日本・スイス国交樹立150周年特集

スイス・イノベーションの現場

国際化された大学 世界のトップ3を独占

 「国際化された大学」というテーマで世界の大学をランク付けすると、スイスの学校がトップ3を独占するという調査結果がある。スイスの学生の25%、教員の50%が外国籍で、そうした状況も「国際競争力を備える国」である要因だと国の教育担当者は強調する。
 その上位3校の一つが、チューリッヒ連邦工科大(ETH)。21人のノーベル賞受賞者を輩出し、アインシュタインも学び、教えた。今、国内外から集まった1万8000人が在籍する。
 日本人留学生で、土木工学を専攻する東北大修士課程2年の川守田智さんは「授業中は誰もが積極的に発言し、とても刺激を受ける。試験では本当の理解度が試される」。建築を学ぶ東大修士課程2年の内田奈緒さんも、「学生の水準が高く、設備も充実している」と顔を輝かせる。
 起業を支援する大学の担当者は言う。「ここでは学生が先生に反論し、先生もそれを受け入れる。互いの信頼関係があって、新しい発想も生まれる」。最高度のノウハウを伝える指導陣と、吸収する若者。両者の歯車がかみ合い、スイスの研究開発は深化していく。
 また、親元を離れ、寮生活をしながら24時間態勢で質の高い教育を受けるボーディングスクールがある。スイスではル・ロゼ、ラ・ガレン、エイグロンカレッジなど多国籍の留学生が在籍する歴史的な学校が多く、低年齢から国際的な教育が始められている。

職業訓練校進学 8割が選択 「即戦力」に

 スイスには国立大学が2校ある。チューリッヒ連邦工科大(ETH)と、ローザンヌ連邦工科大(EPFL)だ。国の未来を担う精鋭たちが集うが、スイスのイノベーションを支える若者は彼らだけではない。
 スイスの子どもは義務教育を終えた時、大学進学のための資格を得る一般教育課程に進むか、就職が目的の職業訓練学校に進むかの選択を迫られる。うち、職業訓練校を選ぶ生徒が8割。「高学歴こそが社会での成功の条件」などと考えられた一昔前の日本とは違う。
 「勉強を続けたくない子に、さらに学問を追究させるのは効率的でない。しかも思春期の彼らは吸収力が高く、企業にとっても職業訓練を受けた人材は、新たにトレーニングを施す必要がない」。国の教育行政の責任者はこうした特有のシステムの有効性を訴える。
 しかも職業訓練校の8割が、学校での勉強に加え、実際に企業の現場で働く時間をセットにした「デュアルエデュケーション」を取り入れる。こうした環境の中で、専門知識と技能を有する人材が育ち、採用された企業でも即戦力として機能する好循環が生まれる。
 電力・オートメーション大手のABBの製造工場。職業訓練校に通いながらここで働き、そのまま就職した20代の男性は言う。「早く仕事がしたくて訓練校に進んだ。今こうして自分の手掛けた製品が、世界に影響を与えている」。働くことの喜びと誇りがにじむ。

太陽光で世界一周 「無理」を排除 夢に挑む

 太陽の力だけで世界の空を一周する―。そんな夢のあるプロジェクトが今、スイスで進められている。翼の全幅72メートル、重量2300キロ。そのボディーに太陽光パネルを取り付けた航空機「ソーラーインパルス」を飛行させるプランだ。二人の民間人男性が考案した。
 フリブール州の空軍施設の一角で、機体の仕上げ作業が進む。発案したパイロットのバートランド・ピカードさんが語る。「最初は誰も成功するとは思っていなかった。そういう『無理だ』という意識を排除したい。新しい技術と向上心があれば、何でもできる」。
 予定ではソーラーインパルスは来年3月にUAEを出発し、4カ月後に帰還する。4月には日本の上空を通過する。「経済、環境、政治。全てがウィンウィンになる。スイスのイノベーションにとって、ソーラーインパルスは希望だ」。ピカードさんに迷いはない。
 ソーラーインパルスが国家の夢を背負う技術開発なら、こちらは人々の日常生活に小さな幸せをもたらす技術だろう。カプセル入りのコーヒー豆を、自社製のコーヒーマシンとセットで販売し、自宅で簡単に楽しめるエスプレッソを提供する「ネスプレッソ社」だ。
 最先端の「研究所」というイメージの新しいコーヒー工場。中にはコンピューターが整然と並ぶ。従業員が日々、テイスティングを重ね、徹底した品質管理で「味」を追究している。「ネスプレッソを世界に広めていく」。そう誓う広報担当者の声にも迷いがない。

各分野 成熟の美 自然も もてなしの心も

 国土の広さは日本の九州程度。しかもその大半が山間地で、農業生産力は決して高くない。「資源に恵まれない国が生き残る術(すべ)が『知』だった」。国や企業の関係者が語る通り、伝統的な「マイナス要因」が技術革新を進め、近代化を実現させたと言えるだろう。
 有数の先進国となったこの国には、諸外国の人々を引き付ける多くの魅力がある。GDPの10%を占める金融産業をはじめ、ブレゲやロレックス、オメガ、ブランパンなどに代表される高級時計もある。それらはスイスが有する「ブランド力」のシンボルでもある。
 そして何より、アルプスが象徴する美しい自然がある。名峰ユングフラウヨッホに登るユングフラウ鉄道の乗客はふと、窓の景色に見とれる。青空に真っ白な雪山が映え、草原ではカウベルを下げた牛が戯れる。どこからかホルンの音色が聞こえてきそうな風情だ。
 鉄道としてヨーロッパ最高の標高3454メートル地点にまで人を運ぶこの列車。最上部から約7キロの区間は百年以上前、16年間の歳月をかけ、岩盤にトンネルを掘って通した。「とにかく山を見てほしかったのでしょう」。同社の幹部が当時の執行部の情熱を力説する。
 初対面の外国人を自宅に招き、夕食を共にした男性が笑顔で話す。「いつか海外の人を家に呼びたかったんだ」。当日は妻と一緒にサラダやソーセージ、ケーキなどを早くから用意して待ったという。科学技術、金融、自然、もてなす心…。どれもが成熟している。

モントルー・ジャズ・フェス 観客25万人 国挙げ開催

 スイスで開かれる音楽祭で有名なのが、毎年7月に開かれるモントルー・ジャズ・フェスティバル(MJF)や、クラシックではルツェルン・フェスティバルだ。
 MJFは1967年にスタート。観客は当初、約1200人だったが、半世紀近い歴史の中で25万人を超えるまでに拡大。経済効果は約60億円と、国を挙げての文化事業となった。米国のモントレー、ニューポートと並ぶ世界3大ジャズフェスの一つに数えられる。
 「ジャズだけでなく、ブルース、ロック、レゲエ、ポップスなど世界の幅広いジャンルのアーティストたちの競演を楽しめる」。モントルー・ジャズ・フェスティバル日本代表の酒井捷八(しょうはち)氏(72)はこう強調。「コンペティションやワークショップなど、毎年趣向を凝らした好奇心あふれる内容も魅力」と話す。
 マイルス・デイビス、フィル・コリンズら有名スターが参加。今年は、スティービー・ワンダーが初めて出演した=写真=。2014年7月11日には国交樹立150周年を祝うイベント「ジャパン・デー」もあり、ピアニストの上原ひろみさんやギタリストの布袋寅泰さんらが聴衆を魅了した。

■11月 川崎でMJFジャパン

 MJFジャパン・イン・かわさき2014が2014年11月21日から30日までの日程で開催予定。2013年は9日間で11公演が行われ、2014年初めて若手ピアニストのためのコンペティションが実施される。
 ルツェルン・フェスティバルがサポートするイベントが2013年、宮城県松島町で行われた。2014年も開催を目指して準備が進んでいる。

「国際化された大学」の代表格でもあるチューリッヒ連邦工科大。優れた学生が各国から集まってくる=チューリッヒ
「国際化された大学」の代表格でもあるチューリッヒ連邦工科大。優れた学生が各国から集まってくる=チューリッヒ
ABBが製造する高電圧用のスイッチギア。職業訓練校出身のスタッフたちの技術が支える=チューリッヒ
ABBが製造する高電圧用のスイッチギア。職業訓練校出身のスタッフたちの技術が支える=チューリッヒ
整備が進むソーラーインパルスを背に、コンセプトを語るバートランド・ピカードさん。「スイスのイノベーションを背負うプロジェクトだ」と訴える=パイエルヌ
整備が進むソーラーインパルスを背に、コンセプトを語るバートランド・ピカードさん。「スイスのイノベーションを背負うプロジェクトだ」と訴える=パイエルヌ
ユングフラウ鉄道の車窓から望む景色。青空の下に広がる自然も「スイスブランド」の一つと言える=ユングフラウ地方
ユングフラウ鉄道の車窓から望む景色。青空の下に広がる自然も「スイスブランド」の一つと言える=ユングフラウ地方
写真提供= MJF2014 Lionel Flusin
写真提供= MJF2014 Lionel Flusin

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