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半世紀消えた友

2016/02/08

過激集団の中の人生

 半年ほどの間に4、5回は会っただろうか。大学の同じクラスにいたYのことがずっと気になっていた。Yが消息を絶ち、過激な集団に入ったという噂(うわさ)を耳にしてから、半世紀以上過ぎた。そのYに4人の仲間とともに会った。

 Yは現役入学組でわれわれより1歳若く、きちんと学生服を着て、どこか良家のお坊ちゃんという風情だった。聞けば海軍の軍人だった父親が終戦の8月に皇居前で集団自決、母子家庭だった。父親が陸軍の軍人で母子家庭だった自分と境遇が似ていたせいか、仲良くなった。というよりは何事にもひたむきなYに心惹(ひ)かれたのだろう。

 過激な集団の幹部になっているらしい、という噂(うわさ)がときどき聞こえて来た。新聞にその集団の内ゲバ事件や幹部逮捕のニュースが載ると、短い記事を何度も読み、Yでないことを知ってほっとしたりしていた。

 若い頃事件記者としてあさま山荘事件の現場にいた私は、別の集団にいたYの消息を探ろうとしたが、確たる情報はなかった。理路整然と論ずる男だったから、きっと路線論争などで指導的立場にいるのではないか、と想像していた。そのYの名前が新聞の出版広告の中に著者名として大きく載っているのを見たときの驚きと懐かしさと、ああ、生きていたという安堵(あんど)は筆舌に尽くし難い。

 すぐにネットで取り寄せ、むさぼるように読んだ。組織内部の権力闘争が主たるテーマなので、かなり分かりにくい。ただ、自分は正しい、間違っているのは組織だ、という独りよがりの書き方でないのが、分厚い本を読み切れた理由だろう。Yは自分の過ちを正直に認めている。

 Yに会いたいという思いが募り、連絡先を突き止め、ついに仲間を入れ5人の飲み会になった。最後に到着した自分は一瞬、Yと認識できなかったが、声でわかった。頭部はいささか年齢相応になっているものの、昔よりややふっくらした顔立ちは、口の周りの白髪まじりの髭(ひげ)が実に似合っていた。「いい顔になったな」と仲間が言った。男の顔は履歴書というのはほんとうだと思う。生き方が顔に出る。聞きにくいことも聞いた。「殺されそうになったことはあったか」、ちょっと頷(うなず)いた。「何度逮捕され、刑務所に何年いたか」「前科5犯横浜、府中などで計5年」「刑務所の生活はどうか」「どこの刑務所も冬は寒くてつらい」。

 同じ組織の活動家の女性と結婚、「30ぐらいまでしか生きないと思ったから、子どもは作らなかった」。組織と縁が切れてからはアルバイトで食いつないでいるという。しかし病気がちの妻を抱え、まして年金のない生活だからどういう生活なのか想像もできない。

 「もう一つ」と一番知りたかったことを聞いた。「連合赤軍事件などをなぜ教訓にしなかったのか。同じように内部で凄惨(せいさん)な内ゲバを繰り返していたら、大衆は離れるに決まっている」。「今考えればその通りだ。しかし中にいる時には狭いところに入りこんでしまい、いわゆる世間の常識に欠けてしまっていた」。

 過激な闘争集団に長くいたとは思えないほど、静かで、かつまったく虚勢を張らない。「本を書いたことで自分にけじめがついたというか、ふっきれたのかな」。これからは自決した父親のことを書くつもりだという。「若い頃は顔も見たことのない父親の生き方に反発していた。しかし死んだ父親の倍もの年齢になって少し考えも変わった。戦争の持つ本質的な悲劇を書いてみたい」。

 私はこう言った。「想像もできないような苦労をしてきただろう。反省すべきところは反省すればいい。しかし自分の生きて来た道を後悔だけはしないでくれ」。Yという男が間違った道を歩くはずがない、という確信が自分にはある。

 学生のころ、名曲喫茶でチャイコフスキーの「悲愴(ひそう)」を聴いて泣いていたY。半世紀をまたいでその面影はそのままだ。「次は桜のころに会おう、必ずだぞ」。昔のようにちょっぴり照れながら「ああ」とつぶやいて新宿駅の人ごみの中に消えて行った。Yが失ったかもしれない青春をこれから取り戻してやる、とその時思った。

(政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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