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菅政権

2010/09/20

「クリーン三木」ほうふつ

 歴史は繰り返す。まるで昔のニュース映画を見ているかのようだ。代表選に続く党・内閣人事をめぐり民主党内部に走った亀裂は1976年、自民党政権下の「三木」対「反三木」の抗争をほうふつとさせる。

 菅直人首相はクリーンを売り物にした三木武夫首相に似てきた。三木首相は田中角栄首相が金脈問題で退陣したあと、政権を担当した。田中政治の金権体質を厳しく批判し続けた。三木政権時代に田中氏はロッキード事件で逮捕されたが、これに反発する自民党田中支持勢力との間で抗争が繰り広げられた。

 その田中氏の愛弟子が小沢一郎氏である。菅首相は代表選で小沢氏は「数の論理と豊富な政治資金を背景にした政治という色彩を感じるのは自分ばかりではないだろう」と述べるとともに「カネまみれの政治とはおさらばしなければならない」とまで言い切った。三木氏が田中批判を強めれば強めるほど世論の支持が高くなっていったように脱小沢路線を取ることによって、菅首相の支持率は急上昇している。世論を味方につけた三木首相は自民党の3分の2の勢力に包囲されながらも、耐え抜いた。

 当時の政治状況は抗争に明け暮れるばかりで、国政は麻痺(まひ)していた。このとき、三木政権を倒そうとした勢力が唱えたのは「挙党一致」だった。「挙党体制確立協議会」(通称挙党協)という言葉が連日メディアをにぎわせたものである。いつの時代にも亀裂が生じると「挙党一致」が叫ばれ、そして決してそれが実現することはないのである。「挙党一致」の意味する内容がまったく違うからだ。

 菅政権の人事にはいくつか特徴がある。まずは党執行部にも閣僚にも小沢氏に近いメンバーは一人もいないということである。もちろん、海江田万里氏のように代表選で小沢氏に票を投じたと思われる閣僚は3人ほどいる。しかし小沢氏側近というほどではない。

 つぎに旧社会党出身者の入閣が目立つということである。したがってあまり知名度の高くない人たちで、40年も日本の政治を見ている筆者でも会ったことのない閣僚が数人いる。これは初めての経験である。この人選は昔社会党員だった仙谷官房長官によるものではないだろうか。

 岡田克也幹事長も仙谷氏の強い推薦だったといわれている。岡田氏は反小沢の急先鋒だが、長い間、小沢氏と政治行動をともにしてきた。小沢氏のことを最近まで「政治の父」とまでいっていた。自民党で初当選したときの幹事長が小沢氏であり、出馬にあたっては小沢氏が面倒をみて、以降、自民党を脱党して「新生党」を結成ししばらくは行動をともにしていたのである。

 原理主義者といわれるほど政治とカネの問題に敏感な岡田氏は、思ったことをそのまま口に出してしまうところがある。「(検察に)起訴される可能性のある人が代表になろうとしたり総理になろうとすることには違和感がある」と小沢氏を批判した。ここまで言い切ってしまえば、この先、小沢氏とよりを戻すことはない、と覚悟のうえでの発言だっただろう。

 徹底した脱小沢シフトで菅政権は再スタートした。菅支持派と小沢支持派の距離は、民主党と自民党よりも遠い。両党の執行部の顔ぶれをみれば、岡田幹事長と自民党の石原幹事長が当選同期であり、菅首相もふくめて昔「金融国会」で協力し合った仲間である。それもあってか菅・岡田体制は野党自民党と政策では協調できると考えているようで、とりあえず円高・株安対策のための補正予算案づくりで協力を求める考えのようだ。対する自民党は民主党の亀裂をさらに拡大させ、解散・総選挙に追い込むという戦略に変わりつつある。

 ねじれの参議院で野党が足並みをそろえれば、国会は動かない。予算が成立しても関連法案が参議院で可決成立しない限り、予算の執行ができない。菅政権が立ち往生する姿がイメージとして浮かんでくる。放列を敷いた弓矢部隊が一斉に矢を放ちという「矢衾(やぶすま)」。体中に矢がささったままで武将が立ち往生する。そのような状況になりかねない。

 危機は年末までに、いやそれよりも早く、来月の臨時国会から始まるかもしれない。国会ばかりでなく、日中関係も日米関係も、厳しい試練にさらされている。内憂外患の菅政権はこの状況をどう切り開いてゆくのだろう。立ち往生すれば、次に小沢一郎氏をしのぐだけの首相候補を探し出すことができるだろうか。

(政治ジャーナリスト、日本経済新聞客員コラムニスト)

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