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菅政権

2010/06/06

背水の小沢氏どう出る

 菅直人氏に最初に会ったのは74年、互いにまだかろうじて20代だった。私は新聞社の駆け出しの政治記者。菅氏はその年の参院選で全国区の候補者だった婦人活動家市川房枝さんの選挙スタッフだった。市川さんが会長をしていた婦人有権者同盟の事務所だった。ハンサムな若者がきびきびと事務所を仕切っているのを見て感心したことを覚えている。

 ここから菅氏は政治の世界へと入っていくが、その政治歴はまさに波乱万丈である。市民運動からスタートした人物が、内閣総理大臣にまで上り詰めた。世襲政治家でもなく官僚出身でも大手労組の幹部だったわけでもない。だれか大物政治家に気に入られて政界で引っ張り上げられたわけでもない。何の後ろ盾もない人物が国家運営の最高責任者になったのである。

 その意味では田中角栄氏が総理大臣になった時に似た驚きを覚える。自民党のベテラン政治家が、菅首相誕生のニュースをテレビで見ながら「日本にもほんとの意味で民主政治が実現したということだな」とつぶやいていた。銀のスプーンをくわえて生まれてきたような鳩山由紀夫前首相とは、さまざまな点で対照的だ。普通のサラリーマンの家庭に育ち、普通の公立学校で学んだ。

 鳩山氏が「思い」を連発する理想を追い求めるタイプだとすると、菅氏は徹底的な現実主義者である。ときに、その言動は物議をかもすほど激しいが、したたかな計算が見え隠れしたりすることもある。鳩山内閣で「副総理」という重要な立場にいながら、政権の命取りになった普天間移設問題では一切発言しなかったし、閣内での議論にも加わらなかった。

 計算がもっとも見え隠れするのは小沢一郎氏との距離感に関してである。政治とカネの問題にかかわる菅氏の発言は常に「一般論」の衣を着せたものだった。しかしながら、代表選出馬直前から、がらりと変わった。「小沢さんにはしばらく静かにしていただいたほうがご本人のためにも民主党のためにもまた日本の政治のためにもいいと思う」と言い切った。

 この言葉は民主党内部にたまっていた小沢政治に対する鬱屈(うっくつ)した空気を放出し、反小沢グループの票を固めていった。小沢氏は菅氏の面会要請を拒み続けたが、結果として菅氏にすべての主導権を握られることになってしまった。原口一博氏、田中真紀子氏らの擁立を模索し、結局樽床伸二氏をてこ入れすることになったが、戦術的には明らかに敗北と言わざるを得ないだろう。

 官房長官になった仙谷由人氏は反小沢派の領袖ともいうべき人物である。小沢氏にしてみれば、最近まで「決して悪くない関係」(小沢氏周辺)と思っていた菅氏の切り捨て戦法に意表をつかれ、おそらくはらわたが煮えくり返る思いだろう。4日中に組閣まで終えるという小沢氏らが敷いた段取りをひっくり返し、新内閣のスタートは8日に持ち越した。これも小沢氏の描いた「選挙管理のための暫定政権」という路線を否定し、本格政権であるということを強調したいという考えからだろう。

 菅直人政権の最大の課題は来月の参院選である。鳩山首相、小沢幹事長のままで選挙戦に突入するよりは、ましであることは間違いないが、それでも勝利の展望はなかなか見えてこない。次なる課題は暗礁に乗り上げているさまざまな政策の再点検と、日本再生のための青写真作りである。現実主義者の菅首相は、鳩山首相時代の「夢」先行型の政策の再点検がまず求められている。

 政治的側面では小沢一郎氏がどう出るかが焦点になるだろう。菅氏の民主党代表としての任期は鳩山氏の任期切れである9月いっぱい。したがって9月には代表選を行わなければならないかもしれない。菅氏ら執行部は選出されたばかりという理由で代表選を見送ろうとするだろうが、小沢氏がそれを許すかどうか。背水の陣の小沢氏は9月代表選実施を迫ってくるように思われる。その場合、だれを擁立するのか。

 どうも小沢氏自身が首相の座をめざして代表選に出馬するのではないだろうか。首相になる気ならいつでもなれたのに首相になりたくない政治家、という形容詞が小沢氏にはついてまわる。それはポストにつかなくとも政治を支配できる場合のことで、いまの小沢氏は政治生命の炎が消えかけているのである。それだけ小沢氏の力が落ちているともいえるが、窮鼠(きゅうそ)猫をかむで、何を仕掛けてくるかわからない不気味さが、菅政権の先行きに暗雲となって立ちこめる。(政治ジャーナリスト、日本経済新聞客員コラムニスト)

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