反骨 家族諸島(4)

第4部 視線は高く4

高速船買い自前で運航

 姫路港から二十五分。高速船「まうら」は家島諸島の中心地、家島の真浦港に白い船体を滑り込ませた。

 桟橋のすぐ向かい、ビルの玄関に垂れ幕がかかっている。「祝 定期航路就航」。事情を知らなければ何の変哲もない文言だが、自尊心をかけて立ち上がった島びとの"八百日戦争"が国を動かした記念碑だ。

実力行使

 話は三年前にさかのぼる。

 姫路―家島間(約十五キロ)で旅客船を運航する家島汽船のダイヤは当時一日五往復。便数は二十数年間変わらず、島への最終便は午後六時台に終わる。通勤、通学に不便をかこち、姫路市内に家を買って二重生活する島民も少なくなかった。

 真浦区会(自治会)は「人口五千人の島に一日五便はあまりに少ない」と増便、最終便の繰り下げを再三申し入れた。しかし、汽船側は「赤字続き。航路維持で手いっぱい」の一点張り。頑として増便に応じない。見切りをつけた区会は一億六千万円で高速船(定員九十人)を買い、九年七月から一日六往復の運航を始めた。

 「島の反骨心に火がついたんじゃな」と陳情に同行した鍬方志郎町長(59)。「会社側は船のダイヤに住民が口出しするなと言わんばかり。それなら自分たちでやるわいと」。家島町は国政選挙の投票率が二〇―四〇%台と都会並みの低さ。この低率が島では独立心の強さと等式で語られる。海運の島として生きてきた風土が「本土何するものぞ」の気骨をはぐくんだ。

 住民の"実力行使"に運輸省は慌てた。神戸海運監理部は「複数の定期航路は採算面で問題」と需給調整を盾に免許を出さない。やむなく住民側は届け出で済む個人営業の不定期航路(年間三十日以内)を選択。区会の役員が順番で代表者になり、三十日ごとに届けを繰り返す戦術で対抗した。

 ところが、これにも国は難色を示す。「実質的に定期運航。違法性が強く、安全面の問題も大きい」と運航中止を勧告。それを柳に風と受け流し、住民は船を走らせ続けた。

 高速船の就航で所要時間は従来の三分の一に短縮。姫路発最終便も午後八時半と遅くした。区会は翌年、二隻目を購入。島民は続々と高速船に乗り換え、汽船の乗客は激減した。

共存の知恵

 運輸省が妥協案を持ち出したのは昨年春。「町が運営に加われば経営が安定し、安全性も高まる」と、第三セクターでの運航を提案。町と区会が共同出資で「高速いえしま」を設立したのを受け昨年十月、ついに定期航路免許を出した。「規制緩和の流れも追い風になった」(鍬方町長)。

家島・真浦港に降り立つ高速船の乗客。朝一番の便には姫路から通学する高校生の姿が目立つ=兵庫県家島町
家島・真浦港に降り立つ高速船の乗客。朝一番の便には姫路から通学する高校生の姿が目立つ=兵庫県家島町

 現在、両社が一日各八往復の計十六往復を運航。利用客は三年前に比べて年間五万人以上増え、四十万人を超えた。陸から島へ通学する珍現象も生まれ、姫路市内から家島高校へ通う生徒が約三十人いる。

 高速船の運賃は片道八百円。家島汽船より百八十円も安い。区会側の一人勝ちかといえば「そうでもない」と船長の庄野猛さん(55)。利用の多い時間帯の便を家島汽船に譲ったのと、汽船側も大型新鋭船を導入してスピードアップした。「島の人間はうまく乗り分けとりますよ。家島汽船がつぶれたら元も子もない。共存していかんとね」。

特殊事情

 減便、廃止が相次ぐ離島航路。採算割れを前面に持ち出され、多くの島がそれを受忍している。家島の挑戦は競争原理と利便の向上が潜在需要を掘り起こしたお手本ともいえる。

 「ただ、他の島の参考にはなりにくいやろうね。心意気だけで何億もの船は買えんから」と中上忠義区長(54)。今年八月、家島の航路事情を視察した香川県交通政策課の職員も「香川の離島が追随するのはとても無理」と話す。

 家島住民が陸の論理に反旗を翻せた背景には、この島独特の産業構造がどっしりと横たわっている。