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菅首相

2011/07/04

本音は「退陣」より「解散」

 「辞めない菅首相『脱原発で解散』説も」と前回この欄で書いた。少し表現が強過ぎたかな、と忸怩(じくじ)たるものがあったが、あれから半月でその可能性が色濃くなってきた感じがする。菅首相は両院議員総会でついに「エネルギー政策をどの方向にもっていくのかはたぶん次の国政選挙で最大の争点になる」と「解散」に言及した。自分以外の首相の手になる衆院解散に言及することなどあり得ないので、これは明らかに自分の手で、という話だ。永田町では「退陣論牽制(けんせい)のための発言」と受けとめられているが、筆者は「本音」とみる。「脱原発」なら逆に自民党の苦戦が予想される。

  私のテレビ番組(TV東京系「週刊ニュース新書」)に2日出演した民主党の岡田克也幹事長に「菅首相が脱原発を掲げて解散しようとしたら、身体を張ってでもそれを止めるか」と聞いた。岡田氏は「そんなことあり得ないですよ」と言っただけで、止めるとは言わなかった。民主党衆議院議員の大多数は、菅首相で解散・総選挙となると自分が危ないと考える人が多いので、解散風を吹かせればそれだけ反菅首相ムードを強めることにもなる。そのリスクをおかしても解散に言及したほうが得と判断しているのだろう。

  「辞める」首相が国政選挙の争点に言及することなど常識では考えられない。菅首相は一度も「辞める」とは言っていないし、辞める気はないと見るべきなのだ。(1)第2次補正予算(2)特例公債法(3)再生可能エネルギー特別措置法―が成立すれば「一定のメドがついたと考える」と述べた。その「メド」とは脈絡からすると「いろいろな責任を若い世代の人たちに引き継いでいく」メドということだ。世間ではそれは「退陣」のメドと考えるが、菅首相の腹の中は違うかもしれない。「菅直人の顔を見たくないのなら、早く法案を通せ」と公の場でうそぶいたあの論理で、野党が反発すればするほど、自分の在任期間は延びるという不思議なことになっている。

  菅首相は3つの条件のほかにも、社会保障と税の一体化改革、すなわち「消費税10%」を目指した野党との協議も自分の手で行う意欲を示している。一方でB型肝炎患者への救済問題では謝罪し、国民の間では評価する声が出ている。

  現在の膠着(こうちゃく)状況が偶然そうなったものなのか、それとも菅首相が独特の感覚で狙った結果なのかはわからない。まったくの偶然ということではなく、小泉純一郎首相の「郵政民営化」問題のように「反原発」をシングルイシューにすれば、総選挙の結果はどう転ぶかわからなくなる。そのために「脱原発宣言」を8月6日の広島、9日の長崎での平和式典で世界に向かって表明するのではないかと私は見ているのだ。そうすべきだと考えているわけではない。菅直人という政治家なら、そういう発想をするのではないかという予測である。

  エネルギー政策全般の議論をしないで、脱原発を打ち出すことなどできるはずがない、というのはその通りだが、多くの有権者は放射性物質による汚染に嫌気がさしているのだ。原発政策を推進してきた野党自民党は、今後も推進政策をやめるわけにはいかないので、「受けて立つ」(谷垣禎一総裁)しかなくなる。

  これまでは「いつ総選挙になっても必ず政権奪取できる」と楽観論が支配していた自民党内の空気も微妙になってきている。「退陣を迫るより、菅首相に解散させたほうが得策」と主張する議員も増えている。

  自民党参議院議員を一本釣りした人事などは常識では考えられない。が、その非常識さが菅首相の強さ、すごさなのである。うまく折り合おうという発想がなく、むしろ好んで敵を作るという手法は小泉純一郎氏に似ている。この手法だからこそ、市民運動から総理大臣の座にまで上り詰めることができたといえるだろう。世間の菅首相に対する空気にいささか変化が生じてきたように見える。どうせ、だれが新首相になっても、いまとさほど変わらないだろう。だったら、こんなときに首相を変えたりせずに、このままもう少しやらせてあげたらどうか。そんな声も耳に届く。

  ともあれ、首相は8月いっぱいまでは首相の座にいそうな気配である。広島、長崎には首相として乗り込む。演説の機会はめぐってきそうである。ドイツは2022年までにすべての原子力発電所を停止することを決めた。電力をフランスなどから輸入できるドイツと、島国の日本では事情がまったく違うが、日本の国民感情に与えた影響はきわめて大きい。

  首相は民主党執行部にも見放され、いわば孤立状態だ。しかし、首相の孤立はときに政治的力になることがある。いわゆる「判官びいき」のような不思議な国民の反応である。かつての三木武夫首相、あるいは小泉純一郎首相にもその要素があった。さて、菅首相は?。

  (政治ジャーナリスト、日本経済新聞客員コラムニスト)

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