どぶろく醸造(豊中町)

2000年10月9日

笠田の秋は濁り酒で

口開けのため、どぶろくを石うすにかける宇賀神社の氏子たち。芳純な香りが立ち込める=資料
口開けのため、どぶろくを石うすにかける宇賀神社の氏子たち。芳純な香りが立ち込める=資料

 芳純な香りが辺り一面に立ち込める。ここは「天下御免のどぶろく醸造」で知られる豊中町笠田笠岡の宇賀神社(大宮晃宮司)。三百年以上と言われる伝統を守り続けている。現在、どぶろくの醸造を行っている神社は全国でも約四十カ所にすぎず、四国では宇賀神社だけだ。

 「どぶろく」とは、発酵させただけの、かすをこし取らない日本酒。宇賀神社では春と秋の年二回、御神酒として醸造しており、春は伊勢神宮に奉納する。醸造用具は県の有形民俗文化財に指定されている。

 秋の醸造は毎年九月下旬に始まる。地元産の醸造米を境内の井戸水で研いだ後、薪の火で蒸して糀(こうじ)を加えて仕込む。杜氏(とうじ)による温度管理も重要なポイントだ。こうして約二十日後、香り高いどぶろくが完成する。

 宇賀神社御神酒奉賛会の十鳥光義さん(74)は長年にわたって醸造に携わる氏子の一人。「どぶろくは酸っぱいというイメージがあるけど、うちのは甘みがあってまろやかなんですわ」。自慢の一品の醸造法は「秘伝」だという。

秋祭りでは太鼓台の担ぎ手たちにもどぶろくがふるまわれる=豊中町提供
秋祭りでは太鼓台の担ぎ手たちにもどぶろくがふるまわれる=豊中町提供

 同神社のどぶろく醸造は過去に一度、中断の危機があった。日増しに戦時色が強まっていく昭和初期。お国のためにと米を供出する中で、「食べる米にも不自由するご時世に、酒造りはぜいたくではないか」という空気になった。

 この時、氏子たちが一致団結して支援組織を作り、お互いに米を出し合って醸造を続けることが決まった。奉賛会誕生の瞬間だ。戦争の世紀を乗り越える原動力は、伝統の灯を守る氏子たちのプライドだった。

 そんな珍しい伝統を生かして地域活性化の道を探ろうというユニークなイベントがある。九年秋に大分県大田村で始まった「全国どぶろくサミット」。どぶろく醸造の伝統を持つ全国の自治体が一堂に会するもので、今回は豊中町が舞台となる。世界遺産の合掌造り住宅で知られる岐阜県白川村や島根県平田市など六市町村の関係者が訪れる。

蒸した醸造米を混ぜ合わせる作業=豊中町提供
蒸した醸造米を混ぜ合わせる作業=豊中町提供

 本番を控えて準備作業も佳境に入った。サミットは十四日。笠田小でのパネル討論に続いて宇賀神社の境内で交流会がある。獅子(しし)舞や和太鼓、雅楽演奏、神楽舞を楽しみながら、全国からの来客に特製のどぶろくを味わってもらう趣向。

 サミットに備え、今年は例年の倍にあたる量を仕込んだ。「濁りのない心で醸した濁り酒。ぜひ多くの人に味わってほしいですね」。町の実行委員会も自信をもって推す「名酒」が、新世紀に向けた地域おこしの先導役になる。

 二十世紀最後の年。例年よりも少しにぎやかな祭りばやしに包まれて、笠田の秋は深まっていく。

文・黒島 一樹(観音寺支局)