デポジット 姫島

第4部 視線は高く6

島の利生かし住民結束

 大分県国東半島の北約五キロに浮かぶ姫島。周囲十三・七キロ、人口約三千人のこの小さな島には二つの名物がある。

 一つは「一村一品運動」の車エビ養殖。そしてもう一つが、空き缶回収のデポジットシステムだ。

 「島をちょっと歩いてごらん。どこにも空き缶が落ちてない。こんなところは他にないやろ」。商工会長の島崎勝広さん(62)は、誇らしげに「日本でここだけ」と繰り返した。

ポイ捨て激減

 デポジットとは預かり金のこと。店があらかじめシールを張った缶飲料に十円を上乗せして販売し、空き缶を持ってくれば十円を返す仕組み。空き缶に十円の付加価値を与え、ポイ捨てを無くそうという狙いだ。

地図

 スタートは昭和五十九年。当時は公園などでの部分的な実施はあっても、一つの自治体としては全国初の試みだった。

 初年度は二十一万二千本を販売し、約八割を回収。翌年には九割を突破した。もともとは県のモデル事業として始まったが、「思った以上の成果」(藤本昭夫村長)に、その後も村単独で続けることになる。

 シールの印刷代や商工会への委託料など、村の補助額は年間約二百万円。「これくらいの額で島がきれいになるなら安いもの」と藤本村長は笑う。

 現在までの累計の回収率は約八九%。実際には売れ残りや家に置いたままの空き缶もあるので、ほぼ百%と関係者は胸を張る。

 効果は空き缶だけにとどまらなかった。

 「そう、ビンやペットボトルなどのポイ捨ても激減したんや」と島崎さん。「空き缶だけ別にして、その他のごみを捨てるわけにはいかんやろ」。デポジットが浸透するにつれ、住民の意識も変わっていった。

1島1村

 導入を図った地域は他にもあるが、いずれも長続きしていない。なぜ姫島だけで定着したのだろうか。

集まった空き缶を商店で換金する主婦。デポジット制度の定着でポイ捨ても激減した=大分県姫島
集まった空き缶を商店で換金する主婦。デポジット制度の定着でポイ捨ても激減した=大分県姫島

 「一島一村という地域性が大きいでしょうね」。藤本村長は「住民のまとまりがよく、販売から回収まで完結できる。他から持ち込まれる缶も少ない」と離島という閉ざされた空間の利点を挙げる。

 しかし、姫島を参考に二年前からデポジットを始めた八丈島(東京都)は、同じ「一島一町」ながら店の協力が半分しか得られず、必ずしも順調ではない。

 「姫島でも最初は店にかなりの抵抗があった」と島崎さん。一本につきシールを張って一円、回収して一円。店に入る手数料はそれだけ。手間を考えればメリットは少ないが、「足並みがそろわないと絶対うまくいかない」。村や商工会の熱意に、すべての店が協力するようになった。

 「シール張りも最初は面倒やったが、慣れれば苦にならない。やっぱり島がきれいになれば、うれしいですよ」。こう話すのは、一人で雑貨店を切り盛りする藤本明利さん(78)。

 スーパー店員の波戸崎裕一さん(29)も「ポイ捨てはしないという習慣が身に付いている。店側もみんな協力しようという気持ちを持ってますね」とデポジットの定着を喜ぶ。

 住民に共通するのは、美しい島を守りたいという強い思いだ。

島外にアピール

 姫島は、およそ半世紀にわたって村長選で無投票が続く政争とは無縁の島。こうした地域の事情が、島民のまとまりの良さに影響しているとの指摘もある。

 「もともとそういう面はあるが、空き缶回収によって住民の結び付きが、より一層強まった」。島崎さんは、島を挙げての取り組みが、世代を超え住民の団結心を高めているという。

 漁業が盛んで、高齢化率は二〇%台。瀬戸内海でも「元気な島」に見えるが、子供の数の減少など他の島と同じ悩みも抱えている。

 そんな島にとって、「日本一」の空き缶回収は対外的にアピールできる島の魅力でもある。

 「もちろん、これからも続けますよ」。藤本村長は強い口調でうなずく。「もはやデポジットは島の個性であり、特色。小さな島の生き方を示すものなんです」。