子だくさん 家族諸島(1)

第4部 視線は高く1

瀬戸内海唯一の人口増

 「おっちゃん、危ないでえ」。背中に若い女性の声。慌ててわきによけると、ミニバイクがびゅんとすり抜けていった。座席の前後に子供二人を乗せ、手慣れた運転で狭い路地を駆け上がる。後ろに続くバイクは母子四人乗り。警笛をけたたましく鳴らして走り去った。

地図

 兵庫県姫路港から南に約十八キロ。播磨灘に浮かぶ家島諸島の一つ、坊勢(ぼうぜ)島に揚がった途端、のどかな島のイメージはいっぺんに吹き飛んだ。

 「あんたも面食ろうた口やな」。区長の斉木節生さん(71)が笑いをかみ殺している。「ぎょうさんおりますやろ、バイクに子供。これ、坊勢名物ですわ」。

子供4人がブーム

 離島といえば過疎と高齢。そんな"常識"を坊勢島は簡単にはね返してしまう。それもそのはず、ここは瀬戸内海でただ一つ、人口が増え続けている不思議の島だ。

 住民の数は現在三千百六十人。「ここ十年は年間二十人ぐらいの増加。昔に比べると伸びは鈍りましたが、減る気配はないですね」(家島町住民課)。二十九歳以下の若年世代が全体の四五%を占め、人口ピラミッドは見事な「鉛筆型」。離島につきものの「キノコ型」とは似ても似つかない。

 人口増の図式は至極単純。出生数が死亡数を常に上回る自然増で、例年五十人前後の赤ちゃんが産声を上げる。昨年の出生率(人口千人当たり)は一五・〇。離島の中では若年層が比較的多い直島が八・八、全国、香川の平均がいずれも九・四だから、坊勢の数値は際立って高い。

 「子供三人は当たり前。最近は四人産むのがちょっとしたブーム」と坊勢幼稚園の主任教諭。島の高台にある園では手狭になった教室を増築中だった。廃校、廃園が相次ぐ離島の悩みも、ここでは別世界の話に聞こえる。

新宅分け

 坊勢名物は、子供とバイクだけではない。迷路のようにくねくねと続く坂道沿いに立派な家が建ち並ぶ。

ミニバイクを止めて、しばし世間話。島のあちこちで若い母親と子供に出くわす=兵庫県家島町の坊勢島
ミニバイクを止めて、しばし世間話。島のあちこちで若い母親と子供に出くわす=兵庫県家島町の坊勢島

 「最低でもみな五千万円はかけとるやろね」。通り掛かったおばあちゃんは「孫の家は六千万」と小鼻をひくつかせた。二十年余り、坊勢に通い仕事をしている姫路の造園業者が立ち話に乗ってきた。「一億円以上の豪邸も数軒あるよ。狭い島やから見栄の張り合いもあるんやろが、ごつい島やで」。

 平地が極端に少ない坊勢の地価は姫路並みに高い。本土から資材を運ぶ船賃も重なり、建設費はかさむ。

 それでも新築ラッシュが止まらないのは、「新宅分け」の風習が根強く残っているためだ。息子の結婚が決まると、親は借金してでも近くに家を建ててやり、嫁を迎える。新婚所帯には大助かりだ。

 「新宅分けだけが理由やないと思いますが、嫁不足と無縁ですな、この島は」と区長の斉木さん。おととし、全戸で聞き取り調査したら島外から坊勢に来た女性は約百人。八軒に一軒の割合だった。島の女性も古里志向が強い。いったん阪神方面で就職しても、適齢期になると島に戻る。

 「嫁にやるなら坊勢、が近辺の評判やね。経済的な心配なしに子供が産め、子育てにも専念できる」と斉木さん。そういえば、島には保育所が見当たらない。「ほとんどが専業主婦。保育ニーズがそもそもない」(町坊勢支所)。

ひしめく漁船

 息子にポンと一軒プレゼントする財力、主婦専業で立ちゆく暮らし。小さな島のどこにそんなサイクルを持続できる力があるのだろう。

 斉木さんは港にひしめく漁船を指差した。「漁業よ、漁業。人口が増えるのも、豪勢な家を建てられるのも、漁師が元気やから」。

 瀬戸内海の有人島は百六十。その多くが過疎と高齢化に悩みながら次の世紀を迎えようとしているが、疲弊した島ばかりでもない。恵まれた漁場環境を生かして活気づく島、高齢化と折り合いをつけて共同体を守る島もある。そんな島に足を運んだ。