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東日本大震災

2011/04/04

政治は何をしているのか

 東日本大震災による大津波で、大きな被害を受けた岩手県陸前高田市。1032人が死亡、行方不明者が1261人(3月末現在)、家族全員が流されたようなケースでは届け出る人がいないので、実際にはこの数はもっと増えるとみられている。神も仏もあるものかと叫びたくなるような悲惨な津波の爪痕。にもかかわらず、自らの命を捨てて他人を助けるという感動的な話をたくさん聞いた。絶望のどん底でも被災者は雄々しく立ち上がろうとしている。それにくらべあきれるほどの政治の無策ぶりは一体、どういうことだろう。

  市街地の中心に建つ4階建ての市役所。津波警報で市民の多くはここへ逃げ込んだ。もっと上へもっと上へと高齢者の手を引っ張り上げるようにして屋上へ避難させた職員たち。高齢の女性が涙ながらに語る。「足の悪い私を屋上のさらに上の階段へ押し上げてくれた若い市役所の人。その人は私を押し上げたあとすぐに流されて行くのが見えた。彼のお母さんは知り合いなので、あわせる顔がない」。市役所の職員70人が死亡または行方不明だ。

  スーパーマーケットでは店長が大声で客と店員に「高台へ逃げろ」と叫んだ。「だからぼくたち助かったんです」と店員が辛そうに語る。店長は一人、店に残ったという。いまだに安否不明である。

  家業でクリーニング店を営んでいた青年は、地震発生と同時に消防団員の制服に着替えた。おそらく津波の危険を知らせようと海岸へ向かったのではないかと栃木県から駆けつけた弟はいう。遺体が発見されたが、火葬場が順番待ち状態で空かず、やっと盛岡で荼毘(だび)にふすことになったとホッとした表情だった。

  テレビで何度も見ていたが、実際にこの目で見る被災地の惨状は人生観が変わってしまうのではないかと思うほどのものだった。がれきの山の間を縫って歩いてみると、いたるところにその瞬間までの生活の痕跡がある。泥にまみれた箱状のものを拾い上げ、手でぬぐってみたら、安室奈美恵コンサートのビデオだった。この持ち主の子は無事だっただろうか。タクシーががれきの山に乗り上げていた。営業中だったかもしれない。大きな鉄筋コンクリートの四角い箱状の建物が、サイコロのようになって市役所の正面玄関に食い込んでいた。たくさんの酒のビンが転がっていたから居酒屋かと思われる。津波の破壊力の前には「頑丈」という言葉が何の意味も持たないということを知った。電柱は根元から折られ、大型バスは屋根を吹き飛ばされて丸めた新聞紙のようになっていた。

  訪れたのは菅直人首相が陸前高田市を訪問した前の日。夫人の安否確認ができないまま陣頭指揮をとっている戸羽太市長に「首相に何を言いますか」と聞いたら「仮設住宅をいつまでに造るかのスケジュールを示してほしい」と語った。その上で「民主だ、自民だとか言っている場合じゃないと思いますよね」とちくりと中央の政治を批判した。その日の夕刻、首相は記者会見で「世界のモデルになるようなエコタウンを造る」と復興計画を発表したが、被災地を見ていない首相らしい計画だった。

  被災地ではどこも遺体安置所にたくさんの遺体がある。身元確認ができても火葬できないのである。陸前高田市には火葬場がひとつ。1日に8体しか処理できないという。傷みも激しくなってくるので土葬も許可しているが、土葬できる場所がない。3週間を超える避難所暮らしで疲労はたまり赤十字の診療所は長蛇の列だった。仮設住宅が36軒完成しつつあったが、申し込みは千件以上。必要なのはいつできるかわからないエコタウンなどでなく、今日、明日の衣食住なのである。

  大災害には人命救助―生活救済―地域復興―振興と順序だてた対応が必要だが、人命救助、生活救済の部分で政府が十分な措置を講じたとはとても思えない。その部分をないがしろにして復興や振興の夢を語って何になるのか。人々は家族を失い、家を失い、仕事を失い、生きる望みまで失っているのだ。政治が発信するメッセージの何と薄っぺらなことか。

  政治には期待できないが、日本人は必ずやこの危機を乗り越えると思う。幕藩体制を壊しての明治維新、軍閥を瓦解させた戦後の日本、そして3度目の今回の「坂の上の雲」。世界は日本の放射性物質の拡散にはらはらしながらも、この大惨事にもかかわらず社会秩序が乱れない日本を驚きの目で見ている。避難所が被災者たちによって整然と管理されていることに外国のメディアは称賛の言葉を惜しまない。日本は捨てたものじゃないのである。いまこそ「災いを転じて」である。

(政治ジャーナリスト、日本経済新聞客員コラムニスト)

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