製錬不況

第3部 豊島と直島4

労使一体「産廃」に活路

 島のざっと四分の一、約十八ヘクタールの広大な敷地に直島製錬所の工場群が並ぶ。縦横に走る配管の下を、リフトカーが動き回る。

 午後三時、早番勤務を終えた従業員が二人、三人と正門を出てきた。

 「以前は門を出るのに三十分もかかるくらい、人だかりができた。今はこの通り、寂しいもんや」。勤続二十五年という男性は「銅は冷え込んでしもうとる。産廃処理しかないわな」と首をすくめた。

八方ふさがり

構造不況にあえぐ三菱マテリアル直島製錬所。豊島産廃の処理プラントが今秋にも着工する
構造不況にあえぐ三菱マテリアル直島製錬所。豊島産廃の処理プラントが今秋にも着工する

 生活水準が上がれば銅の使用量も増える―。そんな成長神話も今は昔。慢性的な供給過剰と価格の低迷に産銅業界はあえいでいる。

 国際取引値はトン二十二万円前後と十年前に比べ三割も下落。「円高に振れたここ数年、特に厳しい」と三菱マテリアル金属製錬カンパニーの西田昌弘プレジデントは嘆く。鉱石をほぼ全量輸入して製品化する日本の銅製錬は「端的に言えば賃加工。製錬費と呼ばれる加工賃が収益の柱だが、これがドル建て。円高のしわ寄せをもろにかぶる」。

 国際価格の低迷で海外鉱山の閉鎖・休止も相次ぐ。鉱石の不足は逆に原産地側の発言権を強め、製錬費をますます圧縮。この悪循環から抜け出せない。

 国内にも問題を抱えている。日本の銅製錬は東西一カ所ずつで十分といわれながら、瀬戸内海沿岸だけで四カ所。旧財閥系の「瀬戸内四社」がパイを奪い合っている。長引く不況でそのパイもしぼみがち。大口の電線需要がNTT、電力各社の設備投資の手控えで不振をかこち、明るい材料は「半導体需要の回復」(同社)くらいだ。

 八方ふさがりの中で、収益改善の手立ては限られる。「その一つが産廃リサイクル」と西田プレジデント。子会社の小名浜製錬は既にシュレッダーダスト(自動車破砕くず)の処理を軌道に乗せている。

 「直島でも豊島産廃の処理がリサイクル事業の展開の弾みになる」と話す。

合理化の受け皿

 「豊島の産廃までは予測してませんでしたがね。産廃そのものにアレルギーはなかった」。製錬所労組の那須澄雄執行委員長は昨年八月、突然提示された直島処理案を冷静に受け止めた。「こちらが言い出しっぺでしたから」。

 平成七年、労組内に「21世紀の直島製錬所を考える委員会」を設け、雇用の安定につながる新規事業を研究。産廃処理の展開、既存分野の高付加価値化の二点を社に示し、実行を迫ってきた経緯がある。

 銅の精製は産廃の処理技術と重なる部分が多く<技術的な不安はない。産廃処理を新たなビジネスチャンスととらえ、非鉄産業の社会的使命として取り組むべきだ>と提言した。

 「ただね」と那須委員長は言葉を継いだ。「いろいろ検討しても結局、産廃しかなかった。離島の事業所が生き残るには、世の中が嫌がるものを受け入れなあかんということです」。

 最盛期千二百人を数えた組合員は今約三百三十人。この十年間で約百五十人減った。「三菱は生首を切らない」といわれ、定年退職者の不補充と配置転換で対処してきたが、その不文律もあやしくなっている。

 「五十人でも六十人でもいい。合理化の受け皿になってくれれば」。那須委員長は産廃処理に就業確保の期待をかける。

期待先行

 労使の思惑が重なって動き出す直島の産廃処理事業。三菱は県が設置するプラントとは別に自前の前処理施設をつくり、シュレッダーダストや廃家電など銅を含む廃棄物のリサイクルに乗り出す方針だ。

 県も全面支援の構えで、六月下旬には施設整備に国の補助が受けられる「エコタウン事業」の計画書を提出。「新たな環境産業の展開で、町の活性化につながる」と力を込める。

 だが、肝心の環境産業の見取図は今一つはっきりしない。「採算は本当に成り立つのか。事業リスクの説明もないまま公費がつぎ込まれようとしている」。住民の一人は「期待感だけが先行する」島の空気に不満を感じている。