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「拉致」ヤマ場に

2014/11/03

国家の威信が問われる

 拉致問題が最大のヤマ場にさしかかっている。北朝鮮の国家機関が日本の領土に侵入し、暴力で多数の日本人を拉致し、自国へ連れて行くという世界の歴史でも例をみないような暴挙。拉致被害者の象徴ともいうべき横田めぐみさんが13歳で拉致されてから11月15日で37年になる。中学1年生のめぐみさんは10月に50歳になった。北朝鮮は過去の調査にはとらわれず、新しい角度で調査する、と述べており、過去の調査は時間も十分でなかったと結果が不十分なものであったことを認めている。帰りを待ちわびる家族は高齢化が進み、1日でも早い帰国が求められる。国民の生命を守るのが国家の第1の任務であり、これが解決できないようではもはや国家とはいえない。

 「拉致」といまでは新聞もそう書くが、しばらくは「ら致」と書いていた。「ひっぱる」という意味の「拉」という字が使えなかったからである。当時は拉麺(ラーメン)ぐらいしか使わない字であった。いまではもちろん、拉致を読めない人はほとんどいないだろう。

 横田めぐみさんは中学校のクラブ活動バドミントンの練習を終えて帰宅途中、行方不明になった。必死で探しても何の手がかりもなかった。のちに判明したところでは、北朝鮮の工作員に新潟の海岸近くで拉致されためぐみさんは、船の中に押し込まれ監禁されたまま40時間かけて北朝鮮へ連れて行かれたのである。

 当時はだれも北朝鮮による拉致だなどと思わなかった。昔からよくある「神隠し」を想像した人々もいただろう。めぐみさんが北朝鮮の平壌で生きている、という情報が入ったのは、拉致から20年後のことだった。すぐにも会いたいという両親の望みを砕いたのは、北朝鮮が示した死亡情報だった。その後、「遺骨」が日本側に渡されたが、めぐみさんのものと異なるDNAが発見され、北朝鮮側の調査のいい加減さが露呈した形だ。

 父親の横田滋さんは日銀勤務で広島から新潟へ一家で引っ越してきて間もなかった。「はろばろと睦み移りし雪の街に娘を失いて海鳴り哀し」はそのころ詠んだ母親の早紀江さんの短歌である。そしてめぐみさんの同級生達が中学校を卒業する日、早紀江さんはこう詠んだ。「巣立ちし日浜にはなやぐ乙女らに帰らぬ我娘の名を呼びてみむ」。光景を思い浮かべると、心が波立たずにはいられない。

 政府が北朝鮮による拉致被害者と認定したのは17人。このうち蓮池薫さんら5人はすでに帰国している。残る認定拉致被害者は12人だ。外務省の伊原純一アジア大洋州局長ら訪朝団は、北朝鮮の特別調査委員会の徐大河(ソデハ)委員長(国防委員会安全担当参事官兼国家安全保衛部副部長)らと延べ10時間以上にわたって、北朝鮮側の調査の現状と今後の方針について聴取した。

 菅義偉官房長官が記者会見で公表した範囲では、調査の具体的な内容には言及していないということだった。もう少し核心に迫る情報があるような気もするが、大事なことは結果なので、すべてを公にしなくとも仕方ないのではないか。

 北朝鮮にとっての拉致問題とは何だろうか。おそらく北朝鮮がいま考えていることは、米国と同盟関係を結んでいる日本の存在を意識しているだろう。国際社会での完全孤立を避けるためには、拉致問題をてこに日本との関係を維持しておくメリットはあるだろう。次に遺骨収集から日本人妻の帰国、そして行方不明者、拉致被害者の帰国などで得られるはずの財政支援、そして国交正常化にいたれば、韓国が得たものと同額(利息分含む)の戦時賠償などについても当然、相当に期待しているだろう。

 北朝鮮からみれば、ほとんど唯一の外交カードでもある。だとすれば、解決を急ぐ日本側とは逆に交渉を長引かせようとする可能性もある。日本の難しさは、対北朝鮮で作られている「六カ国協議」の枠の中で拉致問題の解決を図ろうとするのか、それとも同盟国米国の少々の怒りは覚悟の上で解決を図るのか、難しいところだ。このような問題は、動き出すと一気呵成(かせい)に進むこともよくある。そのときには、安倍政権の支持率は急上昇し、「解散・総選挙」に打って出ることも当然視野にあるだろう。

 (政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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