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流政之さん死去

2018/07/23

島倉さんとつながる心

東京・品川の故島倉千代子さんのお墓。左手前のモニュメントが流政之さんの作品「音の門」
東京・品川の故島倉千代子さんのお墓。左手前のモニュメントが流政之さんの作品「音の門」

 東京・銀座の小洒落(こじゃれ)たフレンチレストラン。いかつい表情の男が腕組みをしたまま窓の外を見ている。向かい側に座る女も視線をどこに向ければいいのかとまどっている。男は世界的彫刻家の流政之、女は歌手の島倉千代子。出てきた料理に手を出そうともせず、二人はどちらが黙り続けられるかの競争でもしているかのように口を開かない。女の横に座る私が、きっかけを作ろうと口を開くがうまくいかない。

 もう20年も前のことだ。流さんから電話がかかってきた。ぶっきらぼうの声でこう言った。「あのな、島倉千代子の背中を彫るよ」。何を言っているのだろう。「何を彫るんですか?」「島倉千代子だよ。君は親しいんだろ。会わせてくれ」「会うのはいいですけど、何を彫るんですか」「島倉千代子の背中というテーマで石を彫るんだ」。

 そう言われてセットしたのが冒頭のフレンチレストランでのランチである。二人の世界があまりにも違いすぎて、会話が成り立たない。それでなくとも世間話など似合わない二人である。互いに照れていたことだけははっきり覚えているが、会話はまったく記憶にない。ランチのあと島倉さんは銀座の画廊で開かれていた流政之個展に顔を出した。会場には流さんの作品がたくさん展示されていた。その中で、高さ1メートルほどの作品群の中では小さいほうの黒い石のモニュメントの前で島倉さんは私を呼んだ。

 「あのね、これ私買うから」。「買うって言ってもどうやって運ぶんですか」「ちょっとスタッフの人、これ送って」。

 「かしこまりました。クレーン車で運びますが、相当な重量なので、置く場所の床が抜けないかどうか確かめにうかがいます」

 しばらくしてマンション4階の自宅に運び込まれた。玄関にどんと構えるようにして置かれた。中級の日本車ぐらいするモニュメントをポンと買ってしまった。事務所の経営は火の車なのに、と合点がいかなかった。「島倉千代子の背中」はどういうわけか実現しなかった。私にはあれほど熱意を持って語ったくせに、島倉さんにはまったく言えない。そのとき、もう75歳ぐらいだったはずだが、少年のように恥じらうだけで、言葉が出てこないのだ。

 そののち二人が出会うことはなかったと思う。モニュメントはずっと黒光りしながら玄関にあった。見るたびに流さんはどうしているかな、と思った。流さんとの出会いはまったくの偶然だった。酒を一滴も飲めない私が、高松のバーのようなところで出会ったのである。どこまでほんとうの話かな、などと思いながら、いろんな話を聞いた。

 忘れられない話は「健康法は何か」という私の愚問にこう答えたことだ。「毎朝、必ずポルノ映画を見る。毎朝だ」。照れもせず、笑いもせず、そう答えた。いつも怖そうな顔をしているが、根はとてもやさしい。ただ、一度だけ、ムッとしたことがあった。それは世界的に有名な彫刻家のイサム・ノグチについて評価を尋ねたときだ。突然、表情を変えて立ち上がり、目の前から消えた。

 島倉さんが生まれ故郷の北品川の東海寺というお寺の墓地を買ったことは聞いて知っていた。両親もそこに眠るし、墓地の裏側は島倉さんの母校の品川学園がある。北品川で生まれ、育ち、地元の歌姫として有名になり、その地に眠る。子供の頃、生死の境をさまよったことがあるせいか、あるいは乳がんを始め、病と闘い続けてきたせいか、島倉さんはいつも「死」を意識しているようなところがあった。堕(お)ろした3人の水子に「忍」という名前をつけていつも弔っていた。

 島倉さんの告別式が済んで、納棺のとき、完成して間もない墓を見て息をのんだ。大きな黒御影石の「こころ」と自筆の字を彫り込んだ墓石の左前に、なんと「音の門」があった。この記事を書くため、墓参りをしてよく見たら、「流 1998」と小さく彫り込んであった。ちょうど20年前である。島倉さんは、このモニュメントを購入したときから、墓にしようと考えていたのだ。

 一周忌の法要のとき、私は式場で南こうせつさんの隣だった。こうせつさんは何も見ないでお坊さんより大きな声で般若心経を唱えた。「すごいね」と言ったら「寺の息子ですから」。そのこうせつさんがお墓の前でアカペラで泣きながら「からたちの小径」を歌った。目の前に音の門がある。写真を撮りに墓の前に立つ。いつもファンの花が切れることがない。黒御影石に灼熱(しゃくねつ)の太陽が注ぐ。島倉さんはすごい汗っかきだった。この暑さをのぞけば「ほんとうに幸せでしたね」と声をかけた。いまごろはあの世で流さんと再会し、またもじもじを繰り返しているのだろう。

(政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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