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文明論

2008/07/21

人の智徳は進歩したか

 一晩だけの滞在だったがG8の行われた洞爺湖周辺は雨と霧で、メディアセンターから見えるはずの不思議な形をした会場のホテルもまったく見えなかった。飛行機の中で読もうと書棚から文庫本を一冊、かばんに放り込んできた。福沢諭吉の「文明論之概略」。

  購入した時期は異なるが、同じ本が手元に二冊ある。いずれも汚れていないので、読んだものは別の文庫本だったのだろう。福沢は文明についてこう述べている。「文明とは人の安楽と品位との進歩を云うなり。又この人の安楽と品位とを得せしむるものは人の智徳なるが故に、文明とは結局、人の智徳の進歩と云て可なり」(巻之一 第二章「西洋の文明を目的とすること」)。

  一八七五(明治八)年、木版で発行された福沢の、というより日本の古典としても傑作のひとつに数えられるこの書物は、西郷隆盛が弟子たちに読むように勧めたといわれている。丸山真男の「『文明論の概略』を読む」によると、これらのくだりには十九世紀フランスの歴史家、政治家のギゾーの啓蒙主義と、英国の歴史家バックルの産業革命後の英国文明論をやや強引に結びつけているという。

  いずれにしろ洞爺湖G8の百三十三年前に福沢は文明の本質について「結局、人の智徳の進歩」と指摘している。G8の議論と結論を見て、文明というものは科学技術のように時間がたてば進歩するというものではないのだな、と雨に煙る山の緑を見つめながら考えた。豊かになるということは、その過程でエネルギーの消費が増える。また温暖化ガスの排出量も増える。一方で地球の人口が六十億人を超えたいま、すべての資源が不足することは、相当前からだれもがわかっていたこと。そのわかっていたことに手が打てない。利害が対立し、己の利だけを得ようとして地球全体を傷めてしまう。

  広島、長崎の悲劇を経験しながら、なぜ地球上から核兵器がなくならないのか。新たな核保有国をつくらないように国際協調を進めるというのなら、なぜ、保有国そのものを減らそうとしないのか。費用対効果でもっとも安価な大量破壊兵器が核兵器だといわれるが、実際に使用されるようなことになれば、地球そのものが破滅するのではないか。それなのにピーク時には約七万発、いまでも三万発以上の核弾頭が世界中にある。地球を何回も壊滅させるだけの量の核がなぜいるのか。

  食料も足りない。生活水準の向上、人口の増加、それに加えて気候変動による食料事情の激変。水も足りない。ペットボトルのミネラル水の消費量が世界中で飛躍的に増えている一方で、泥水をすすって生きている人たちもたくさんいる。同じ人間として生を受けながら、なぜ、これほど差ができるのか。なぜそれを埋める努力がなされないのか。文明が「人の智徳」の進歩だというのなら、人は少なくともこの一世紀以上、まったく進歩していなかったことになる。G8が終わったら、こんどは日本と韓国の間のもっともやっかいな問題である領土問題が再燃した。日本は「竹島」といい、韓国は「独島[ドクト]」。「独」という文字にナショナリズムが詰まっているように見える。たがいに自国の領土だと主張し譲らない。というよりは譲れない、というべきだろう。

  地球上のあらゆる領土問題はよく似ている。自国に有利な史料を根拠に主張しあっても解決は難しい。昔なら戦争で決着もしただろうが、いまはどちらかが譲らない限り政治決着しかない。最近、決着した中国とロシアの領土問題のようにまん中に線を引き、面積を半分ずつするという方式は、参考にすべき知恵だ。

  地球上の土地はもともとだれのものでもない。日比谷公園ほどの面積の岩だけの島の帰属をめぐって、国と国とが抜き差しならないような関係になるなど、愚かなことではないか。外交より国内事情を優先させるやり方は一時のうさは晴らせても根本的な解決にはまったく役に立たない。韓国の李明博政権は窮地に立たされており、ナショナリズムを刺激しながら国民の目を外に向けようとしている。米国ばかりではなく、対外関係はにわかに悪化している。その流れの中にわが国も入っていると考えれば、あわてることはない。こういうときには「反応しない」という選択こそ「智徳」というものではないだろうか。

(早稲田大学大学院教授、日本経済新聞客員コラムニスト)

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