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大震災から3年

2014/03/10

「記憶」を取り戻せ

 あの時、どこにいて何をしようとしていたか、日本中の人々の記憶の原点、それが東日本大震災だったのではないか。すべての人が思ったはずだ。ここから立ち上がるためには、日本が大きく変わらなければならない、と。あれから3年、復興は遅々として進まず、記憶も、あの時の思いも薄れ始めている。

 震災から5日ほどあと、岩手県陸前高田へテレビ番組のチームとともに訪れた。5階建ての市役所のビルは枠組みだけを残して壊滅、流されてきた大型バスが建物に覆いかぶさっていた。すべてを破壊された街を歩く。津波の寸前まで人々が暮らしていた「記憶」が散在していた。小学生の女の子の絵、人気アイドルのCD、市役所のものなのか土地の登記簿台帳。大きな交番では、中からお巡りさんが出てきそうな佇(たたず)まいだったが、のぞくと中は泥の山だった。

 駅前商店街だっただろうな、と感じさせるのは小さなロータリーだけで、立ったところが駅のホームだというのはしばらくして気がついた。あるべき線路も枕木もすべて失われていた。市の中心部が見渡せる小高い丘でテレビのレポートをしたが、感情が高ぶって言葉にならず、何度もやり直した。「悲しいけれどもこの光景を目に焼き付け、ここから立ち上がらなければならない」と報告したように思う。

 あれから3年がすぎた。被災地のあちこちを定期的に訪れているが、復興の力強さを感じることはない。生きるために大事なもの、衣食住、それに仕事と教育、何一つ満ち足りていない現状に愕然(がくぜん)とする。震災直後に、たくさんの未来都市のような模型がメディアで紹介された。だが、そのどれかが実現したという話は聞かない。陸前高田の松原で一本だけ残った松の木の復元や、どこかの町で屋根の上で生きていた犬の話などの"美談"はいくつかあったが、いまだに二十数万人の人が仮設住宅などの避難先で暮らしていると聞くと、この3年間、この国は一体、何をしていたのかと唖然(あぜん)とするばかりだ。

 たしか、「復興庁」という役所ができたはずだ。「復興予算」も組まれたはずだし、そのための特別税というのもあったはずなのに、なぜ復興が進まないのか。調べてみると、なるほどとうなずかざるを得ない事情もある。被災地の人々の思いが一つにならない。家族の中でも元の場所に住みたいと願う高齢者と、安全な内陸部へ移りたいという若者で一致しない。

 また国のお金を使うにしてもさまざまな条件がついていて、それをなかなかクリアできない。たとえば水産加工の工場を再建しようとしても単価が10万円以下のものは融資の対象にならない、などの制約があるという。被災地を何度か訪れてみてわかったのは、人間にとって生きるために大事なものの一つは思い出などの「記憶」であるということだ。記憶の中で暮らし、記憶の中に幸せがあるといってもいいだろう。夏祭りや花火の思い出、運動会をした校庭、友だちと語り合った丘、それらの記憶が大事なのだ。失ってみればそのことがよくわかるのである。だから、復興は住むところがあれば、とか安全が確保できれば、ということだけでは足りない。これまでの記憶を少しでも取り戻し、これからたくさんの新しい記憶を作り上げていけるよう、配慮が必要なのだ。仮設住宅に住んでいる人たちには、新しくできた隣人たちと別れたくないという人たちも少なくないという。仮設暮らしという不便な生活の中で、悩みを共有し、かつささやかな夢を語り合えるコミュニティーができたからにほかならない。

 福島の原発の現状について考えるたびに、怒りがこみ上げて来る。おびただしい数の汚染水を貯めるタンク。連日報じられる人為的ミスによる放射能汚染。毎週のように安倍首相や閣僚らが福島を訪問している。膨大な費用をつぎ込んで続けられている除染も、いつまでというメドもまったく立っていない。故郷へ戻れるのか戻れないのかもはっきりしない。

 もっとも大事な議論も行われていない。福島第1原発の1号機から4号機までどのようにして廃炉にするのか、安倍首相が断言した5、6号機の廃炉はいつ行うのか。

  稼働停止している50基を再稼働するのかそれともどれかを廃炉にするのかどうか。そのほかに40トンのプルトニウム、1万7千トンの使用済み燃料をどこに捨てるのか。大事なことは何も決まっていないし、議論さえも不十分だ。この国は変わるはずだ、いや変わらなければならない、と思ったあの時の「記憶」を取り戻さなければならない。

 (政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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