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自民党

2009/11/29

茫然自失、どう立ち直る

 政権交代で主役の座から滑り落ち、めっきり影の薄くなった自民党、いまどうしているのだろう。谷垣禎一総裁が趣味の自転車で転倒、目の下のあざが痛々しいが、どことなくいまの自民党を象徴するような事故だった。絶対に絆創膏(ばんそうこう)はしないでほしい、という声があちこちから執行部に届いたらしい。自民党没落の一因にもなったあの元農水大臣の絆創膏と重なるからだろう。

  歴史的大敗というよりは、古今東西どこにもないような(カナダをのぞけばだが)大敗北の衝撃から、自民党はまだ立ち直れないでいる。ボクシングで強烈なアッパーカットをくらいKOされた選手がやっと意識が戻ったものの、足取りがふらついている、あの状態だ。なぜ、このような敗北を喫してしまったのか、当の自民党自身がわからずに首をかしげている状態なのである。

  なぜ、負けたかわからないのだから、どうすれば再建できるかもわからない。「解党的出直し」という言葉は浮かんできても、ではどうするかがわからないのである。次にもっと深刻なのは自民党の「存在理由」が見つからない、ということである。これまでの自民党は「与党」すなわち政府を握っている、ということが最大の存在理由だった。野党になった自民党に「健全な野党になってほしい」と思う人は、そんなには多くはないだろう。

  与党に復帰するということは総選挙に勝つ、ということである。その展望がまったく見えてこない。あるとすれば、民主党だって、そのうちボロを出すさ、とか振り子の理論からみて次は自民党に追い風が吹く番だ、などという根拠のない楽観論だ。この10年間、自民党は公明党と連立政権を組んできた。選挙では公明党・創価学会の支援で多数を確保してきた。すでにそれがなければ自力では戦えない体質になってしまっていたのである。

  比例代表部分の集票能力でみれば、公明党は800万票ほどの集票能力がある。これを衆議院の小選挙区300で割ると、1小選挙区当たり約2万5千票になる。ともに下野した両党が今後も選挙協力を続けるとは考えにくい。公明党の支持母体創価学会の中に、自公連立への厳しい反省が出ているからだ。また、代表、幹事長がともに落選という結果に終わったことから、公明党は今後、比例区以外には候補者を立てないことが予想される。

  とすれば、それぞれの小選挙区で2万5千票はどこへ行くのか。公明党内部では「政策的には民主党のほうがはるかに近い」という声が出ている。この票が民主党の候補者に投じられることになれば、自民党は1つの小選挙区で差し引き5万票集票しないと元に戻らないということになる。今回の総選挙は有権者の「自民党にちょっとお灸を」という程度の投票行動がきっかけで、結果はおおやけどを負ってしまったようなものだ。さまざまな条件を考えると、見通せる範囲で自民党が与党に返り咲くことは針の穴にらくだを通すほど困難に思える。

  この政権交代で、日本列島全体に変化が生じ始めている。それは何も予算編成のやり方とか、政治家と官僚の関係ばかりではない。たとえば、地方。自治体の首長や議会は圧倒的に自民党系が多数を占めているのに、自民党の国会議員が激減したというところが極めて多い。一人も自民党の国会議員がいない県もある。

  地方に勢力を持たない民主党ゆえに、たとえば八ツ場ダムのように地域の声を飛び越えたトップダウンの決定が可能になる。いまその地方が変わりつつある。静岡では新任の民主党系川勝平太知事と対立していた自民党県議団が真っ二つに分裂し、半分が知事与党になった。このような細胞分裂のような変化が全国の自治体で起こるだろう。

  小選挙区で落選し、比例で復活もならなかった自民党のベテランに会った。聞けば聞くほど落選という現実がいかに厳しいものかを感じさせられた。上京する際に初めて新幹線の切符を自分で買ったという。それまでは全国フリーのグリーン車無料パスだったのだ。何が一番不安?と聞いたら、「あしたからの家族の生活と解雇した秘書の将来」という答えが返ってきた。収入はまったくなくなる。政治献金はいくらかはあるだろうが、野党になってしまったうえに落選では、これまで通りに献金してくれる人はあまりいない。

  もっとつらいのは、次の総選挙でどうすれば勝てるのかの展望がないことだとつぶやいた。知名度や実績が自民党候補の強みだったが、それが裏目に出たのが今回の総選挙。自民党の茫然(ぼうぜん)自失状態はまだ続く。
(早稲田大学大学院教授、日本経済新聞客員コラムニスト)

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