兄弟分 家族諸島(3)

第4部 視線は高く3

強いきずな、古里に愛着

 「お待ちかね、次は兄弟分対抗リレーです」。アナウンスに会場が沸いた。

 九月下旬、坊勢島で幼稚園と小、中学校の合同運動会が開かれた。漁協、青年団、婦人会が加わり、商店も休む島をあげての大イベント。青壮年入り乱れて走る兄弟分リレーは数あるプログラムの花形種目だ。

 「もう何十年も続いとるからね」と区会役員の上谷隆幸さん(57)。「これも坊勢名物に付け加えといてや」。

親族より優先

 「兄弟分」。島で小学校を卒業するころまでにできる同年代の気の合った仲間を指す。特に親しい数人がそれぞれグループをつくるが、といって、特別な盟約の儀式があるわけではない。

 ひとたび兄弟分になると、その関係は生涯続く。日常生活から祝い事、弔い事まで、血を分けた兄弟同様に協力し合い、ある時は親族のつながりに優先する。「葬式でも焼香の順は親類より先」(上谷さん)。

 兄弟分はかつて各地の漁村に見られた伝統的な同輩集団だ。「板子一枚下は地獄」。助け合わなければ生きていけない厳しい海の世界が強いきずなを生んだ。坊勢では今もそのしきたりが受け継がれ、兄弟分に入らない男はまずいない。

 二十年ほど前までは仲間内で結婚の世話もした。数人で適齢期の娘の家を訪ね、雑談しながら本人や親の意向を確かめる。主婦竹中千由理さん(42)は「島にはデートの場がないでしょ。私も押しかけられて困った口」と笑う。「げんさい遊び」と呼ばれたこの風習、島に喫茶店やカラオケができて姿を消した。

 冠婚葬祭の決め事を除けば、ふだんの付き合いは気軽な交遊に変わっている。休漁日の夜に集まって飲んだり、金比羅参りに出かけたり。「そこで悩みの相談相手になって、兄弟分の不幸をわがことのように案じてやる。経済的な援助はあまりやらんね。カネが絡むとろくなことがないから」と漁師の敷谷充文さん(45)。カネが敵の世の中は、さしもの坊勢でも変わらない。

 「島に若いもんが定着するのは、確かに漁業が元気やから。けど、親身に接する存在があるのも大きな理由やなかろうか」

都会アレルギー

 兄弟分の存続が象徴する濃密な人間関係。教育現場には複雑な思いものぞく。

仲買い船に魚を揚げる青年。「坊勢にいたい。仲間がたくさんおるでね」。島に寄せる愛着は強い
仲買い船に魚を揚げる青年。「坊勢にいたい。仲間がたくさんおるでね」。島に寄せる愛着は強い

 「みんな身内の同質社会。外の風にはどうしても弱い」と坊勢中学校の宮脇三幸教頭(49)。

 学校の取り組みで一向に成果の上がらないものに「あいさつ運動」がある。生徒たちはあいさつを交わすことすら「水くさい」と嫌がるのだという。「顔を見てニコッとすれば、それで十分やないかと。そのくらい、身内意識が強い」。

 島外で就職して最初にぶつかる壁が、都会の乾いた人間関係。付かず離れずの人付き合いになじめず、疎外感にさいなまれる。

 島に帰れば、気心の知れた大勢の仲間。「新宅分け」に見られる面倒見の良さで親も大歓迎とくれば、里心のついた若者はたいていUターンを選ぶ。

 「厳しい言い方かもしれませんが」と宮脇教頭は続けた。「島社会のシェルターに守られ、甘やかされているというのが実感。自立を教えるのが教育の大きな使命とすれば、坊勢ではなかなか難しい」。

居心地の良さ

 「ここは居心地がええ」。島を歩いて耳にしたのは、暮らしやすさの満足ばかり。人間関係の煩わしさをぼやく住民には一人も出会わなかった。

 「坊勢の良さはやっぱり、人情の厚さ。その良さを守っていくためにも、島の経済基盤をきっちり固めとかなあかん」と釣り堀を経営している荒木栄さん(43)。

 「わが職を愛し、わが妻を愛し、わが古里を愛す。キザやけど、これがぼくのモットー。坊勢の男はみんな同じ心持ちやないかな」