高齢化三冠王 屋代島

第4部 視線は高く10

老いと老い支え合って

 午前十時、有本和枝さんは手押し車に六人分の昼食を積んで家を出た。独り暮らしの高齢者に弁当を届ける「毎日給食」サービス。配達ボランティアの有本さんには盆も正月もない。雨が降ろうと大風が吹こうと、文字通りの年中無休だ。

 「おいでる? 弁当置いてくよ」「ありがとうな」。元気な声が返ってくると、ひと安心。一軒ずつ安否を確かめながら、弁当を配って歩く。漁村特有の急坂の連続。八十歳の息が弾む。

65歳以上が半数

 山口県屋代島。周防大島とも呼ばれ、金魚の形をした島に四つの町がある。

「毎日給食」の弁当を届ける有本さん。利用者の笑顔が何よりの励み=山口県東和町
「毎日給食」の弁当を届ける有本さん。利用者の笑顔が何よりの励み=山口県東和町

 しっぽの部分にあたるのが東和町。昭和五十五年の国勢調査で全国一高齢化の進んだ自治体になり、以来二十年連続一位。独り暮らし率、老夫婦世帯率も日本一の「高齢化三冠王」の町だ。

 高齢化率は五〇・〇二%。今年三月、全国の市町村で初めて五割を超えた。つまり住民の二人に一人が六十五歳以上。人口は約五千四百人。過去十年間で千四百人も減った。同じ瀬戸内海の島でも人口が増える坊勢島(兵庫県)とは対極に位置している。

 「町外からは深刻に見えるかもしれんが、ここは高齢者が互いに支え合っとるからね」。西木宏町長は超高齢化のハンディを意に介する風もない。

 「毎日給食」は町が九年前、民宿に委託して始めた。独り暮らしの高齢者は昼食を摂らなかったり、簡単に済ませがち。交通の便が悪く商業施設が乏しい島で、給食の人気は高い。国の補助を受け、個人負担は一食三百円。一日百食前後の利用がある。

 亥川鶴枝さん(82)は毎朝四時起きで、山一つ越えた民宿に急ぐ。煮物や酢の物をてきぱきと調理して保温ジャーに入れる。「人さまのお役に立てるし、自分も健康になる。ありがたいこと」。足腰の丈夫な間は続けたい、と亥川さん。調理スタッフ五人のうち三人が七十歳以上。高齢者を助ける側の多くが、やはり高齢者だ。

バトンタッチ

 「具合はようなったかい」。有本さんは升本ウメコさん(83)宅の引き戸を開けて声をかけた。「まだかい。そりゃ、いけんのう」。心臓を患い伏せりがちの升本さんを気遣う。健康状態をチェックするのも大切な仕事。配達の道すがら、引き取った前日の弁当箱を開けてみる。食べ残しが多いと心配になって引き返す。

地図

 有本さんが給食配達を始めたのは今年一月。それまで五年間配達を続けた米本ナツヨさん(84)が体調を崩し、バトンタッチを買って出た。「八十を超えたばあちゃん同士の選手交代。年寄りの島らしいじゃろ」。

 年金と弁当配達の手間賃(一個百円)で収入は月に約七万円。暮らしはつましいが「一人じゃけえ、何の不足もない。ここじゃみな、月に三万以上使わんけんね」。野菜は庭でつくり、魚は漁師からおすそ分けがある。風邪で寝込んだ時は近所中が当番で看病に来てくれた。

 「毎日給食」以外にも助け合うシステムは生きている。末武靖さん(77)、宮子さん(75)夫妻は、家の修繕や電気製品の修理を受け持つ「ゆうあいサービス」で活躍中。高齢者から「テレビの調子が悪い」「雨漏りがする」と電話があれば、おっとり刀で駆け付ける。

9割が「満足」

 <地域にはぐくまれてきた支え合いの精神が、金銭の介在で壊れる>。介護保険制度の導入前、町ではホームヘルパーや施設の確保より、むしろ「老々共助」の美風が薄れるのを危ぶむ声が強かった。

 「ふたを開けてみたら、今まで通り。在宅ヘルプの利用が少なくて拍子抜けしとります」。町福祉課の馬野正文課長は「とんだ取り越し苦労で」と頭をかく。

 数年前の町のアンケート調査で高齢者の九割が「今の暮らしに満足」と答えた。元気なお年寄りが、ちょっと体の弱ったお年寄りの面倒をみる。そんな仕組みがごく当たり前に機能している安心感が、高い満足度のベースにあるのかもしれない。