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「最悪」で迎えた日中40年

2012/10/01

ナショナリズム排除を

 よりによって、である。9月29日は日中国交正常化40周年記念日。この日をこの40年で最悪の状態で迎えた。北京での記念行事は中止になり、東京では厳しい雰囲気の中で型通りの催しが行われただけ。北京での行事に筆者も出席する予定だったが、出発直前に取りやめの連絡が来た。国連総会で中国の外相が投げつけた言葉、「日本が(島を)盗んだという歴史を変えようとするのは言語道断」は、この40年を全否定するような激しさだった。「中国国内の権力闘争の火の粉をかぶった」「日本は毅然(きぜん)とした態度を」などと言っても何も解決しない。日本企業への影響は甚大で、双方の経済にも影を落としている。日中ともに国内政治がゴタゴタしているさなか、まず、何から始めればいいのか。

  私事で恐縮だが、私は終戦の前年、中国黒竜江省で生まれた。「どうしてそこで?」と尋ねるのは日本の人だけで、同世代以上の中国の人には「なぜ?」と聞かれたことがない。同じ年に同じところで生まれた武大偉元駐日大使は、すぐに私の父親の職業が分かったようだった。いわゆる関東軍の軍人だということを。私にとって中国は生まれ故郷である。いまは「日中ジャーナリスト会議」の日本側議長としてどうすれば「壁」を乗り越えられるか努力しているところだが、今回ほど絶望感に襲われたことはない。

  「外交は内政の延長である」という言葉は、おそらくどの国にでも当てはまることだろう。だから、国と国とが対立してしまうと、互いに後に引けなくなる。中国が尖閣諸島問題で軟化することは考えられない。さりとて、日本も国有化を取り消すことなどできない、どちらも一歩も引けないチキンゲームだ。ただ、国際社会へのアピール競争ではいささか日本は分が悪い。もともと発信力が弱い上に、これまで「日本と中国との間に領土問題は存在しない」としてきたため、中国が何を主張してもきちんと反論してこなかったのだ。反論すれば領土問題の存在を認めることになる、という理屈に自縄自縛状態になっていたのである。

  残念ながら日本側に中国に関する情報の欠落があり、国有化に対する中国の反応を見誤ったと言わざるを得ないところがある。東京都の石原知事が所有するよりも、国有化した方が、安定した管理ができる、中国にとってもその方が望ましいはずだ、と判断したのである。外務省は反対したようだが、最後は野田首相決断で決定した。

  二つ、見誤った。結果から言えば「国有化」ではなく「国が買う」と言えばここまでの騒ぎにならなかったようなのである。ともに漢字の国だが「国有化」という意味の持つ重さが、まるで両国で違っていた。中国では日本政府が中国の主権を侵しにきた、という響きを持っているらしい。もう一つはロシアのウラジオストクでの胡錦濤国家主席と野田首相の立ち話から中国側の強いメッセージを汲み取れなかったことである。この場で胡氏は国有化は認められないと険悪な表情で首相に迫った。いまにして思うと、あの時、胡氏は中国国内で権力移行期に必ず起こる権力闘争のさなかだったのである。ここで国有化を日本が強行したら、日本寄りと批判されている胡氏の立場がなくなるから配慮せよ、というサインだったようだ。その2日後に国有化が閣議決定となった。「顔をつぶされた」とのちに中国側が述べているのはそのためだ。

  いかにそのような国内事情があったとしても、反日デモの乱暴狼藉(ろうぜき)と尖閣諸島周辺での領海侵犯などは常軌を逸している。国際社会における中国の威信を自ら損なっていると思うのだが。世界の中心は自分たちといういわゆる「中華思想」ではそうは感じないのだろうか。日中国交正常化交渉の過程で、この問題は棚上げされた。その後も「次の世代の問題」と棚上げ状態が続いてきたが、日本側の公式態度は「了解はしていない」と棚上げさえも否定している。ここまで発展してしまってはいまさら「領土問題は存在しない」という主張を通し続けるのは意味がない。世界中のメディアが領土問題として報じているからだ。

  日中関係の40年は人と人とのつながりで物事を解決してきた。民主党にはそういう人材がいない。「あらゆるチャネルで」などというが、自前のパイプがないのである。かつて靖国神社を参拝した中曽根康弘首相は、当時の中国のリーダー胡耀邦氏が窮地に立たされているのを知って靖国参拝をその後、取りやめた。中国国内政治ではあるが、かの国にはそのような配慮が必要なのだ。うまくいけば効果は抜群なのだから。このような状況でもっとも危険なのはナショナリズムである。じっとがまんして時間を稼ぐことも知恵の一つなのである。

(政治ジャーナリスト、四国新聞特別コラムニスト)

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