自衛隊前のイチョウ並木(善通寺市南町)

2000年11月20日

赤と黄色の粋な通り

 「ここ数年は木々が弱っていたね。十四、五年前には勢いがあったのに…」

 善通寺市内でカメラ店を営む山本巌さん(64)は、ほんの十数年前をこう懐かしむ。昔の勢いを取り戻すには、通りを整備してからも十年くらいは時間が必要だと、すっかり小ぶりになったイチョウ並木を憂う一人でもある。

 錦秋の季節。各地の木々が色付き、山々や街並みが紅葉で彩られるころ、善通寺・五重の塔を借景に自衛隊前の市道大門通りも一年で最も美しい季節を迎えていた。かつて駐屯地に居並ぶ赤レンガの建物には黄色が映え、カメラや絵画愛好者らに格好のロケーションを提供した。その通りでいま、世紀をまたぐ「街並み整備」が進んでいる。

歩道整備が急ピッチで進む市道大門通り。来春には、せせらぎとともに装いを新たにする=善通寺市南町
歩道整備が急ピッチで進む市道大門通り。来春には、せせらぎとともに装いを新たにする=善通寺市南町

 「十間道路」と呼ばれる通りは幅員約十八メートル、長さ約五百五十メートル。陸上自衛隊善通寺駐屯地の前を貫き、県道善通寺大野原線と総本山善通寺を結ぶ。

 急ピッチで進む工事は平成七年度から始まった「くらしのみちづくり事業」の一環。来春完成の予定だ。両わきにあった水路を暗渠(あんきょ)化、自衛隊正門付近にはせせらぎを配すなど、歩道部分を大きく拡幅した。下は周辺の赤レンガにマッチする浸透性のレンガ張り。元々あった四十八本のイチョウは可能な木々をすべて移植し、新たに若木も植え、六十四本にまで増やしたという。

 「モータリゼーションの時代は終わった。これからは道の持つ機能や性格に合わせた道づくりが必要。この通りは通過交通でなく、生活道。市民には憩いを、観光客にはバスで乗り付けるだけの観光から、歩くことで善通寺の歴史的街並みを楽しんでもらいたい」。宮下裕市長は道づくりの基本は車ではなく、「人が歩くことだ」と強調する。

歩道整備直前の市道大門通り
歩道整備直前の市道大門通り

 だが、広くなった歩道に当の歩行者から不満の声も少なくない。完成した歩道に乗り上げて停車する車。車道が極端に狭くなったから、こうなるとでも言いたげだ。

 そもそも大門通りのイチョウ並木は市内の片原町通りの柳とともに、市制が敷かれた昭和二十九年前後に植えられたという。

 市で道づくりに長年携わった北岡一男さん(64)によると、「メーン通りの片原町は銀座の柳を模して、こちらは霞が関のイチョウがモデルと先輩から聞いている。イチョウは病害虫に強くて育てやすい」が最大の理由だったとか。

 自衛隊が赤レンガの建物をこれまで大切に保存したことも、この通りの新たな整備に影響を与えたともいえる。赤レンガがなければ、片原町通りの柳がいま、ホルトの木に変わったように、イチョウも別の木に変わっていたかもしれないだろう。

昭和50年ごろの赤レンガとイチョウ並木(上野時生さん提供)
昭和50年ごろの赤レンガとイチョウ並木(上野時生さん提供)
地図

 北岡さんは言う。「赤レンガにイチョウの黄色。夢のある話じゃないですか。先輩たちが考えた街並みづくりへの意気込みだけは忘れちゃ、いかんでしょうね」。

 細ったイチョウが根付くのは、これから。歩行者もドライバーも、少し譲り合えば、この通りに新しい形のコミュニティーが生まれるはず。市では近く、市民から通りの愛称を募る計画だ。

文・山下 和彦(生活文化部) 写真・久保 秀樹(写真部)