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政治家の言葉

2007/08/03

あまりに軽い安倍内閣

 まことに失礼ながら、辞任した赤城徳彦農水相の顔の絆創膏(ばんそうこう)と参院選に惨敗した安倍政権のイメージが重なる。傷ついた安倍首相は、大きな絆創膏に包まれて、続投を宣言した。赤城さんの事務所経費問題に関する釈明は、ほとんど理解不能だった。安倍首相の選挙後の発言もまた、聞いている側に伝わってくるものが何もない。

 この内閣は、意味不明な言葉を連発するのが特徴らしい。安倍首相は続投の理由について記者会見でこう述べた。「批判は承知している。結果が大変厳しいことも認識している。しかし、ここで逃げてはならない。大変厳しい状況でも、政治の空白は許されない」。仮に、安倍さんが辞任を表明したとしても、国民は「逃げた」などと考えるだろうか。「政治の空白は困る」と思うだろうか。

 「反省すべき点は反省しながら」とも付け加える。言葉の軽さ、内容のなさ。国家運営の最高責任者としてのほとばしるような熱情を求めるのは、そもそも無理なのか。小泉純一郎さんはたしかにパフォーマンスがうまかった。しかしながら「自分は殺されてもいい」と郵政民営化関連法案のヤマ場で述べた。命懸けなのか、と熱いものを感じた有権者は少なからずいたはずだ。それが総選挙での歴史的大勝につながった。

 投票日当日、まだ締め切っていない時刻、惨敗を予期した中川秀直幹事長は森喜朗元首相、青木幹雄参院自民党議員会長に会い、自らの幹事長辞任と首相の進退について意見を求めた。そのかたわら、ポスト安倍有力候補の麻生太郎外相が裏口から首相公邸へ入り「三十議席台でも続投すべき」と伝える。小渕恵三さんの後継を決めるときの森、青木さんら五人の密室協議を思い起こさせる。後継選出の不明朗さが、森内閣を短命に終わらせる一因となった。

 自民党役員会は、間髪をいれずに続投を容認し、党内の退陣論を封じた。不気味な沈黙が自民党を覆っている。正面から退陣を求める声は極めて少ない。「言論の不自由民主党」などと自嘲(じちょう)気味の声も聞こえる。それにしても、と思う。安倍首相の危機管理能力は大丈夫なのか、と。「赤城農水相を含めて内閣改造を行う」と語った翌日の赤城さん更迭である。辞任の日の朝、「任期の間は全力でやっていく」と述べていた。官邸に呼び出され、その場で辞表を書くよう求められた赤城さんは「自ら辞表を出した」と言い訳した。

 同じことはやはり繰り返すのだ。本間正明政府税調会長の公務員宿舎不正入居問題のときも、クビを言い渡したのは安倍首相だったし、久間章生防衛相の「原爆しょうがない」発言のときも、辞表提出を迫ったのは首相だった。自ら辞任という形にこだわるあまり、指導力欠如を印象付けることになってしまった。「問題ない」などとかばう前に、本人を叱責(しっせき)していれば、これほどの敗北は避けられたかもしれない。

 うそ臭く感じる、のが政治にとってもっともまずいことだ。国民の嗅覚(きゅうかく)は政治家が考えている以上に鋭い。領収書を出すようにルールは決めていない、という釈明は、きっと領収書なんかないんだな、というように映る。安倍さんもまた、テレビに出て自分から語りかければ、必ず、国民は理解してくれるに違いないと、信じて疑わないようだ。話せば話すほど票が逃げて行くことだってあるということに気づいていない。

 年金問題と閣僚の失言、地方の格差、それらが参院選与党敗北の理由の大きな部分であることは確かだ。でも、それだけではあるまい。「美しい国」という言葉の空虚さ、「戦後レジーム(体制)からの脱却」など言葉が浮ついている。「小沢か安倍かの選択がかかっている」と自ら政権選択の選挙にしていながら、敗北すると口をつぐむ。

 このような言葉の軽さに、人々は指導者としての資質に疑問を感じ始めているのだ。初めにかばっておいて、最後に突き放すというやり方の稚拙さ。最近、多用する「私の内閣」という言い回しに反発を感じる人が多いことにはまだ、気がついていないのだろう。「しっかり」という言葉の乱発は、発言の内容のなさをことさら印象づける。

 首相が「人心一新」と語るときは、自らの敗北の責任を感じていないのではないかとさえ、思わせる。閣僚のせいだけでこのような結果になったわけではない。優勝後、疲労骨折の診断書を出し、巡業に不参加の届けを出した横綱朝青龍がモンゴルでサッカーに興じていた問題で、相撲協会は二場所出場させないという処分を発表した。相撲協会のこの処分の厳しさと、危機管理能力が安倍首相にあれば、こんなことにはならなかっただろう。一度、失った国民の信頼を取り戻すことに成功した首相はこれまでほとんどいない。

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