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70年首相談話

2015/08/03

どうする「侵略」「お詫び」

 8月は戦争のことを考える月である。照りつける暑さに滴る汗をぬぐい、アブラゼミの鳴き声に終戦記念日が近いと感ずるいま、否が応でもこの国の来し方行く末を考えずにはいられない。戦後70年のことしはなおさらだ。折から戦後70年の首相談話問題と、集団的自衛権行使を軸にした安保法制問題で国論が割れているいま、「関心がない」などと無関心でいることは許されない。

 安倍首相の戦後70年談話は終戦記念日の少し前に発表されることになるだろう。安倍首相のもともとの狙いは50年のときの村山談話や60年のときの小泉談話のようなお詫(わ)び一辺倒の談話の色彩を消し、未来志向の新たな談話に「上書き」したいということである。村山富市首相の談話は「わが国は、遠くない過去の一時期国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の真実を謙虚に受け止め、ここにあらためて、痛切なる反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」。

 戦後60年のときの小泉純一郎首相談話も植民地支配と侵略について触れるとともに、「痛切なる反省と、心からのお詫びの気持ち」という表現を踏襲している。問題となっているのは「侵略」「反省」「お詫び」の3点が入るかどうかに世界中が注目している。安倍首相の国会での答弁などから推測するに、「反省」という言葉は使用するが、それ以外は「未来志向」の談話に事実上書き換えたいのである。

 「反省」という行為は相手のことを考えずに自分だけでできる。しかし、「お詫び」となると相手がいる。その相手が「わかりました」と言わない限り、未来永劫(えいごう)お詫びし続けなければならない。したがって「反省」だけにとどめたいというのが本来の安倍首相のいわば悲願であろう。首相談話にもっとも神経を尖(とが)らせているのが中国と韓国である。「侵略」と「お詫び」が抜け「反省」だけであれば、中韓両国の反発は免れない。また米国も失望するだろう。

 外交的な反響をできるだけ抑えたいという発想から生まれつつあるのは「70年首相談話」を「閣議決定」ではなくあくまでも首相の私的見解とする考え方だ。形式にこだわる日本では通りそうだが、閣議決定してようがしていまいが、結果はそう変わらないと思う。また「安保法制」の参院審議もあまり進んでいないので首相官邸にはいくらか焦燥感もある。とりわけ安保法制について「法的安定性は関係ない」と発言した礒崎陽輔首相補佐官が3日、早速、参考人招致される。首相補佐官の処遇については与党内部からも辞任を求める声が出ており、首相官邸は苦慮している。

 このところ首相側近グループの失言、暴言が続いているが、これは首相のためにと考えて発言したところ、問題発言としてこらしめられているという構図である。安倍首相に近い若手政治家は「お酒の席などで首相が口にしていることを、よかれと思って言葉にすると処分されるというのは納得できない」と首をかしげている。

 内閣支持率急落もあって、盤石に見えていた安倍政権にもややきしみも見られるようになった。参議院での安保法制の審議も想定より遅れ気味で、郵政解散のときの小泉首相のように参院で審議が停滞すれば、衆議院を解散するか、あるいは60日ルールを適用するか、ぎりぎりの決断が迫られることも考えられる。

 安保法制を成立させて9月の自民党総裁選は無投票再選、来年の参院選にむけて足固め、経済を何とか持ちこたえて2020年の東京オリンピック・パラリンピックを、という安倍首相の長期政権構想に影がさし始めてきた。好事魔多し、いいことばかり続かない。好調だった経済にも階段の踊り場で佇(たたず)んでいるようなマイナスの数字がちらつき始めている。

 (政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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