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子どもたちへ

2015/02/22

「do for others」の精神を

 人の命が粗末に扱われているような気がしてならない今の時代、子どもたちは幸せなのだろうか。人が死ぬニュースをテレビで見ない日はない。それも肉親同士が殺し合ったり、中学校や高校での殺人事件なども起きている。地球儀を回してみれば、おびただしい数の人間が戦争で殺し合っている。こういう時代にわれわれ大人は子どもたちに何を教えればいいのか。人が生きる意味は「do for others(他者への貢献)」に尽きると思う。それをいかにして家庭で、学校で、そして社会で教えていくか。教育をめぐるわが国の論議にこの視点が欠けているのではないか。

 子どもたちが何を考えているのかわからない。数年前、大学で教壇に立っているとき、学生のひとりがこう発言した。「ぼくたちは『君たちは豊かな時代に生まれていいな。ほしいものは何でも手に入るし、幸せだろう』と言われます。でもそうでしょうか。何でも簡単に手に入ることは幸せでしょうか。ぼくはこれ以上の不幸はないと思っています」。

 大学教授4年の経験の中で忘れられないことの一つがこの発言である。古希をすぎた筆者の子ども時代は、ほんとうに何もなかった。放課後、腹が空(す)いたら海に潜ってウニや貝をとって食べた。読みたい少年雑誌は月遅れで半額で手に入った。いま考えるとみんな同じように貧しかったが、不幸だなんて思ったことはなかった。栄養状態がよくないので、鼻を垂らしている子が多かったが、表情はみな明るく、目は輝いていたように思う。

 いまの子どもたちはどうだろうか。明るい表情をしているだろうか。目は輝いているだろうか。

 少子化で子どもの数が激減し、私が中学生になったときに5校あった故郷の中学校がこの4月からついに1校になる。その中学校の校歌の作詞を頼まれた。私の中学生時代は人生でもっとも困難なときだった。中学1年のとき、父が死んだ。公務員だった父の死で、1週間で官舎を追われ、母親の郷里に帰ったが、仕事も住むところもなかった。父親の退職金の残りの5万円が全財産だった。母親の仕事と住まいを求めて転々とし、3年間で中学校を三つ替わった。そのころの自分を思い浮かべ、励ますつもりで作詞に取り組んだ。

 「友よ ああ友よ いまから物語はじまるよ 大人への入り口に立つわれら まず踏み出せ小さな一歩を きびしい冬のあとには 桜がきれいに咲くだろう」と書いた。2番には「目を世界に こころふるさと」と世界に向かってはばたきながらもこころは常にふるさとをと願いを込めた。

 そして3番には「世のために何ができるか それを学びに いま集う」と「do for others」の精神を入れた。どんな苦難があっても青春はすばらしいということを自覚してもらいたくて、校歌の最後の部分に「青春 ばんざい ○○中学校」と続けた。右手を突き上げ「ばんざーい」と声を張り上げてくれることを期待している。作曲は友人のフォーク歌手の山崎ハコさん。編曲は有名な作曲家の若草恵さんに頼んだ。昨年秋に校歌の発表会を開いたが、初めて校歌を聴いた生徒たちが涙を流しているのを見て、責任を果たせたかな、と思った。

 昔の自分を振り返って考えると、中学のころの体験がその後の人生に大きな影響を与えているように思える。とりわけ先生の何気ない一言が決定的な影響を与えることもあると思う。私は先生がヘルマン・ヘッセの「車輪の下」の文庫本を転校の際にくれて、その裏表紙に「(主人公の)ハンスのごとくなるな ハンスのごとくさせるメカニズムに抵抗せよ」と言葉が寄せてあった。以来、この言葉の意味を考え続け、権威主義的なメカニズムに抵抗する職業、ジャーナリストになったような気がする。

若い人にどうしても言いたいこと、それは年齢のことである。若いときは自分が老人になるときが来るなどと考えたこともなかった。老人になれば、きっと毎日がつらいだろうな、などと思っていた。なってみたら、まったく違った。もちろん老化はしているだろうが、気持ちは充実している。他者への貢献ということも毎日考えている。健康であること、好奇心を失わないこと、だれかの役に立ちたい、と考えていれば、人生はいつまでも楽しいということを、ぜひ若い人たちに伝えたい。

(政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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