| 土庄町・豊島の産業廃棄物を使い、無害化を基本に、量を減らし、リサイクルの道を探る実験が始まった。約50万トンに上る豊島の産廃は、シュレッダーダスト(自動車破砕くず)が主。文明の申し子ともいえるこのごみは、年々増え続けているのに、処分場の限界は近い。いったん、廃棄されたこのダストを周辺の土などとともに焼き、溶かす今回の実験は、豊島を元の島に返す一歩となるばかりか、同ダストの処理問題全般に光明をもたらすのではないかとの期待を集めている。豊島産廃中間処理実験の内容を詳報し、その意味を考える。

溶融3方式
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| 豊島産廃の処理実験が初めて行われた新日鉄のガス化溶融一体型方式の試験炉=北九州市戸畑区 |
今回の処理実験は中間処理工程4方式とリサイクル工程2方式。既に中間処理工程では、溶融方式を軸に実験が始まっており、実際の処理法も、この中から選ばれる可能性が高い。
溶融3方式のうち2方式は、産廃中の可燃物を焼却し、残った灰や不燃物を溶融するという点で、基本概念はほぼ同じといえる。
その一つ、川崎重工、クボタの方式は、焼却と溶融を別々の炉で行うのが特徴。両社の違いは溶融過程の熱源だ。川重は炉内の電極間に発生するプラズマを、クボタはバーナーを用いる。ともに焼却過程から灰が出るが、秩父小野田などが提案するリサイクル法の原料として使用できる。
住友重機械工業方式は、焼却と溶融を同一の炉内で連続して行うシステム。炉内温度を1200−1300度に設定。「ロータリーキルン」と呼ばれる回転炉によって、産廃の均質処理が可能という。
もう一つが新日本製鉄のガス化溶融一体型方式。溶鉱炉の技術を生かした縦型炉は熱分解ガス化炉と溶融炉を一体化。コークスを使い、炉内に1700−1800度の高温還元状態をつくり、乾燥、ガス化、燃焼・溶融までを一気に行う。鉛、カドミウムなど大部分の物質がガスとなり、燃焼炉に送られ、さらに燃焼される。
3方式とも処理後にガラス状の固形物(スラグ)と鉄が主成分の金属粒(メタル)のほか、重金属が濃縮している飛灰が残る。
残るスラグ
国の公害等調整委員会の試算によると、中間処理後に残るスラグ、メタル、飛灰の総量は約30万トン。約50万トンといわれている産廃のほぼ3分の2が処理後も形を変えて残るのだ。
原状回復、産廃の島外撤去が中間合意の柱。至上命題の達成は「これら副生成物をいかに再利用していくか」にかかっている。
「メタルは重量骨材やクレーン車のバランスウエートとして、溶融スラグは建設ブロック材の原料として再利用している」。メーカー側の説明も現段階は一般廃棄物のスラグが対象、産廃の事例はほとんどない。
県豊島廃棄物等処理技術検討委員会の永田勝也委員長(早稲田大教授)も「処理法決定には副生成物をどうリサイクルに結び付けられるかが大きな決め手」との見解を示した。
安全基準
千数百度の高温下で製造される溶融スラグ。有機塩素化合物などは分解されるが、ごく微量の鉛などを閉じ込めているのも事実だ。
処理後の副生成物は本当に無害なのか。何に基づいて再利用可能なのか。リサイクルは、この一事をクリアしなければならない。
参考事例は埼玉や千葉など関東の自治体にあった。
埼玉県は昨年4月、県溶融スラグ有効利用指針を施行、県独自の安全基準を示した。「溶融スラグ中の重金属などの安全基準や物理性状に対する考え方が整理されていなかったため、利用促進が図られていなかった」とは廃棄物対策課。
鉛、カドミウムなど4物質の含有量基準と6物質の溶出基準でその安全性を担保。「有害物質の量は土壌と同程度以下でなければならない」との原則の下、各基準値には、土壌環境基準値など適用している。
だが、これも一般廃棄物の事例。安全基準値をクリアすれば、一廃でも産廃でも変わらないとはいうものの、不安は大きい。「とにかく、産廃からの溶融スラグの組成などが明確にならないと何ともいえない」のが現状だ。
ダイオキシン
1時間の処理能力が4トン以上の新設燃焼炉に設定されたダイオキシンの排出規制は1立方メートルあたり0・1ナノグラム(10億分の1グラム)。
「廃棄物の投入は定量ずつ連続的に」「燃焼ガスの温度は800度以上で滞留は2秒間以上」「(再合成防止のため)燃焼ガスを200度以下に急冷」。規制値を達成するために、炉の構造や管理面の基準を定めた厚生省令もある。
豊島に建設されるプラントもこれら規制、基準が最低限の目安になる。が、産廃の本格的な処理は初めてだけに、住民の中には「2次公害が起こらないのか不安だ」という声は強い。
ダイオキシンに詳しい摂南大学薬学部の宮田秀明教授は、豊島産廃の特殊性を挙げて「技術は進歩しており、際立った問題点は見当たらない。しかし、排煙処理などを強化する必要はある」と指摘する。
データ開示
処理方式は技術面で一長一短があるのと同時に、コスト面でもある程度の格差があることは当然。どれを選ぶかは、技術検討委の判断にゆだねられている。
134億から190億円は、7年9月、公調委が示した中間処理の概算事業費。いわゆるこれが県の財布の中身なのだが、10年間に及ぶ処理期間の長さ考えると、運転資金が高くなることも予想され、総額が大幅に膨れるおそれもある。
「各方式を総合的に考慮した上で○○方式に決定しました」。こんな行政の常とう句はもはや通用しないのは明らか。安全面はもちろん、費用の大部分を県費でまかなうことからも、技術検討委は選定方法や評価内容などを開示しなければならない。京都大の植田和弘教授がいう「環境にかかわる情報の共有」だ。
4月下旬に予定される技術検討委の「実験結果の評価」にはいや応なく耳目が集まる。豊島住民との最終合意に向けて、今、県の姿勢が問われているのだ。
期待と不安
「実験結果を見ないことには何も分からない。あやふやな憶測は控えたい」
シュレッダーダスト、それを野焼きした焼却灰、汚染土壌が混在する豊島の産廃。「これを無害化するための処理実験のポイントは何か」。追跡班の質問に対して、廃棄物処理の専門家らは、判を押したように同じ回答を繰り返した。
産廃を溶融して無害化する−。一般廃棄物での処理実績を持つプラントメーカーの技術が、豊島の産廃を用いて、しかも同じ条件下で、安全性を試される初のケース。専門家の慎重な対応は注目度の高さの裏返しとも受け取れる。「本当に無害化できるのか」「2次公害は」。専門家ならずとも実験への関心は高い。
昨年8月7日−。県豊島廃棄物等処理技術検討委員会の第1回会合で、ある委員は「21世紀を目指して、処理しながら、技術を育てていくことも必要ではないか」と発言した。「最終処分量の削減につながる産廃の減量化や再資源化へ新たな道が見いだせる」。背後にはこんな期待感も感じられた。
一方で、将来への不安も見え隠れする。
「溶融での処理方式はごみ問題の根本的な解決策にはならない」
廃棄物対策豊島住民会議の石井亨さんは、国や県のやり方に距離をおく。“何でも燃やせる処理法”の安全性が立証されれば、最終処分場の延命につながるのは確か。だが、大量廃棄を助長する要因にもなり得る点を忘れてはならない。石井さんはひとみの奥からこんなメッセージを投げ掛ける。
産廃の溶融処理は「廃棄物ゼロ社会」へ息をつなぐ手段。その間に、行政や企業、そして生活者としてのわれわれが考え、行動することは何なのか。時間はない。豊島産廃の処理実験の真の意味はここにある。

信頼回復へ情報共有 実効性ある処理制度を
−今回の溶融実験は、どういう意味を持っているのか。
植田教授 ようやく世界的な課題になってきた環境回復や復元、そのための技術の在り方を探る実験だ。 豊島問題は、大量廃棄物社会から、減量、減容、リサイクルを基調に置いた社会への転換期、移行期に起きた出来事だが、未然防止のための減量、減容、リサイクルではなく、復元を念頭に置いた実験というのが特徴だ。
−県民はどこを注意して見守れば良いか。
植田 技術としては、産廃が無害化されるのが1番のポイントだが、同時にその技術が活用されて、豊島の土地空間がよみがえり、住民の生活が再生されることが確認されないと。原状回復でき、元の美しい豊島に返るかどうか、そこまで見守る必要がある。
−最終処分場で問題が起きた場合などのモデルケースとしても、注目されると思うが。
植田 産廃が埋まっている所は、世界中にたくさんある。ドイツなどでは何万カ所とも言われる場所で、土壌が汚染されたり、有害性が分かったりしている。それを無害にし、生活への影響をなくし、可能な限り資源として活用できる技術が開発できれば意味深い。
−タイプの異なるプラントで実験を重ね、良いものを選ぶわけだが、結論の信頼性を担保するためにも、データや判断過程の公開が必要と思うが。
植田 環境問題で最も大事なのは、環境にかかわる情報の共有化だ。問題が起きたり、安全性が疑われたりした時、国や役所が「安全だ」と言うから、安全ではない。本来の意味で合意が形成され、信頼性が回復されるためには、情報が共有でき、選ばれる手続き、プロセスが確認できることが重要だ。
−企業もダイオキシンの処理などにしのぎを削っており、プラントの撮影も制限されるなど、壁は厚い。
植田 特殊な技術で、企業が出しにくいものもあるだろうが、有害性の除去などにかかわることは、すべて公共的な情報だ。不安が解消されるという点が大事なわけで、検討委は専門家の立場から、分かりやすく必要な情報を皆が共有できるよう留意しなければならない。
−もう一つの問題はコスト。無害化を求める一方でカネを無制限にかけるわけにはいかないという論理がある。
植田 なぜこの事業をやるかが1番のポイント。環境の復元には、カネがかかる。後のことを考えず、不法に投棄したり、安いからいいなどということをやれば、元に戻すのは高く付くということが、明確になるだろう。
しかし、できるだけ安価にというのも現実だ。産業がそこを担う。技術が開発される意義はそこにあるわけで、できるだけいい意味で競争してもらう。検討委としては、より安価で合理的な技術を追究する方向での指導、監督が必要だ。
−今後のことも踏まえ、負担を軽減する知恵はないか。
植田 産廃問題は、どこも豊島化する可能性を抱えている。ところが、常にあるリスクをいかにコントロールするかの仕組みがない。行政にそういう発想がなかったからだ。
例えば、潜在的な有害性を持つ廃棄物について、排出事業者に1トン出せば幾らというような基金を積ませ、安全に無害に処理した場合だけ返すというようなシステムをつくるのも一案と思う。実効性を担保する仕組みが大事だ。
また、行政は企業活動や人々が物を選ぶ時、環境に配慮した方が得なようにルールを転換しなければいけない。共生のルールをつくらないと、ようやく出始めた本物の動きが加速されない。
うえだ・かずひろ 京大工学部卒、阪大大学院工学研究科博士課程修了。京大経済研究所助手、経済学部助教授を経て、6年から現職。専門は環境経済論。工学博士。著書に「廃棄物とリサイクルの経済学」「環境経済学」などがある。高松市東植田町出身。45歳。
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山田明広、山下淳二が担当しました。
(1998年2月23日四国新聞掲載) |