んでいる。当時、ある高校で問題が起き、糾弾の集会があった。数百人が当事者一人を取り囲む。私はそれを見て「オレでも逃げたい」と思った。それがきっかけ。それから、地元の小中学校との社会科の教科書をめぐる懇談などを通して、最終的に「確認・糾弾はしない」という決断をした。
―画期的だった。
杉田 当時の県連幹部に呼ばれ、「オレらから狭山闘争と糾弾闘争を取ったら何が残る」と怒られた。が、私たちが「良き日」を迎えるには、教育が大事。先生が教壇に立ち、教べんを振るいやすくしたかった。ただ、差別を放置するのではない。町全体にもそういう方向を広げたが、町民サイドから問題が出れば、指導には行政が当たる。私たちは差別した当事者には会わない。そういう方向を続けている。
―県全体も。
杉田 県連もそうだ。闘争本部を中心に少数の話し合いを持ち、終結させている。全国的にそういう方向を手繰っている。香川の確認・糾弾について、もっと知ってほしい。決して過去のようなものはない。相手の人権も考えている。
―運動も変化している。
杉田 そうだ。琴平支部は昨年四月から「自立促進」を掲げ、地対財特法で定められた制度十三項目を全世帯が辞退した。自分でできることは自分でやろうということ。が、全国に浸透するには時間がかかる。
―人権についての研究所構想も進んでいるとか。
杉田 先人の積年の思いを果たせる状況が出てきた。研究所は七月に設立する。外部からのアドバイスも聞き、私たちの運動が県民に受け入れられる方向に導きたい。歴史もきちんと残す。先人が人材育成の場として求めていた「解放会館」も丸亀市内に用地を確保し、「人権教育推進センター」(仮称)として県の補助も付いた。香川の人権のとりで、発信地にしたい。来るべき人権の世紀に向けて大きな事業に取り組んでいるからこそ、悪徳商法を撲滅しないと信用を失墜する。
山下淳二、大西正明が担当しました。
(1999年5月31日四国新聞掲載) |