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新首相

2011/06/06

一刻も早い選出を

 私事で恐縮だが、4日の私の番組(テレビせとうち「週刊ニュース新書」)でゲストの枝野幸男官房長官に私はこう申し上げた。「国民は辞めない菅首相にほんとうに怒っている。前首相と首相が『ペテン師』などと罵(ののし)り合うことがどれだけ国際的信用を失っているか」。枝野氏は「居座るつもりなどない。そう遠くない時期だと思う」と述べるとともに9月の日米首脳会談出席はどうか、という質問に「出るとは言っていない」と答えた。この発言が「首相8月退陣」というニュースになってかけめぐった。

 ともかくよかった。大地震、大津波、原発事故に続く「制御不能の政治」という4番目の“災害”はどうやら最悪の事態を脱したようだ。政治家にもっとも求められるのは「行動の美しさ」である。どれだけ美しい言葉を並べても、行動に私欲が見え隠れすれば、国民はまったく信用しない。他のどの分野のリーダーとも異なる厳しさが、政治家、とりわけ国家運営の最高責任者たる首相には求められるのである。政治家の行動の中でも出処進退はもっとも重要だ。辞め際が美しくない首相が国民から敬われることなどあり得ない。

 菅直人という政治家を彼の20代後半から見ている立場としては、この人がだれよりもしぶとい人だと知ってはいた。もしかすると首相は、内閣不信任決議案を否決さえできれば、しばらくの続投は可能だと考えていたのかもしれない。

 振り返ってみると、首相は「退陣」とか「辞任」という言葉は一度も使っていない。「一定のメドがついた段階で若い世代にいろいろな責任を引き継いでもらう」と言っただけである。否決から一夜明けて、閣議が始まる前に見せた首相の笑顔は、まるで「台風一過の青空」のようだった。してやったりというような表情である。このような企みがいつまでも続くはずがない。「天網恢々(てんもうかいかい)」である。まして国家運営の最高責任者の地位にあるものの言動としては最低である。過去に23人の首相を間近で見てきたが、これほど総理大臣の威信と政治の信頼を傷つけた首相の言動を見たことがない。これ以上の政治の混乱を防ぐためにも、菅首相は自らの言葉で国民に退陣時期を明示しなければならない。

 混乱の裏で、菅首相の後継をめぐる争いが始まっている。後継がだれになるかは、野党側の協力を視野に入れるかどうかで、浮かぶ首相候補の固有名詞が変わってくる。自民党や公明党など野党とのたとえば大連立を組むようなケースなら、仙谷由人官房副長官らの名が出てくる。そうではなくきちんとした代表選挙を行うということであれば、候補者はたくさんいる。岡田克也幹事長、前原誠司前外相、野田佳彦蔵相、あるいは枝野官房長官らも可能性はある。その場合に小沢一郎氏のグループや鳩山グループらは菅首相を支えた人物を排除しようとするだろう。ここでもまた菅・小沢の対立の構図が浮き彫りになることは必至だ。

 野党も苦しい。不信任決議案提出で、うまく行けば首相退陣に追い込める、悪くとも民主党分裂と読んで仕掛けたが、思惑ははずれた。不信任決議案は同じ国会で二度提出することはできないので、もはや国会審議に協力しないということ以外に手がなくなってしまった。不信任決議案採決の前までは、いつ解散になっても選挙は楽勝と踏んでいたのが、そうとも言えなくなった。民主党が若くてフレッシュな首相を選んだりすれば、様相が一変する。そうした不安が「谷垣禎一総裁では選挙に勝てないのではないか」という心理となって谷垣降ろしにつながることもあるだろう。いずれにしろ与党も野党もしばらくは混乱が続くだろう。

 原発対応も被災地復興も政治の混乱の中でなかなかうまく行かないかもしれない。こんな時期に政治は何をしているのか、と怒る段階はもう過ぎた。一日も早く新たな国家運営の責任者たる首相を選ばなければ、この国の歴史的危機は乗り越えられない。

 新たな国家指導者を選ぶこの機会に、国民がこころすべきことがある。政治家を見る目、判断する基準を変えることだ。人物としてどれだけの覚悟と、教養と、そして国民の運命を任せるに足る魅力を備えているかを日頃からじっくりと観察しておかなければならない。大事なのは「命を捨てるほどの覚悟」なのである。

(政治ジャーナリスト、日本経済新聞客員コラムニスト)

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