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危機の安倍首相

2017/08/07

「守り」では乗り切れぬ

 「さまざまな問題が指摘され、国民の皆さまから大きな不信を招く結果となりました。そのことについて冒頭、まず国民の皆さまにおわび申し上げたいと思います」。改造内閣発足直後の記者会見で安倍首相はまず森友学園、加計学園、防衛省日報問題の三つを取り上げ、深々と頭を下げた。閣僚の入れ替えなどで切り抜けられるほど状況が甘くないことは首相自身が感じていることだろう。「安倍一強」と言われたほどの首相がいま直面するこの危機を乗り越えられるかどうかは、首相自ら国民の信頼を取り戻せるような説明ができるかどうかにかかっている。

 首相は謝罪の言葉を述べたが、いったい、だれに向かって何をわびたのだろうか。「不信」を解くには自らの言葉でそこを説明する以外にない。首相を取り巻く官僚たちは「記憶にない、記録もない」を繰り返すばかり。人一倍頭脳明晰(めいせき)であるはずの官僚たちが記憶にないということなどあるわけがないと国民の大半は感じている。首相を守るため嘘(うそ)をついていると思っている。そうでないのなら、腹心の友である加計孝太郎氏や昭恵夫人にも説明してくれるよう求め、自らもきちんと説明すべきだ。それがない限り、国民の疑念が晴れることなどないと知るべきだろう。

 改造人事を見ていてこれまでと異なる不安に取りつかれた。一つは河野太郎氏の外相起用である。あてにしていた岸田外相続投が消え、他に適当な人材が見つからなかったのかもしれないが、河野談話の河野洋平氏を父に持つ太郎氏の起用は、安倍首相の考える外交路線と矛盾しているのではないか。この人事そのものはいい人事だと思うが、自らの哲学を捨てて人気取りに走ったのではないかと懸念する。もう一つは憲法改正。首相は「これから先は党に委ねる」と高村副総裁に伝えた。二階幹事長も岸田政調会長もかなり慎重な構えだ。連立を組む公明党も腰を引き始めたし、安倍首相の発言からは「2020年憲法改正」という構想は消えてしまったように聞こえる。

 それほどまでに危機の深さ、重さを首相が感じているということだろう。来年秋の自民党総裁選で安倍首相が3期目の当選することは既成事実化していたが、ここにきて完全に黄信号が灯(とも)った。これまであまり異論を唱えなかった自民党の国会議員のほとんどは、安倍体制で自らの選挙に臨むのが一番当選に近づく道と感じていた。ところが内閣支持率が急降下してくると、他の選択のほうが当選しやすいかもしれないという迷いも出てくる。要するに安倍首相の政治哲学にほれ込んでいるわけではなく、自分にとっての損得勘定で動いているのだ。

 20人の改造内閣の顔ぶれを見て、ある種の感慨に浸っている。私が現役の政治記者だったころ活躍していた政治家の2世議員たちがずらりと並んでいる。スキャンダルもなさそうで、それでいて手堅い政治家となるとやはり世襲議員になるのだ。世襲議員はそうでない議員よりも政治環境にめぐまれている。何をしてはいけないかを知っているし、選挙でそれほど無理をしなくても済む人が多い。首相を含めて12人の閣僚が「政治家が家業」である。

 閣僚が首相の方針と少しでも違う発言をすると、この国では「閣内不一致」と大騒ぎになる。しかし政治家同士、考えが違うのが当たり前。議論の過程まで縛るのは意味が無い。むしろ例えば原発政策で安倍首相と河野外相が論争する。その過程が公開され、最終的に内閣の方針が決まればすべての閣僚はそれにしたがう。そのほうが透明性や公開を重視する現代の風潮にあっているのではないだろうか。

 野党第一党の民進党が党首不在の状態なのにもかかわらずふらついているように見える安倍政権。ここからが胸突き八丁である。守りに徹するだけでは逃げ切れない。肉を斬らせて骨を斬るぐらいの覚悟が必要となる。

 (政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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